伏神聖杯戦争、セイバー陣営vsフィクサー陣営

伏神聖杯戦争、セイバー陣営vsフィクサー陣営

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教会に入って情報を集める!或いは他の陣営をおびき出そう!などと考えていたリドリー・フォーサイト(とそれに巻き込まれたエル・シッド)だったが、その計画は初手で完全に躓いてしまった。

「帰れ、だ。お前らココがどこかしっかり認識してるかな?教会だぞ聖杯戦争においては絶対中立完璧安全地帯な場所だ。部外者を入れるスペースは無いんですよね。おわかり?」

伏神教会の神父、獅堂蒼に滞在を拒否されているからだ。当たり前である。断られた事がかなりのショックだったのか、リドリーはシスター服を着た神父に詰め寄る。

「そんな!数日前のエデンの徘徊者(ヘビヤロウ)の悪事に関する裁決では、アイツにかなりの温情を与えていたじゃないか!だったらコッチにも多少は優しくしてくれてもいいんじゃないかな!?」

神父が書類仕事をしている机に詰め寄り、強い語気で苦情を訴える。蒼はその意見に顔を顰め、ため息一つ。

「あー…、わ~ったわ~った。じゃあ手っ取り早くアンタの意見へ好意的な対処をしてやるから今すぐ黙れ。OK?」

歯ぎしりの音が漏れる。今は大規模な毒ガスの影響の隠蔽・怪物騒ぎへの緘口令など、やる事が多い為、余計な仕事を増やそうとする相手への苛立ちを隠す気はないのだろう。

「分かったよ、了解だ神父殿!いやぁ流石だね神父殿!まさに神のような愛に溢れた人物じゃないか!それで?私は何をすればいい?」

感動したのは、勢いよく捲くし立てるリドリー。それの後ろで彼のサーヴァントであるセイバーは、ちょっとだけ申し訳なさそうに佇んでいた。

「おーしいいか?じゃあまずは後ろを向け。そんで、暫くずっとそのまま前進だ。そしたら部屋を紹介してやらんでもねぇ。早くしろ」

しっし、と手で追い払うような仕草で、神父は魔術師に宣告する。彼の真意を知ってか知らずか、リドリーは晴れやかな顔で指示を実行しようとし……、開かれた扉を通る寸前で意図に気付いた。

「ちょっと待ってよ神父殿!これこのまま前進したら教会から出ちゃうじゃあないか!」

自身のお願いに折れた(と思っていた)相手が案外強か?なのだと思い至らなければ、人の反応はこういうモノになるのかもしれない。

「当たり前だろうが。なんでテメェの都合に僕が合わせねぇといけないんだよ。教会は慈善事業じゃねぇ。少なくとも聖杯戦争の運営においてはなぁ!!!」

えぇ~!!と大げさに驚き、詰め寄ろうと歩を進めたリドリー。しかし次の瞬間!彼の身体は宙を舞った。獅堂蒼がリドリー・フォーサイトの胸倉をつかみ、礼拝堂の扉へ向けてブン投げたのだ。175㎝、62㎏の人体が玩具のように空を飛ぶ。

「痛い!痛いよ神父殿!教会は迷える子羊を導いてくれる場所なんギャブッ!」

文句を垂れるリドリー。しかしその言葉を言い終わる前に顔面へ思い切りのいいパンチが入る。

「テンメェ……。それ以上その喧しい口から言葉をひり出すようならもう容赦してやると思うなよ聖杯戦争でどこぞのサーヴァントやらマスターに殺される前に俺がぶっ潰して墓場の肥やしにしてやるからそう思えよ?な?今俺がキレてるのは解るよな?判ってねぇなら理解するまで脳髄揺らしてやるからそれまでに覚えような。あ、お前今疑問符頭に浮かべてるな理解してねぇなアァン?」

どんどんと発言が過激になっていく蒼。これには流石のリドリーも危機感を覚えたのか、すいませんでしたー、と謝りながら教会から退出するしかなかった。

「次に下らねぇ要件で扉開けやがったらその趣味の良いメガネが似合わねぇぐらい顔面ボコボコにしてやるからそう思え!二度と来んなアホがぁ!」


◆◆◆


「はぁ、残念だねぇロドリーゴ。まさか追い出されてしまうとは……。というかアレだね!神父殿は怒ると怖い!」

意気消沈しつつも、なんとかカラ元気で乗り越えようとするリドリー。反面、セイバーは呆れ顔だ。

「当たり前だろク.ソマスター。そもそも厳正中立を謳う聖堂教会に入り浸る、ってのが発想としてまずおかしいんだ。面倒事を持ち込めば嫌われる。ただでさえ前の一件でイラつかれてそうなんだ。これ以上アイツとコトを構えるのは」

