便利屋-くうちゃん同盟
マコト議長が帰ってから、一時間後。ムツキがようやく正気を取り戻したころだった。
便利屋68は……というより、私とくうちゃんは、今、危機に瀕していた。
「アルちゃん、くうちゃん。正座」
その言葉の圧に、私とくうちゃんは、なにを言い返すこともなく、その場で直ちに正座する。
目の前にいるムツキは、威嚇するようにこちらを見ていた。
「……説明して」
その後ろには、同じようにいつもよりも怖い顔をしたカヨコ。
「アル様……、くうちゃん……」
更にその隣にいるハルカは、流石にそういった様子じゃないけれども、それでも状況についていけないようで。
……流石にみんなの前でキスしたのは、不味かったかもしれない。
しかも、ちょっとアウトローだからって前に洋画で見たようなキスを。
でも、この空気のままだと、話しあいなんて、できない。
「え、えっと……皆、おちついて」
「りっちゃんから告白してくれて、私がOKしたの。みんなへの説明が遅れたのはマコトみたいな子がいるからしばらく隠そうとしていたから」
一旦落ち着かせて、こうなった経緯を私が話す間もなく、くうちゃんは言葉を入れる。
当然、沈黙がオフィスに流れる。
「アル様から……」
「告白」
三人の視線が私にむけられる。
普段よりも、ぴりついた視線に、私の肩がビクン、っと跳ねる。
「ねぇ、アルちゃん。……ほんと?」
「は、はい、ほんとです」
耳元でささやかれる声に、敬語で答えてしまう。
「「「……」」」
三人の沈黙が、肌にひりつく。
自分がやったこととはいえ、辛い。
けれど、
「そっかー!よかった、じゃあくうちゃんの条約違反じゃないんだね?」
顔を上げたムツキの表情は、先ほどまでとは打って変わって普段と変わらないような笑顔で、
「……へ?」
私は困惑に、間抜けな声を上げてしまった。
「当然。同盟を結んでいるのに裏切ったりはしない。万魔殿でもあるまいし」
条約?何それ、と思う私の横では既にくうちゃん立ち上がり、当たり前のように、三人でどういったことをしたのかなどを共有し始めていた。
「え、ちょ、ちょっと……!?な、なん……」
「もー……分からない?アルちゃん」
頬に、触れる、柔らかい何かの感触。
「アルちゃんのことが好きなのは、くうちゃんだけじゃないんだよ?」
それが、何の感触か。
私は、ムツキの目を見るまで、理解できなかった。