保安部の語らい ハララ編
「Violet for you will not ever wither」
語らい1
ヤコウ「前々から聞きたかったんだけど、ハララってそんなに飴が好きなのか?」
ハララ「藪から棒にどうした」
ヤコウ「いや、気になって。いつも持ち歩いてるだろ? なんでそんなに好きなのかなって」
ハララ「……仕方がない。千シエンだ」
ヤコウ「金取るんだ……」
▶︎払う
ヤコウ「あー、今財布に五千シエンしかないな。ハララ、両替できるか?」
ハララ「冗談だったんだが……くれると言うのなら、ありがたく頂くぞ」
ヤコウ「冗談かよ! わかりにくいなぁ」
ハララ「あぁ、ちなみに両替するならその分の手数料は頂くからな」
ヤコウ「それはちゃんと取るんだ」
▶︎払わない
ヤコウ「じゃあいいや」
ハララ「…………。冗談、だったんだが……」
ヤコウ「冗談かよ、わかりにくいなぁ。ハララはしょっちゅう金を請求するから本気かと思った……」
ハララ「……まるで僕がことあるごとに金をせびる金の亡者みたいな言い方だな、部長」
ヤコウ「……ええっと……………ごめん。ハララを怒らせない返答を考えるための時間、貰っていい?」
ハララ「はぁ……。語るに落ちているじゃないか」
▶︎沈黙は金、って言うよな
ヤコウ「…………………」
ハララ「おい、部長?」
ヤコウ「沈黙は金って言うだろ? オレは黙っておくから、ハララは独り言って体で話してくれていいんだぞ?」
ハララ「一体何を言っているんだ部長は……。さっきのは冗談だ」
ヤコウ「なーんだ」
ハララ「飴の話だが……親友から、糖分は頭に良いと聞いて食べるようになったんだ」
ヤコウ「ふーん。確かに昔、脳が疲れた時はブドウ糖がいいとかCMで観たような……。好きっていうか実用的だから食ってるって感じなんだな。けど……あれ? けど最近は薄荷飴をよく食べてないか? オレにくれるのもそれだよな?」
ハララ「……中学生だった僕は頭を使うからと四六時中飴を食べていた。その結果、糖分のとりすぎで気分が悪くなった」
ヤコウ「あらら。今のハララからは想像もつかない失敗だな」
ハララ「それ以降僕は甘い飴をアンガーマネジメントのために食べるようになった。以上だ」
ヤコウ「……ああ、そう言うことね」
ハララ「……なんだ、その顔は。言いたいことがあるなら言え」
ヤコウ「いやぁ、やっぱりハララ、可愛いとこあるなぁって」
ハララ「……」
語らい2
ハララ「ふふ……遠くから見ても、猫は愛らしいな。いつも元気をもらっているよ……」
ヤコウ「……ハララ?」
ハララ「! ……いつから見ていた?」
ヤコウ「いや、ちょっと前からだけど。曲がり角曲がったらハララがいたから声かけようと思って……」
ハララ「何が目的だ? 金か?」
ヤコウ「え、何!? 何の話!?」
ハララ「惚けるな。見たんだろう。僕が猫に語りかけているのを」
ヤコウ「ああ、うん……」
ハララ「まさか……こんな形で僕の秘密がバレてしまうとは。が……バレてしまった以上は仕方がない。潔く認めよう」
ヤコウ「えーと……認めるって言うのは……」
▶︎ハララは猫が好きってこと?
ヤコウ「ハララは猫が好きってこと?」
ハララ「………………そうだ」
ヤコウ「いや……知ってたけど……」
ハララ「……何? どう言うことだ!?」
ヤコウ「だってさ、左遷の理由が猫を虐めていた上司を蹴り飛ばしたからだろ? そりゃ、猫好きなんだなって思うだろ」
ハララ「…………」
ヤコウ「……ハララ?」
ハララ「そう、だったのか……」
ヤコウ「すごいショック受けてる……」
▶︎ハララは猫と喋れるってこと?