「そうそう。俺もそうだけど、蒼に迷惑かけちゃいけないよ?ま、アイツがマジギレしたらその程度の負傷じゃすまないだろうから、手加減された方じゃない?」

「避けた方がいい。そうだろ?……、って誰だテメェ!?」

さらッと会話に混ざった黒衣の人物に対するセイバーのツッコミが、夜の山に響き渡る。ヘラヘラと笑みを浮かべる青年は、セイバー主従に向かい合うようにしながら距離を取った。改めて見ると、そいつは全身黒ずくめである。本人は飄々とした雰囲気を纏っているが、全身から濃厚な死の匂いを漂わせていた。

「俺?俺は朽崎家の今の当主だよ。この聖杯戦争の仕掛人、になるのかな。今夜は貴方たちに警告、とか?まぁ色々と。文句を言いに来たって感じ」

そういいながらも、睨み付けるでもなく、残念そうな顔をするでもない。ただ薄笑いを浮かべだけな男は正直に言えば不気味である。セイバーがどう動くべきかと思案しているとその脇をすり抜けたリドリーが朽崎当主へ親し気に語り掛け始めた。

「ほう!キミがこの聖杯戦争の開催者か!今回はこんな催しに私を参加させてくれてありがとう!おかげで私の望みも叶える事が出来そうだ!……しかし、文句というのは?神秘隠匿には気を付けているし、無駄な殺人などもしていないよ私達は」

「感謝はいいけど、隠匿に気を付けている、って言うのは疑問符が多すぎるね。先日の飛行機墜落阻止、ありゃ何さ?隠匿に気を付けているってなら落とさなきゃ。少なくとも、再離陸なんてさせるものじゃないでしょ。貴方も根源を目指す魔術師だ、ってんなら、そこら辺は十分理解してるでしょ?」

親愛的なコミュニケーションを取ろうとしてくるリドリーに対し、朽崎家当主──朽崎遥は呆れたような口調で突き放す。そしてリドリーが発する回答を聞いた瞬間、彼の顔色が変わった。

「根源?いやいや、私は根源なんかに興味無い、とまでは言わないけど、聖杯に叶えて欲しい望みは『第3魔法を魔法から引きずり落として誰でも使えるようにする事』だよ?人的被害は見過ごせないに決まってるじゃないか!」

ふぅん、そっか。と、気の無い返事をよこす相手には全く構わず、リドリーは続ける。

「だからね、私のそんな望みを達成できるかもって機会を与えてくれた君には結構感謝してるんだよ、朽崎くん。だっけ?だから、お近づきの印に、ってね!」

そうしてリドリーは目の前の男に、24金と6500個のダイヤモンドを散りばめたスターリングボトルを渡した。「ヘンリー4世」。世界最高級かつ非常にレアなブランデーである。こんなモノをポンと渡せるなどという事自体が、フォーサイト一族の影響力を伺わせる、というものである。

「へぇ、こんな貴重なモノをありがとう。こんな山奥じゃ駄目になりそうだし、さっさと保存しておくか。僕鴉(しもべがらす)~」

そういって朽崎遥は、自分の使い魔である継ぎ接ぎのカラスに瓶を持たせ、飛ばす。自宅に向かわせたのだろう。継ぎ接ぎなのは死骸だからなのだが、ちゃんとしたエンバーミングの技術を施されているので、よっぽど近くで観察しないとソレとは気づけない見た目なのだが。

「礼を言わせてもらおうかな、ありがとう。それなりの態度でいただくよ」

そういって珍しく頭を傾ける。普段の彼の態度を知る者にとっては、中々に驚くべき状況だろう。それを聞いて気を良くしたのであろうリドリーが口を開こうとした瞬間、朽崎遥は懐に入れていた腕を抜いてリドリーに向け、同時にエル・シッドは自らのマスターを蹴り倒した。そして銃撃音が夜の森に響き渡った。

「貴方の命みたいにね!……ってアレ?なぁんだ外しちゃったかぁ、残念」

舌を出し、悪戯っぽく笑いながらそうぼやいた彼が握っていたのはサブマシンガン、正確にはPDW(パーソナルディフェンスウェポン)、H&K MP7である。なんて余談はさておいて。

「てめぇ……、ウチのクソマスターになにしやがる。残念、だと。血の匂いをプンプンさせながら言う台詞じゃあねぇよなぁ、ソレは。ま、纏う気配が殺気に変わるのが銃撃の瞬間レベルなのはちびっと驚いたが」

そう言いながら剣に手をかけ、油断なく襲撃者を睨む。対する黒衣の青年は、変わらずヘラヘラと笑うだけで。

「そうだよ!私からも質問させてくれ!何故、いきなりこんな事を!」

目まぐるしく変化する状況に目を白黒させるので精一杯なリドリーは、目の前にいる魔術使いに向けてなんとか言葉を絞り出す。それに対する言葉は、否定の意思しか宿っていなかった。

「だってぇ、俺ってこの聖杯戦争の主催な訳でしょ?じゃ、戦況のコントロールはしないとねぇ……。飛行機落としもそうだけど、その前のカーチェイスだったりもあって、他には……ないか!それでも、貴方が迷惑なのは変わりない。だから消さなきゃ、ね」

