信じて送り出したアシュヴァッターマンが夢魔に誑かされるだなんて

信じて送り出したアシュヴァッターマンが夢魔に誑かされるだなんて


カルデアという場所は前までならともかく今となっては滞在しているサーヴァントの数も増え、同じ屋根の下に居る仲とは言え知らない顔もそれなりに居る。

特に、アーツバスタークイック……戦闘スタイルが違えば意識して顔を合わせる事がほぼないサーヴァントも少なくない。

だから、レディアヴァロンと言う女を俺は目で追ってしまうがあっちは俺のことなどよく知らない男でしかないだろう。


どうしてこんなことになっちまったのか。あるいは何かの呪いか、それとも罰か。

我が身は憤怒の化身なれば、相手が例え夢魔であろうと魅了されるなぞあるはずがないというのに。


というのに……!


すれ違えば目で追ってしまうし、挨拶だと手を振られれば普段のように対応するでもなく小声で挨拶をし力なく手を振ってしまうような有様だし、ともかく自分で制御のできない自分が増えている。

魔術的な作用ではない事は神に誓って断言できる、神が与えたもうたこの身体を疑うようなことも無い。

呪いであれば解けばいい、魔術であれば跳ねのければいい。

だからこそ困る、こんな……こんな、思春期のガキみたいな感情などどう処理したらいいのかまるで分からねえから。

ある種の人ではないが故のタチの悪さがむしろ輝いて見えるとは俺もヤキが回ったとしか言いようがねえ。助けてくれ誰か。

日を追うごとに悶々とした痺れるようなLAへの感情が、もうどうにも困ってしまいとうとう溜まりかねて知己である二人に相談しようと思う。

そう決心して二人が駄弁っているだろう食堂への道のりを決心に満ちた足取りで歩く。


「やあ」


どうしてこうもタイミングが悪いんだよ全部!

輝く白い花のごとき微笑と花の香を纏いながら、その当の本人であるLAが曲がり角から現れたもんだから挨拶を返す事もできずギクリと固まってしまった。


「挨拶くらいは返して欲しいな」

「あ、ああ……おう」

「ふふ、なんだい?いつも私を見ていたのに、いざ話すとなると言葉に詰まってしまうかい?」


清楚な見た目から繰り出される蠱惑的な笑みと、確信をついた発言に胃の底が浮き上がるような何とも言えない羞恥心があふれ出す。

バレてないと思ってたことがバレてる事ほど恥ずかしいことも中々無いだろう。

俺の慌てふためく無様な姿を一通り見て満足したのか、LAはさっさと夢が覚めるがごとく退散してしまった。

その引き際の良さに、手を伸ばしどころが分からなくなってしまった。


怒りによく似た、羞恥心ともっとそれに寄りそうも違う感情が暴れようと心の炉に薪をくべる。


惚れるとは、こういう事なのだろう。この浮き上がるような暴れまわりたいような感情こそが、きっとそうなのだろう。違いない。

悪辣な手腕でより惚れこんでしまった己自身に全力で怒りたい気分を抱え、そしてその気分そのものの解決を乞うために俺にできることはカルナとドゥリーヨダナの旦那のいる場所に急ぐことしかできなかった。



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