伝説の血筋
「おいデュース。こいつァなんの騒ぎだ?」
「どうやら有名な歌姫のライブがあるらしい。加盟国非加盟国問わずあちこちでライブを開いてる彼女は世界中で凄い人気だからな。それでも楽園側で開くのは珍しいが。」
エースの問いにデュースが答える。
「ライブか…おれ達も見ていくか?」
「やめとけ。歌姫は海軍の人間だ。彼女のライブがあるならこの付近には多くの海兵が居る筈。海賊のおれ達は近づかない方がいい。」
「そんなの気にせず見てけばいいじゃねェか。」
不意に会話に混ざる異物。エースとデュークはゆっくり声のした方を振り向く。そこには麦わら帽子を被った若い海兵がいた。歳はエースよりも若いだろう。2人は即座に戦闘体制をとり警戒する。油断してた訳では無いが気付かずに背後を取られたという事実が2人を警戒させる。
「待ってくれよ!おれは別にお前たちを捕まえる気はねェって!」
警戒する2人に若い海兵は大きな身振り手振りで戦闘の意思がない事を伝える。だが、その行動は火に油を注ぐだけだ。
「信用ならねェな。お前は海軍。おれは海賊。なのに捕まえる気はないどころかライブを見てけ?罠だと考えるのが妥当だろ。何を考えてやがる。」
「本当だって!おれは出来る限り多くの人にウタのライブを楽しんでもらいたいんだよ!」
「それでなんで海賊を捕まえない理由になるんだ?」
警戒を強め語気が強くなるエースに若い海兵は能天気に答える。
「ライブに来てくれた客を捕まえたらアイツのファンを騙す事になるだろ。それじゃあ皆警戒するし誰も来なくなっちまう。」
言ってる事は真っ当ではある。海兵が言っているという事を除けば…だが。デュークはここの交渉はエースに任せいざという時の逃げ道を考える。
「海賊がファンを装って来るとは考えないのか?」
「そん時は、おれがブッとばす。ウタのライブ中は平和が1番だからな。けど、お前らは違うだろ。オーバーズ海賊団船長。ポートガス・D・エース?」
なるほど。この若い海兵はこちらの事を分かった上で話しかけて来たらしい。ならばあの緩い対応もこの緊張感の無さも納得は出来るというものだ。だが
「そんな平和な歌姫のライブに無法者のおれ達がいたら邪魔になるんじゃねーか?」
「別に気にしねェよ。海賊も海軍も貴族も平民も。ウタの歌の前ならみんな平等に同じ観客だ。別に見ねェなら良いよ。今回の目的はライブだ。被害を出さない旅人を捕まえる程暇じゃねェ。」
「どうする?デューク。おれはこいつに乗ってやっても良いんじゃないかと思ってるが。」
「嘘を言ってるようには見えない。」
メチャクチャな事を言う海兵の前に毒気を抜かれた2人は話し合ってライブを見に行く事に決めた。
「おーう!飲め飲め!まだ若いんだからな!」
「お前西の海出身か!おれもなんだよ!」
「そこでおれは言ってやったのさ!おれの首を取りたいなら船団でも連れて来いってよ!」
「海兵のにいちゃん!おれらにもウタグッズ売ってくれよ。」
「少しばかりだが船の備蓄を持ってきた!復興に役立ててくれよおっさん!」
「ウタちゃーーん!次はビンクスの酒を歌ってくれよ!」
「もー!これでも私海兵なんだけど!」
ライブが終わり始まる2次会の光景を何も知らない人が見たら驚くだろう。海兵と海賊が肩を組み酒を飲み海賊が町民に物資を渡し、海兵と海賊の間でグッズが取引される。それも賞金首の姿もチラホラ見える。種族も職業も壁にならない平等な宴の風景がらそこにはあった。本来なら浮くはずの主役である歌姫すらも麦わら帽子を被った若い海兵に肩を組まれ溶け込む。皆が好き勝手騒ぐ平和な世界。
「じゃあ、だいぶ騒いだしもうそろそろお開きにしようか。旅人さん達もずっと一か所に留まってるわけにもいかないでしょ?」
2次会が始まってだいぶだった後、歌姫が言う。これはつまり『海賊の人は今のうちに離れてね』という事だろう。酔狂な海兵も居たものだ。その言葉を聞いて荒くれ者達は名残惜しそうに船に帰る。
出港した船の上でデュークが呟く。
