何かあったルート 魔王の制裁
ω゜)レッドフォース号の船内にてウタはシャンクスと対峙していた。
「ウタ……本気なんだな」
彼女がなぜサニー号ではなくこちらにいるのか。
ディスコ達を負かした後、全関係者を取り押さえて海軍に引き渡す。ただそれだけで済ます話だった。
場所が何もない島なために海軍を呼ぶことは難しく、引き渡すにはこちらから出向かわなければいけない。ゆえにサニー号にもある程度協力した海賊たちや浚い屋を乗せている。
そしてウタはルフィとミライに理由は告げずシャンクスの船で海軍に引き渡しをすると伝える。
サニー号に全員載せれない事は無いが手狭になるし子供たちに悪影響だ、正直あまり見せたくない。
ルフィの所には基本海賊たちや会社の下っ端達を乗せる。(その際、クロと側近のAと名乗った社員もサニー号に乗せられた)
そしてレッドフォース号には……今回の発端、ニコニコデリバリーのトップと実際に計画を企てた幹部達が載せられている。
シャンクスの表情は苦く、だが彼女の言葉を待つ決意を持ったもの。
「ルフィはさ……敵の信念を折って相手に敗北を刻み込んだ。それで終わりっていうスタンスなんだよね……別にそこは良いの。そういう所も好きだし……でもね」
その時、ウタの瞳に一瞬ドス黒いものが浮かぶ。
「私は無理。海賊の蛮行としても……こればかりは無理、大事な……私とルフィの大事な宝物を奪って、謝るどころかのうのうと悪態突くアイツらが許せない。
人としてのケジメも何もなくて当たり前っていうアイツらをこのままにしておきたくない」
「…………」
黙って聞いてシャンクスは目を閉じた。今のウタは正直心が荒んでいる、無理もない……可愛い娘が攫われて子供たち全員を不安にさせたのだ。
もし自分だったら?例えばウタが8歳の時に攫われて、下卑た笑いを浮かべた奴等の手に触れられてたら……恐らく、この剣で八つ裂きにしてる。
「わかった……だが、無理はするなよ」
「うん」
親から子への安全だけを念押しして、ウタはレッドフォース号の奥にある敵船員を入れておくようの牢屋へ赴く。
「ほら、ウタ」
「ありがとう」
その途中にホンゴウから二つの薬を受け取る。
「赤い方が不眠薬、んで青い方がその解毒薬だ。毒性は無いが体調を崩すこともありえる……悪いが船医として隣で見張りをさせてもらうぞ」
「そう、だよね……」
本当は一人で行いたかったけど、仕方ない。ホンゴウだけ自分の見張りをさせておく。
(こんな所、ルフィに見られたくないからなー……ミライにも知らせたくない)
レッドフォース号に乗る前にルフィにだけ伝えた言葉がある。
「ルフィ、ちょっとだけ……赤髪海賊団のウタに戻るね」
それだけ……ルフィは頷いてくれたが、まさかこれからやることまで察してはいないだろう。
「くっそ……くっそ!…!?なんだ!まだなんかあんのか!?」
「海賊王にしてやられたぁ!まただ!また俺達はこんな目に!」
「新時代がなんだ!海賊が大海賊時代を望んで何がわるい!!」
ディスコを始め、悪態をつく社員や海賊たち。その言葉を聞いてウタは決意する。
もはや慈悲もない。
「……止めた。最後にごめんの一言でもあれば考えたけど……もういいや」
