俺くんとパンクラがイチャイチャするだけ
ガチムチダイナレスリング「パンクラトープスっ!!」
胸めがけて飛び込んでくるあいつを抱き止めて、そのまま勢いを殺しつつ優しくベッドに倒れ込む。
仰向けになった俺の上で、胸板に頬擦りしながら緩み切った顔が幸せそうな声を漏らす。
「ふへへっ……」
「まったく、何が楽しいんだか」
「わかんないかなぁ?」
「男の胸なんてそんないいもんでもないだろ」
「そっか、パンクラトプスは巨乳好きだもんね」
「今それは関係ないわッ!」
「うーん、確かに俺ばっかりパンクラトプスに甘えてばっかりで俺の方からパンクラトプスにお返しできてない気がする」
「えっ、いいよそんなの気にすんな」
「まあまあ、折角思い立ったが吉日だし、ほら」
身体を起こしてベッドの上に正座して手を広げるあいつ。
「パンクラトプスも俺の胸に飛び込んでおいで」
「いいよ恥ずかしい」
「俺とパンクラトプスの仲で今更恥ずかしいとか意味なくない?」
「恥ずかしいもんは恥ずかしいの」
「いいじゃんちょっとだけ! 先っぽだけ!」
「何でそんな必死なんだよお前」
こうなったらいくら言っても聞かないことはわかっているため早々に諦め胸に頬を当てた。
角やらフリルやら巨大な頭部のパーツが当たらないようにするのに随分と気を使う。
「どうかな?」
「あ〜…………意外と悪くない、かも?」
「そっかそっか、よーしよしよし」
「いやなんで撫でるんだよ、子ども扱いやめろ」
「パンクラトプスだってこういうとき頭撫でてくれるじゃん」
「それもそうか」
言いくるめられた訳ではないが過度に抵抗するのも何故か憚られ、角と角の間の額部分を撫でられるに任せる。
案外心地いいやら恥ずかしいやらで顔が熱いが一旦受け入れてしまった以上は仕方ない。
こいつが飽きるまでは付き合ってやろうとそういう理由にすることにした。
自分から求めてしまう感情を肯定する勇気はまだ今の俺にはちょっとだけ足りない。
「ついでだし膝枕もしてあげようか?」
「ハァ……こうなりゃとことん付き合ってやるよ」
「嬉しくない?」
「はいはい嬉しい嬉しい」
「もう、素直じゃないなぁ」
馬鹿な意地の張り方とは思うが俺はまだ男らしさを捨て切れないんだよ。
俺の巨大な頭部には小さすぎる膝に仰向けに寝転がる。
もう膝枕というか、何とか頭の後ろに膝を潜り込ませたような状態ではあるが、こうして上から顔を眺められるのは何とも言えずむず痒い。
膝の面積の狭さ故に頭部を動かし視線を切るような余裕もないため、再び熱くなる顔面を自覚しながら目を閉じて視界を塞いだ。
その額に優しく乗せられる手。
人間の基準ではどうかわからないが、少なくとも俺からすればそれは男の指としては細長く柔らかい。
俺の顔なんて鱗でゴツゴツして触り心地なんて良くもないだろうに、飽きもせずひたすら手のひらを柔らかく滑らせ続けている。
今のあいつはどんな表情をしているのだろうか。
いつもの悪戯っぽい笑みか、手のひらの印象通りの柔らかな微笑みか。
しかし、気になるもののここで目を開くのも躊躇われる。
開いた瞬間にこの時間が終わりを告げるかもしれない。
そのことが少しもったいない。
結局はすぐそこにある表情を妄想して悶々としながらも、できるだけ長くこの時間が続くよう目蓋を力強く閉じて祈り続けている。
頼めば幾らでも喜んでまたしてくれるに違いない。
だがこんなことを自分から言える気がしない。
キングやアンガのように軟派ならば男に甘えることへの抵抗もないのだろうか。
そう考えると少しだけあいつらが羨ましく思えてくる。
たかが膝枕にこれほど必死になっている滑稽さをそのときは自覚することもできず、微睡むようなこのひとときを全力で享受しようという努力の方向音痴はあいつが足の痺れを訴えるまでしばらく続いたのであった。