「あれが次代の英雄と歌姫か…」
「次代の英雄?あのガキがか?」
それを聞いたエースが言葉を返す。今回見た海兵の中で最も強かった麦わら帽子を被った海兵を思い出す。確かに将来有望だろうがあんな年端もいかなる若者に英雄なんて期待をかけるほど海軍は弱っているようには見えない。
「知らないのか。あの麦わら帽子の名前はモンキー・D・ルフィ。海軍の英雄ガープの孫だよ。歌姫の幼馴染としてあちこちの海に顔を出しては問題を解決して行く海軍の希望の星だ。」
ガープ。そこ名前が出た途端エースの顔に曇りが出る。
「そうか…ジジイの…」
エースの呟きと強く握られたその拳に気付くものは居なかった。
楽園のある島で2つの拳の衝突が起こる。
「なかなかやるようになったじゃねェか!ルフィ大佐!昇進祝いだ!十字火!」
「エースこそ!四皇白ひげの2番隊隊長だろ!出世したな!意外だよ!あと昇進祝いは要らねェ!ゴムゴムのォ鎌!」
友好的な会話とは裏腹に2人の戦いは熾烈を極める。ルフィはゴムの体を使った不規則な動きで狙いを付けさせずエースは攻撃が当たる直前に自身の身体の形を変え最低限の労力で回避する。
「やっぱり避けられる。当たれば1発なのによォ。」
「誰がそんな直線的な攻撃当たるか。おれはそんなにグズじゃねェし1発で沈む程ヤワでもねェ。それに…火に触れたら火傷する。常識だろ?」
圧倒的なリーチと攻撃力を持つ2人の激突は自然と広範囲に被害を及ぼす事になる。ここが無人島で無ければ酷い事になっていただろう。
「なァ。いい加減どいてくれないか?おれは大罪をおかしたティーチを追ってるだけなんだ。民間人に被害を出す気はねェ。」
「断る!今はパトロール中だ!見逃す理由がねェ!そもそも!海兵が海賊を見逃す訳ねェだろ!」
どの口が言うのかと文句が出そうになるのを抑える。彼の中では筋が通ってるのだろう。実際あのライブでは海賊ではなく旅人として扱われた。メチャクチャではあるが芯は通ってる。このままじゃ埒が開かないので話題を他に移し気をそらそうと試みる。
「お前は良いのかよ。英雄の孫だからって担ぎ上げられて、神輿に使われて、良いように利用されるのが。」
「突然なに言ってんだお前。じいちゃんはじいちゃん。おれはおれだ。別に関係ねェよ。英雄だとか。」
「お前が関係なくても周りは勝手に囃し立てるだろ。期待するだろ。重苦しくねェのか?」
「知らね。少なくともこれはおれが選んだ道だ。周りなんて関係ねェ。」
2人は話しながらも攻撃の手を緩めない。しかし、ルフィの答えにエースは苦い顔をする。けれども、戦況はエース側に傾いて居た。
「炎上網!もう少し話して居たかったがここまでだ。お前を本気で退かそうと思うと消耗は避けられねェからな。」
エースがそう言うと2人の周りを炎が取り囲みエースはその炎に溶け込む。自然系の能力者ならではの逃げ方だ。けれども、ルフィは一度それを見ている。別の能力者だったが対処法も考えてある。
「ギア3。骨風船。」
広い範囲に溶け込み逃げるなら広い面攻撃で全部殴れば良い。シンプルにして協力な結論が炎を襲う。
「ゴムゴムのォ!巨人の銃!」
巨大な黒腕が目に付く全ての炎をなぎ倒す。それはゴムの体を利用した圧倒的な面制圧の攻撃。その一撃はさっきまで戦場にあった炎に満遍なく襲いかかった。
「ルフィ〜?また派手にやっちゃって〜。怒られるよ〜。ルフィ〜?」
ウタは部下を連れて森を歩く。さっきまで周囲の海賊の捕縛がおわりのんびり軍艦で待っていたのだがこの島から伸びる大きな腕とそれが叩きつけられる事で起きた衝撃をみて急いでルフィを回収に来たのだ。そしてその先で見たのは、
「お〜い。ウタ〜。ここだここ。」
「か、かわいい〜♡」
縮んだ幼馴染だった。ウタは急いでルフィに近づくと持ち上げぬいぐるみを持つように抱える。
「かわいい〜♡昔とそっくりになっちゃって〜」
「は〜な〜せ〜。」
「ウ、ウタ准将…」
「そうだお前ら!助けてくれ!」
