俺くんのクリスマス
ガチムチダイナレスリング冬、雪空、聖夜。
厳しい寒さにもこの時だけは感謝するホワイトクリスマス。
イルミネーションに彩られた夜景を眺めながら愛するものたちと食卓を囲み、語らい合う。
そして夜が更ければ最愛のその人と閨を共にし睦み合う。
そんな最高な一日──────
「だったらよかったよチクショオオオオオオオオオオオッ!!!」
慟哭とともに拳を机に叩きつける。
彼らはダイナ"レスラー"なのだ。
年末、イベント、人気商売。
仕事の予定が入っていない訳もなく。
俺は寂しく一人きり。
「ふふっ、チキン冷めちゃった……」
一人きりなのはわかっていたため、誰かを待っていたわけではなく茶番を演じていたせいで冷めただけなのだが。
既に熱々とは言い難く少し硬くなったチキンレッグを独り寂しくもそもそと齧りながら、ぶどうジュースを呷った。
下戸なのに一緒に飲む相手すらいない中でシャンパンを開けるなど勿体無くてできたものではない。
「うううっ……仕事と俺、どっちが大事なのさぁ……」
半分以上本音なのだが、こうやって演技を入れて茶化しでもしなければ耐えられたものではない。
それでも一人芝居。
誰にも届かない声は飾り付けられた部屋の虚空へと吸い込まれて消えてゆく。
虚しい。
とても虚しい。
「よっし、もうケーキ食べちゃおう。 俺だけで勝手に食べちゃうもんねー」
一応皆が帰ってくるまでの数日ぐらいはもつケーキだが、それを待たずに一人で切り分けてしまおうと席を立つ。
冷蔵庫からケーキを取り出し、マジパン製のサンタクロースとトナカイを先に取るのははばかられたためそこは避けて切り出して皿に盛り、テーブルまで戻る。
「はぁ……」
ため息が漏れた。
ケーキが乗った皿を所在なさげにカツカツとフォークの先で突き続ける。
いくらテンションを無理に上げようとしても楽しくないものは楽しくない。
こんな気分の中での食事は味すらいつもより数段下がって感じられ、それがまるで食品を無駄にしているような居心地の悪さで一層苦痛を深めてしまう。
目の前に誰もいない食卓とはここまで寂しいものだっただろうか。
賑やかな食卓に慣れ切って、いつの間にこれほど孤独に弱くなってしまったのだろうか。
ついに耐えきれなくなり、気づけば愛する者の名を叫んでいた。
「パンクラトプス〜〜〜〜〜っ!!!」
「呼んだか?」
あるはずのない応えが返ってきた。
「え?」
「忘れ物取りにきただけだ、タクシー待たせてるからまたすぐ出るぞ」
スポーツバッグ片手に、リング衣装に上着だけを羽織った姿のパンクラトプスがそこにいた。
「えっ、何これ夢?」
「随分と寂しい思いをさせちまったみたいだな」
余りにも現実感のないその姿に呆けていると、顎に指を添えられ、唇を奪われた。
暖かな舌先の温度が、これは現実だと主張している。
「ホントに時間ないからこれだけで勘弁な、埋め合わせはまた今後付き合ってやるから」
そう告げて颯爽と踵を返し姿を消すパンクラトプス。
唇に残る感触だとか、寂しさからの奇行を見られた恥ずかしさだとか、余りにも格好良すぎたパンクラトプスの所作だとか。
そんなあれこれが一気に押し寄せて顔面が沸騰した。
思考力が吹き飛んだまま半ば自動的にケーキを口に運ぶ。
それは人生で味わったどんなケーキよりも甘く感じられた。