赤い薬を飲む……それはネズキノコの副作用や毒性を取り除いた、不眠効果のみを身体に与えるモノ。
「ああ!?」
「今時人攫いがなんだってんだ、こういう稼業もなぁ需要と供給があんだよ!」
「お前はただ海賊王がバックについてるから助かっただけだ!ここを出たらお前は」
「黙れ」
その瞬間、牢屋の中にいた約50人の悪人達は寒気を覚えた……ライヴや電伝虫で見た歌姫ウタの姿はもうそこにはいない。
感じる殺気、オーラとも言える気迫……今目の前にいる女性は歌手という言葉でくくれない何か。
「~♪」
歌声が響く。それが……人攫いと極悪海賊達に起こる地獄の始まりだった──
ホンゴウは冷や汗をかいていた。耳栓をしてたのでウタワールドに引き込まれはしなかったのだが……目の前の惨状もまた現実だとは思えない光景だった。
牢屋の中の連中が全員泡を吹いて、身体をガクガクと震わせている。
悪夢を見ているなんて生易しい表現では到底現わせられない、いったいどんな夢を見せれば現実の身がここまで震えることになるのだろう……。
「……母親は強し、いや恐ろしってことか」
──ウタワールド──
「ぎゃぁぁぁああああああ!?!?!?!!」
「止めてくれー!!!やヴぇ!て!!yヴぁちぇ……ぐぼあぁ!?」
「俺が悪かったぁ!!だがらヴぉう!……げヴぁぁぁ!!?!」
地獄とはまさにこの光景のことを言う。
ギロチンが落ちる、四肢を引っ張る猛牛が走る、頭から強酸をかけられ、電撃が身体をめぐる。
世界にあるあらゆる刑罰、死刑方法を試しに試し、此度の罪人たちを容赦なく処刑してく。
だが……死ぬことは無かった。
ウタワールドでの死は現実でも死ぬ可能性がある。精神の死ということで植物状態になる可能性もある……。そんな結末(慈悲)は許さない。
だからウタは一つの計を執行した後に完治させ、気絶を許さずにゆっくりと罪人の身体を甚振っていく。
「だ、大丈夫だ……ふぇへへ、この能力は……いつまでも、じゃない……」
「そ、そうだ、いつか……寝る、はず」
「それま、で……しん、ぼう」
罪人たちの微かな希望、それはウタウタの実の能力の活動限界。二つの世界に意識を向けて想像通りにことを運ばすには体力がかなり必要だ。
故にウタウタの能力は長時間使えない、彼らはそれを知っている。だからこそ、いつか終わるという希望が持てた。
……だがそんな希望は砕かれることになる。
ウタが、己の能力の弱点を見過ごしてこんなことをするだろうか?
──1時間?後
「……ヴぇヴぇぇぇ”!!ぜぇぜぇ……あ、あれ?」
「まだ……なのか?」
「お、おお、お」
──2時間?後
「ど、ど、どうなって、やがる!?」
「おいおい……これは!?」
「おかしい!!おがぢぃ!!」
──5時間?後
「ヴぁああああ?!”!”?!?なんでだぁ!?!もう、終われぇぇええ!?」
「もう着いてるだろ!?島ぁぁあ!!!いつヴぁでぇええ!?!」
「ヴぉおじでぇぇぇ!?!?」
あり得ないことが起きていた。もう日が傾くであろう時間になってもウタワールドが消えない、これはどういうことかと罪人たちは混乱する。
何か寝ない方法を齎してるなら良い……だが、この時間は以上だ。もう海軍に引き渡してても良い頃合いだ。
それともこの女は海軍に引き渡した後も能力を使い続けているのだろうか?