ウタに抱えられたルフィは力が出ずにウタになすがままにされて居た。ルフィは近くに部下達が居るのに気付き助けを求める。
「後で我々にも抱えさせて下さい!」
「助けろよ!?」
ダメだった。ウタに限らず今いる海兵はみんなルフィの事を子供を見るような目で見る。ウタに至っては頬ずりしたり撫でたりとやりたい放題だった。
「取り敢えず、船に戻るぞ!」
正気に戻らない幼馴染を諦めて、玩具にされながら帰還命令をだす。
「それで、なんでそうなっちゃったの?」
「前言ってた奴を試したんだよ。そしたらこうなった。体が思うように動かねェし力もでねェ。てか、離せよ!」
「だ〜め♡もうちょっとかわいいルフィ堪能してたいし力が出ないならここが1番安全でしょ?」
「絶対1個目が理由だろ!」
少し正気を取り戻した幼馴染に好き勝手されながら質問に答えるルフィ。この光景を隠し撮りする海兵。因みにこの後ウタもうっかり寝落ちしてしまい抱き合って寝るウタとルフィという写真も海軍本部内で出回る事になるのだが、それはまた別のお話。
ここからは設定のお話になりますーーーーーーーーーーー
エース:コルボ山にルフィとウタが来ずサボと2人で幼少期を過ごした。ある時期からガープが来る頻度が落ちたせいで荒れてた性格が更に荒れ、そのせいでサボの悲劇を起こしてしまう。死にたいとサボの自由に生きろの遺言のせいで雁字搦めになってる。ルフィに対しては、自分よりガープに愛されたという嫉妬、大切な物をしっかり守れてる事に対する羨望が混じり合いそこに『海賊王の息子として祭り上げられたIFの自分』を重ねて見てるため凄い情緒が不安定。ルフィの『海軍の英雄の後継者』との外部評とヤマトの『鬼の跡目、二代目光月おでん』などのせいで俗にゆう○○2世という在り方について向き合う事になる。それはそれとしてオヤジに息子って言って貰えたのは嬉しいので白ひげの船に所属するし仲間殺しは許せないのでティーチを追いかける。このルートだとルフィと戦って怪我を癒してる内に黒ひげが七武海に入り足取りが掴めなくなった為に大人しく白ヒゲの船に帰った。海賊団の名前の由来はSABO→OBAS→オーバーズである。原作の帽子ではなくサボの青と黒のシルクハットを模したものを被っている。
サボ:原作とほぼ一緒のルート辿ってる。その代わり記憶を思い出す引き金が全く無いので余程の事がない限り記憶は戻らない。普通に冷静な参謀総長。事件以降ルフィとウタを取り込む為に奔走する。別に大切な人でもないので利用する気満々。
ドレーク:この中だと出番無いけど画面外で出番多い人。海軍本部に連れてこられたルフィとウタの兄貴分になりDULの3人で仲良くしてる。たまに幼馴染じゃない疎外感で寂しくなる。悪魔の実の能力者になった時は2人とお揃いになれるとウキウキだった。出来れば超人系が良かったと愚痴を溢した。ルフィと一緒に海の戦士ソラを見てたりする。事件以降1番奔走する事になる人。DULのまとめ役。
ルフィ:ガープと関わる事が減った代わりに色々な人と関わる事になった。基本は原作と変わらないけどウタ1番の精神。親が海賊という話題でドレークとウタが話してるのを見ると疎外感を感じる。ドレークが海軍を抜けて海賊やってるのを聞いて何か理由があるはずだから捕まえて聞き出すと意気込んでた。
ウタ:基本は変わらず割と若い時期からルフィを伴って四つの海でライブをやってた。海賊は嫌いだけど平和と平等を愛するのでファンなら海賊でもライブに受け入れる。ルフィとドレークが男同士の会話をしてるのを見て疎外感を感じる。ルフィと同じくドレークの海軍抜けを納得してない。
ガープ:『ルフィが海兵になると決めたなら本部で育てたほうが良いな』と思って本部に連れてきた。本人的には子供達に会いに行く頻度は変えてないがルフィとエース交互に行くので子供達からすれば来る頻度が半分になったように感じる。『ルフィが海兵になるならエースにも良い影響を与えてくれるのでは』と考えたらASULルートに入る。
このssの使用許可をここに書いて置く。