伝説のヒーロー
『もしおれが死んだ時は!!ノーランドの横に銅像を建てろ!!
今からおれが!!!お前らの"伝説のヒーロー"になってやる!!!』
意図せず鍛えられた聴覚と、
意図して鍛え上げた見聞色。
その二つの合わせ技で、私は小さな島一つぐらいの広さならどこで誰が喋っているのかを聞き分けられるようになっていた。
今の決意表明は、私やこの国のオモチャ達を解放しようと戦ってくれている勇敢な海の戦士のもの。
この国の闇を聞いた。
この国に起こった悲劇を聞いた。
そして、この国の闇を暴く方法を聞いた。
兵隊さんに同行し、幸運にもルフィと合流できた私は、ルフィの肩にしがみつきながら地下で巻き起こっている壮絶な戦いに耳を傾けていた。
「ウタ、大丈夫か?」
「ギ…ィ……」
流石に私にももう分かる。
私はもうすぐ、オモチャとしての寿命を迎える。
ルフィが持っていたビブルカードも、もうほんの少ししか残っていなかった。
私と合流したルフィは、まず真っ先に私の容体(?)を確認してくれた。
少しでも私が長生きできるように。
幸い補修箇所は無かったけれど、念のための補強で少し胸元が分厚くなった。
きっとルフィだけじゃなくて一味の皆んなが、この国に来る前までは私との別れを覚悟していたんだと思う。
思い返してみれば、皆んなが何かと世話を焼いてくれるようになった後の顔、どこか辛そうだった気がする。
でも、治す方法が分かった今、皆んなはその覚悟を捨て去ってしまった。
私を絶対に治してみせるって、決意へと心を入れ替えてしまった。
それでもし、間に合わなかったら、みんなの心は……
……そんな縁起でもないことは、私も考えないようにしよう。
そして私達は今、ドフラミンゴ達がいる『スートの間』の前にいる。
人間に戻れればすっごく強いらしい兵隊さんが、ウソップ達の成功を今か今かと待っ
…………あ れ?
なんでわたし ゆかにねてるんだろう
「……!!? おい!!おいウタ!!しっかりしろ!!」
きゅうに ちからが はいらなくなった
るふぃの かたから おちてしまった
「…………ギ」
こえが でない
まにあわなかった?
「ウタ!!!もうちょっとなんだ!!!もうすぐウソップがやってくれるんだよ!!!」
うそっぷ がんばって
うそっぷ がんばってる
『チクショオ……チクショオォ……!!!』
うそっ ぷ やられてる
まけないで
おねがい
しにた ない
「……ウソランド達は、間に合わなかったか……
……ルフィランド…………」
「ウタ……ウタァ…………!!」
……あ
きこえた
うそっぷの こえ
おんなのこの ひめい
おんなのこの いしきが おちるおと
「…………る…………ふぃ………………」
さきに こえだけ もどってきた
12ねん ぶり に こえが でた
うれしくて 泣きそうだった
「……!? ウタ、お前……声が…………!?」
「…………ありが……と…………
だいじに……してくれて…………」
ルフィが だいじに してくれたから
わたしは 幸せだった。
『…えづら……やがれ……ラミンゴ……!!!』
ルフィが 大事に してくれたから
わたしは 今日まで 生きてこられた。
『さぁ!!!よみ……れオモチャどもォ!!!』
ルフィが、大事にしてくれたから。
『ウタァ〜〜!!!!やったぞォ〜〜!!!!!』
"伝説のヒーロー"が、願いを叶えてくれたんだ。
「……やっと……あえたね…………
うた、だよ…………!!!」
ビブルカードが、私の身体が、元の形を取り戻していく。
限界ギリギリだった身体は全然言うことを聞かないけれど、目の前にいるルフィに抱きついて、体温を感じることぐらいは許してくれた。
口から漏れる嗚咽と、目から溢れ出る涙を止めることは、許してくれなかった。
「るふぃ…………!!!」
感情の処理が追いつかずに完全に停止していたルフィが抱きしめ返してくれたのは、それから暫くしてからのことだった。