ヤコウ「ハララは猫と喋れるってこと?」
ハララ「……もし、そうだったら、どれほど良かったか……」
ヤコウ「ど、どうしたハララ。そんなに悲しそうな顔をして」
ハララ「なぁ、部長。思わないか? もしも僕たち人間が彼らのことを聞くことができれば、どれほど彼らに尽くすことができるのかと……」
ヤコウ「ええっと……」
ハララ「僕達は、これだけ科学を発展させ栄えてきたと言うのに、いまだに猫や、人類に寄り添ってくれた友人である犬と完全に意思疎通を行うことができない。なんて嘆かわしいんだ。彼らはこんなにも支えてくれている……その上に、その姿で癒してくれていると言うのに、無力な僕達は彼らが何を望んでいるのか理解することさえできないんだぞ?」
ヤコウ「そ、そうだね」
ハララ「これは人類全てが受け止めねばならない重大な課題だ。部長もそう思うだろう?」
ヤコウ「う、うん……とりあえずハララが猫と犬好きってことは十分わかったかな……」
▶︎ハララは猫ってこと?
ヤコウ「ハララは猫ってこと?」
ハララ「………………この街一番の眼科を紹介しようか」
ヤコウ「ジョークだよ! ジョーク!」
ハララ「言っておくがつまらないぞ」
ヤコウ「言葉の切れ味が鋭すぎない!?」
ハララ「僕の姿をどう見たら猫になるんだ。全然違うだろう」
ヤコウ「はい……」
ハララ「猫の姿は全てにおいて完璧だ。この世に猫以上に愛らしく完璧な造形は無い。僕は神など信じてはいないが……もしも神が実在するとしたらいちばん力を入れて造形されたであろうもの、それが猫だ。あろうことか、僕が完璧な存在たる猫だなんて……」
ヤコウ「はい……。ハララは猫好きって素直に言わなかったオレが悪かったです。許して……」
ヤコウ「けど、そんな必死に隠すことじゃ無いだろ、猫好きなんて」
ハララ「……僕みたいな人間が猫好きなんて意外だろう。だから隠している」
ヤコウ「そうか。気にしなくてもいいと思うけど……ハララが気になるって言うなら無闇に吹聴しないから安心してくれ」
ハララ「……恩に着る」
ヤコウ(とは言ったものの……ちょっとハララと過ごしたらすぐにバレるよな……あれで隠してるつもりなんだもんなぁ)
語らい3
人懐っこい猫「にゃーん」
ハララ「ふふ……今日もまた、僕を癒してくれてありがとう……。さぁ、身体が冷えないうちにおかえり」
ヤコウ「あれ? ハララ。お前猫アレルギーなんだろ? 猫と遊んでたみたいだけど、大丈夫なのか?」
ハララ「あぁ、今日みたいな雨の日はアレルゲンが沈むからか、症状が出ないんだ。直接触らなければ大丈夫だ」
ヤコウ「へぇ、花粉症の人が雨の日は割とマシみたいなやつか? じゃあ、ハララ的にはずっと雨が降ってた方がいいわけだ」
ハララ「そんな訳ないだろう。雨になれば多湿状態になりカビや菌が繁殖しやすくなる。猫たちの健康被害が出る」
ヤコウ「なるほど、そこまで猫のことを考えているんだな。なのに、猫アレルギーなのか……」
ハララ「全くだ。僕が何をしたって言うんだ……」
ヤコウ「完治しないって言うのがまた悲しいな……。うーん。直接触れ合う以外に猫を感じることができるものってないかな……」
▶︎写真とか
ヤコウ「写真とかどうだ?」
ハララ「あぁ、写真ならたくさんある。僕はこの子がお気に入りだ」
ヤコウ「持ち歩いてるの!?」
ハララ「流石にほとんどクラウドに保存している」
ヤコウ「おお……すごい量だ。けど、絵は無いんだな。なら……」
(「▶︎ポストカードとか」に進む)
▶︎ポストカードとか
