作り直した不要品
こういう事もあったんじゃないかなと思った結果、あんまりないから私が読みたくなって書いちゃっただけのちょっとした話
ノベルローのネタバレあり、というかノベルローのネタしかないどころかIFロー出て来ない
一部捏造あり
一年の4分の3が雪の降るスワロー島で、天才発明家を自称するヴォルフは作業に一区切りついた所で休憩と買出しがてらに街に出た
自作のバギーに乗って雪の積もっている道を突き進む
昔はこのバギーに三人と一匹を乗せて走ったな、等と懐古すれば他の記憶も掘り起こされる
初めて出会った時の事から何でもない日々を過ごした事、己の家族との決着をつけた時の事を今でも、まるで昨日の事のように思い出せる
海賊として島を出て行った彼等の事は新聞を通して見守っていた
何処でどんな活躍をしたか、それを見る度に自分も負けていられないと発明に勤しんだ
そんな事を考えている間にプレジャータウンに到着した
心の優しい住民ばかりで日々賑わいを見せる街は、いつものように人々が表に出て忙しなくしている
しかしその賑わいは普段と異なる物であると気が付いたのはヴォルフが住民に話し掛けられてからだった
「ヴォルフ!」
島の駐在のラッドはヴォルフを見付けた瞬間に新聞片手に走り出し、停車したばかりのバギーのボンネットに手を掛ける
あまりの慌てように何かあったとすぐに理解したヴォルフはすぐにバギーから降りた
「何じゃ一体、何があった?」
「新聞見てないのか!?」
「これから買う予定じゃった」
状況を理解出来ないヴォルフに、ラッドは自分の持っている新聞を押し付けるように手渡した
何をそこまで慌てているのかと新聞を見れば、1ページ目の、まるで自分を見ろと主張するかの様に大きく書かれた見出しが真っ先に目に入る
『ドレスローザ王国崩壊!麦わらの一味、ハートの海賊団壊滅!!』
知っている名前がそこにあった
かつて共に過ごした三人と一匹が旗揚げをした海賊団の名前だ
『首謀者の死の外科医トラファルガー・ロー、麦わらのルフィは、現ドレスローザ、国王ドンキホーテ・ドフラミンゴによりその場で処刑され…』
そこから先に目が進まない
そんなヴォルフの状態を知ってか知らずか、ラッドは話を続ける
「別の島にいた他の奴等も皆、殺されたって……」
呆然と、冷たく淡々と文言の書かれた新聞を、読むでもなく見詰めていた
その内住民が何人か集まって来れば、皆ヴォルフを心配する言葉を掛ける。が、ヴォルフは何も言わずに新聞をラッドに返した
バギーの扉に手を掛ければ、開いてそのまま乗り込む
「ふん、何かと思えば。海賊なんじゃ、いつ何処で死ぬかもしれんのは分かっておったろう。あいつ等もそれは覚悟してた筈じゃ」
「ヴォルフ!何だよそれ!」
掴みかかりそうなラッドを他の住人達が慌てて止める
バギーのエンジンをかけてそのまま走り去るヴォルフを、ラッドは拳を握り締めて見詰めていた
「何だよヴォルフの奴!悲しくないのかよ!!」
「落ち着いてラッド、悲しくない訳ないじゃない」
「だったら何で!」
「あいつが、ヴォルフが俺達の前で弱いとこ見せた事あったかよ」
皆が宥めて漸く少しラッドの怒りも落ち着いて来た。冷静になれば今の怒りは唯の八つ当たりだった。遠い場所で、自分達の命を賭けて戦った彼等に何も出来ない自分に対しての怒りを、同じように動揺しないヴォルフにぶつけていただけだった
買出しの為に寄る店で何度も新聞の話題を出され、その度に同じ様な返答を繰り返したヴォルフは、帰って来て早々にダイニングテーブルの上に酒とグラスを出した
真っ昼間から何をしているんだと昔だったらどやされただろうが、生憎と今は一人暮らし。何より手向けの為の酒だ、文句は言わせないと心の中で呟く
グラスに注いだ酒をグイと一気に飲み干せば、普段飲まないせいか喉が熱くなって少し咽せた
思えばこのダイニングテーブルで全員揃って飯を食う。それがあの頃の決まりだった
いつも騒がしくて落ち着きのない連中だった
偶然出先で見付けた死にかけの子供を助けたら、今度はその子供がシロクマを連れて帰って来た
かと思えば、大怪我を負った子供二人を連れ帰って来て、何だかんだと四人と一匹で暮らす事になって
今でもよく覚えている
目を瞑る必要も無いくらいにすぐに思い出せる
皆で食事をとった時の事も
友達になった時の事も
初めてあだ名ではなく名前で呼ばれた時の事も
街の皆で送り出した時の事も
ヴォルフ自身過去に海賊だった事もあり、死ぬ可能性がある事は百も承知で送り出している
それを後悔はしていない。そもそも彼等の意思での船出だ、後悔なんてする訳が無かった
だが一言だけ言いたい事があった
「こんな老いぼれより先に逝きおってからに、あのクソガキ共……」
ポタリとテーブルに水滴が落ちた
それは酒の入ったグラスの結露か、はたまた別の物かヴォルフ自身分からない
分かるのは、いつか帰って来る成長したであろう彼等に合わせて作り直したこのダイニングテーブルは、ヴォルフ一人で使うにはあまりにも広すぎる事だった