「そんな勝手な!私は自分に出来る限りの頑張りで聖杯戦争を勝ち抜こうとしているだけだよ!?それにいちゃもんをつけられては……」

「そ、れ、に」

怒涛の勢いで反論しようとするリドリーの威勢を削ぐように、ネクロマンサーは言葉を紡ぐ。

「貴方、聖杯への願いは『第3魔法を魔法から引きずり落として誰でも使えるようにする事』、って言ってたじゃない?困るんだよねぇ、人が死なないような状況に、世界を変革されちゃあさぁ……。誰でも使えるんなら俺がそれを使われる可能性だってあるし、それ以前に”人から死が遠のく”なんて世界、死霊魔術の徒からすれば商売上がったりだ。だからさ!排除させて貰うよ、この世界から。あぁ、心配しないで!貴方の死は、聖杯戦争での事故って事になるだろうからさ。準備不足に警戒不足、しょうがないよね」

「はっ、何言ってやがるんだこの黒幕(フィクサー)気取りの馬鹿野郎は。てめぇがウチのクソマスターを消そうとするのは自由だが、それをコイツのサーヴァントたる俺がさせると思うのか!?」

声に怒気を滲ませながら凄むセイバー。聖杯戦争でも最優とされ、世界的にもかなりの格を誇る彼の臨戦態勢を前にしても、朽崎遥はどこ吹く風。その薄笑いが消える事は無い。

「黒幕(フィクサー)気取りの馬鹿野郎、か。いいねぇ、罵倒されると楽しくなる!……バーサーカー!相手の使い魔はよろしく!」

嬉しそうに指を鳴らす。すると今まで霊体化して気配を隠していた彼のサーヴァント、ヴク・グルグレヴィッチが急加速し、セイバーを巻き込んで夜の空、引いてはこの闇深い里山から消えていった。

「さぁて、邪魔モノも消えたし、サーヴァントはサーヴァント、魔術使いは魔術使い同士で戦闘開始と行こうじゃないか、リドリー・フォーサイト。ねぇ?」

「ああもう!私としては今日はまだ情報収集のつもりだったのに!」

死霊魔術使いは邪悪な嗤いを浮かべ、異端の魔術師は困惑の声を上げる。それが開戦の合図だった。


◆◆◆


結果だけを言うならば。リドリー・フォーサイトと朽崎遥の殺し合いは、死霊魔術使いの勝ちだった。どちらも「人を愛している」と口にし、一般的な魔術師らしからぬ、”一族以外の技術”を利用するタイプ、と似通った部分もある人物ではある。その二人を分けた差、となれば恐らくはくぐった修羅場の数、あるいは他人を害する事への抵抗感の濃淡などがソレになるだろうか。


しかし、勝者である朽崎遥が無傷であるかと言われれば、そのような事は決して無い。

いつも着ているコートはボロボロ。出血も激しく、息も上がってぜぇぜぇと肩で息をしている。もしも次の瞬間、即座に次の戦闘!となれば流石に無理そうキツそう、といった状態だ。彼の周囲には、死霊魔術で製作した使い魔と思われる狼の死骸や、ナイフ型の礼装や薬莢なども転がっている。

「あー……、キツかった。流石、時計塔の魔術師。辞職&二級講師とは言え、侮れない……。もう暫く本格的な戦闘は厳しいかもねぇ……。あ、そうだ安心してよリドリーさん!貴方の死体は、今後しっかり有効利用してあげるからさ!」

最後に悪態のような煽りのような、そんな一言を言い放ち、脱力し切ってその場に座り込む。

「────同じく、だ。我が心臓も悲鳴を放っている……。」

その隣の空間が歪み、霊体化を解いたヴクが現れた。こちらも現界こそしているが、大英雄エル・シッドと戦っていたからか、マスターである朽崎遥よりも消耗やダメージは大きそうだ。もしかしたら、霊核に届きかねない傷を負わされたかもしれない。

「ま!兎も角コレで残るは御三家関連のサーヴァントのみ!って感じだね。さて、とりあえず帰ろうか」

大仕事を終えた反動や安堵によるものか。やれやれと言わんばかりの口調で己の相方に語り掛ける朽崎遥である。気を抜き過ぎだが、恐らく今すぐ他の陣営と会敵する事はあるまい、といった計算はしていると思われる。

「いやぁ、ちゃんと聖杯、起動してくれるかなぁ……。ここへきて失敗。なんて事はやめて欲しいんだけど。なんにせよ、後は神のみぞ知るって訳。神よりも天の方がいいかな?僕ってカミサマの事は嫌いだし」

どっこいしょ、と力を込めて立ち上がり、この殺し合いの後始末を始めた。

────夜はまだ長い────。


聖杯戦争、終戦までのカウントダウン、本格始動。














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