ヤコウ「ポストカードとかどうだ?」
ハララ「それは……良いな。よし。可及的速やかに郵便局へ行くぞ、部長」
ヤコウ「あぁ」
▶︎猫の鳴き声のCDとか
ヤコウ「猫の鳴き声のCDとかどうだ?」
ハララ「あぁ、猫の鳴き声か。それならたくさんある。部長も聞くか?」
ヤコウ「え、本当にあるんだ。なんだこれ、猫エンジン……?」
ハララ「猫がゴロゴロ鳴いている時の声をこう呼ぶんだ。部長も聞くか? 猫を感じることができるぞ」
ヤコウ「うわ、六十分もある……。えっと〜……もっと気軽なやつがいいんじゃないかなぁ〜。例えば……」
(「▶︎ポストカードとか」に進む)
ヤコウ「郵便局なんて久々に来たな」
ハララ「…………やはり絵になっても猫は可愛らしいな」
ヤコウ「良かった良かった。そうだ、せっかくだから誰かに手紙でも書いてみれば?」
ハララ「手紙……?」
ヤコウ「誰かに気持ちを伝えるのに手紙はピッタリだろ。ま、今じゃメールなんかがあるけど手紙を書くのも乙ってもんだ」
ハララ「……検討しよう」
語らい4
ハララ「………………」
ヤコウ「よ、ハララ。どうしたんだそんなに悩んで」
ハララ「………………部長か」
ヤコウ「あれ? それオレがこの間買ってやったポストカードか。誰かに送るのか?」
ハララ「そのつもり、なんだが……」
ヤコウ「……例の親友の子?」
ハララ「よく、わかったな。あいつとは酷い別れ方をしてしまったから、何を書けばいいのか……。そもそも僕が送ってもいいものかと思ってしまって」
ヤコウ「……」
▶︎送るべきだ
ヤコウ「気まずいかもしれないけど……送るべきじゃないか?
ポストカードを買おうって言った時点で、親友の子に送ろうって思ったんだろ? なら、送ればいいんだ。もしも相手が嫌だって思ったら返事は来ないだけだし、嬉しかったら返事をくれる、それだけだよ」
ハララ「……」
ヤコウ「気負う必要はないさ。ハララが伝えたいことを伝えればいいよ」
▶︎送らないほうがいいのでは
ヤコウ「オレが送らないほうがいいって言ったところで、関係ないだろ?」
ハララ「部長……」
ヤコウ「ハララが後悔しないようにすればいい」
▶︎…………
ヤコウ「……突き放すような言い方になるけど、オレには何も言えないよ。ハララが選んで決めないと」
ハララ「……あぁ」
ヤコウ「たとえ間違っててもいいさ。最終的にハララが胸を張れることをすればいい」
ハララ「……そうだな」
ヤコウ(ハララは頷くと、再びペンを取り、ポストカードに向かった。邪魔をするわけにいかない。オレは缶コーヒーをテーブルに置いて、そっと保安部室から出た)
語らい5
ハララ「部長」
ヤコウ「どうした? ハララ」
ハララ「……手紙の件だ。あいつから返事があったんだ」
ヤコウ「そうか! 良かったな」
ハララ「積もる話があるから、良ければ会おうと。……学生の時以来だ。お互いの予定を言い合って、スケジュールを組むなんて」
ヤコウ「……うん」
ハララ「あいつと直接会って、どんな話をしたのか……どんな結末になったか……部長に一番に伝える」
ヤコウ「光栄だけど、オレが聞いちゃって良いのか?」
ハララ「僕が、そうしたいと思ったんだ」
ヤコウ「……わかった」
ハララ「あいつと会うのは『最重要実験』の翌日だ。可及的速やかに仕事を片付けて、会うための準備がしたい。手を貸してくれ、部長」
ヤコウ「ああ、もちろん」
ヤコウ(ハララから差し出された手を握る。細くて暖かい手だ)
ハララ「それと、礼を言わせてくれ。本当に……ありがとう」