何某
思い出せない。
自分が何者だったかを。
ただ、ここにいるべきではなくて、何かとんでもない事をしでかしてしまった気がする。誰かと約束をしていた気がする。誰かを犠牲にしてしまった気がする。
蔑ろにした誰かのこと。
朗らかなあの人のこと。
覚えているはずの自分のこと。
名前も、容姿も、感情も、記憶も何もかもが分からない。
ならば、自分で名づければ良いのか。
だが見合った名前なんて知らない。
どこにも居ない、存在しない名前を作れば良いのに、自分の名前を思い出したくて躊躇う。
思い出したい、誰かのこと。
思い出したい、自分のこと。
わかるのは、“あのこと”だけ。
ならば、そこへ行けさえすれば、分かるかもしれない。
調べていけば、いずれ紐解いて分かる日が来るかもしれない。
ならば、やるしかない。
自分のために。