「~♪」
歌を唄えば能力の質も上がる。そして罪人たちにとって歌声は一つのキー……『これから刑を始める』という合図になっていた。
世界中にある拷問の数々が執り行われる。大きな牛の模型の中に閉じ込められて熱される。こめかみを石突のようなもので挟まれゆっくりと力を咥えられてく。膝の上に石を積み上げられ、骨が壊されていく。
歌は続く……容赦なく、慈悲もなく、罪人にとっての破滅の歌が続く。
──3日?後
「…………ぼ、、ぼう……ゆ、るし」
「なんで……なんで……」
「いつ、に……なった、ら……」
あまりにおかしい現象である、彼らは間違いなくここで数日を経験している。体内時計が狂っても大体の感覚でわかる、だというのに目の前の女は一向に能力を止める気がない。
また身体が完治する……また拷問が始まる……もう嫌だ、誰か助けてと言葉にならない言葉が漏れる。
「う~ん……ちょっと肩凝ったかな~」
と呑気に両腕を上に伸ばす彼女、その顔に疲弊感はない。あまりにもおかしな光景に混乱している罪人たちを見て……
ウタは薄ら笑みを浮かべてこう言った。
「ねぇ、君たちはどれくらい時間が経ったと思う?」
「は?……」
あまりに突拍子の無い質問。だが、何人かはまさか……と顔を青ざめた。
そして、ウタは椅子を出してそれに座り、テーブルを出してその上にあるものを置く。
砂時計……だがおかしな砂時計だ。砂の部分が上になっているのに‘一向に砂が落ちない’
「これね、現実世界の砂時計と連動しているの。つまり‘本当の時間の速さ’を計ってるわけ」
「……ぇ」
「…ぁ」
「あ、何人かは察した?そうこの世界はちょっ~と時間が進むのが遅いの、ん?いや現実世界よりは速いのか?
まぁいいやどっちでも……それでこれって‘五分の砂時計’ね、さっき下に落ち切ったから今ひっくり返したんだけど。
……ねぇ……君たちはどれくらいの時間が経ったのかな?」
嘲笑……彼らが今まで見たあらゆる海賊や犯罪者でも……ここまで冷たい笑みを浮かべる者はいなかった。
「じゃ、もう一回やり直そうか」
歌が続く……罪人達が耳にしたくない処刑の合図の歌。
これから彼女が疲れて能力を解除するまで後どれくらいの時間がかかるだろう……果たしてそれまで意識を保っていられるのか
~~~
「……ぁ、ああ終わりかぁ……」
牢屋の前でウタは眠りから覚めた。ホンゴウがドクターストップで薬を飲ませたのか。
眠りから覚めた彼女の目の前で、罪人達は息を切らしている。恐怖で打ち震えている者もいた。
だが、数人だけ震えながら笑みを浮かべていた。
「へ、へへ……耐えた!……耐えきった」
「終わった……もう、あいつも能力を出せ…ね…」
ちょっとした勝利者な気分でもあったのだろうか……何人かの男達がウタに向かって強い視線を向ける。
耐えきったぞ、お前の能力に勝ったぞと……
「はは!はははは!所詮、女の体力じゃ……ぇ?」
瞬間、彼らの視界に異常が起こる。
ひび割れていた。ウタが、牢屋の壁が、脇にいた船医が、光景の所々に罅(ひび)。
その罅が瓦解して……景色が戻る
~~~
「良い夢見れた?」
「あ…………ああ………あっぁあぁああ!?!!???!」
それで罪人達は理解し、絶望し、発狂した。
さっきまで見ていたのはウタワールドが見せた幻。現実と思わせる夢!
砂時計に変化はなく、ウタも未だ眠る気配がない。
「休憩も挟んだし……続き、しよっか」
妖艶な笑み……いや、もはや魔王の冷笑が罪人達に光を諦めさせた。
──ある海軍二等兵は供述する。
「すごい大人しい海賊達でした、何人かは人攫い屋の奴等だけど。みんなまるで夢遊病のようにヨタヨタと歩いて、こちらの指示に素直に従うんです。
でもふいに、暴れる奴や叫ぶ奴が出てくるんです。『ここは現実か!?それとも夢なのか!?どっちだぁ!!?』って……
俺達は上の指示で牢獄に入れるだけだったんすけど……あいつらの顔は凄かったですよ。もう人生の全てを諦めたみたいな表情でして……
それでですね、不思議な指示を受けたんですけど、たまに歌姫ウタのトーンダイアルを流すんですよ。
いやもうその時の有り様ったらないですよ。皆一斉に発狂しだすんです。『やめてくれ』『許してくれ』『もう嫌だ』って絶叫が牢屋に響き渡って……
……いや、本当に何があったの知らないですけど。
もったいないなぁ、歌姫の歌がもう楽しめないなんて、あいつら人生損してますよ」
新時代から見放された者達に音楽は必要ない