使い魔タヌキの受難

 使い魔タヌキの受難


使い魔であるスレッタの朝は早い。

毎朝日の出と共に起き、簡単な身支度を整えると、その日一番の朝露を小瓶に集めることから始まる。

朝露で満ちた小瓶の封を締め、月の欠片をはめた小箱にしまう。その後は簡単な朝食の用意をするのがスレッタの朝の仕事だ。偉大なる魔法使いの一人である、(少なくともスレッタはそう思っている)エランがやって来るのを待って、一緒に食事をとる。そうして、やっとスレッタの一日が始まるのだ。

使い魔になりたての頃は、人間の料理などしたことがなかったのでエランを困らせたものだが、今では大分上手にできるようになったと思う。それもこれも、主たるエランが根気よく教えてくれたおかげだ。

あまり変わらない表情と、素っ気ない態度のせいで誤解されやすいが、赤く染まった毛色のせいで仲間から拒絶されひとりぼっちだった彼女を拾い、使い魔にしてくれた優しいエランのことが、スレッタは大好きだった。

そんなエランの役にたつため、寝床として用意してくれたかごから出て、いつものように人間の姿になるために、力を込める。いつもなら、すぐに体が光に包まれて人の姿になるはずなのに何もおきない。なにかがおかしい。

もう一度、体に力を込めるも変わらない。

「キュー(ど、どうして!?)……キュ?(えっ?)」

それどころか、人の言葉まで失っているではないか。

使い魔になった時に、そのままでは不便だろうと、タヌキの姿のままでも人の言葉を話せるようにして貰った筈なのに。

「キューキューー!!(どうしようどうしよう!このままじゃ、お仕事ができない)」

「どうしたの?スレッタ」

慌てふためきながら部屋の中を駆け回るスレッタに声をかけたのは、大好きな魔法使いだった。

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