伊右衛門

伊右衛門


「地獄に行く為に罪を重ねたい」


何度聞いても理解の及ばぬ理由でこちらを散々敵視してきたはずの男、地右衛門と肌を重ねるようになってから、暫くの時が過ぎた。

相変わらず動機は理解出来ないが、何度か抱く事で、彼については少しばかり解った事がある。


まず一つは、快楽を得る事に酷く罪悪感や嫌悪感といった感情を持っている事。

曰く彼の信ずる教えでは、子を成す以外の目的での情交……快楽を得る為に交わる事を禁じているらしい。なれば罪を重ねる為に抱かれているのなら、快楽を得る事に何ら問題は無い様に思えるのだが、地右衛門はそれを嫌がる。

初めの方こそ痛みだけだった様だが、数を重ねる毎に抱かれる事に慣れた身体が快楽を拾う様になると、彼は酷く動揺した。

「こんなのいらない」「嫌だ」と、何度も繰り返しながら果てては、絶望したような顔で放心するのを見たのは、一度や二度ではない。


それからもう一つは、優しくされるのを嫌っている事。

快楽を得る事を忌避しているのかも知れないが、こちらが出来る限り丁寧に彼に触れると、それを嫌がり、もっと手酷く扱う事を要求するような事を言う。

痛みに快楽を感じる性質の持ち主なのかとも思ったが、強く手首を掴んだり、戯れに肩へと噛み付いた時には苦痛に顔を歪めていたので、どうやら痛みを好んでいる訳でもないらしい。

優しく扱った時の方が反応が良く、こちらとしても得られる快楽が上なので最近は専ら甘やかす様に抱く様にしているのだが、その度に掠れた声でこちらを罵ってくる。力が抜けて蕩けた顔で何を言われても、迫力など皆無なのだが。


そしてもう一つ。思っていたよりもずっと幼く、無垢な一面を持っている事。

「優しくするな」と喚くのを無視し、丁寧に快楽を与え続けると、地右衛門は涙を流しながら幼い子供のように拙い言葉を使い出す。

「こわい」「もうやだ」と首を振りながら快楽を否定する姿は普段の獰猛な言動からは想像もつかない程に幼気で、まるでこちらが悪い事をしているような気持ちになる。

疲労や快楽で禄に思考が出来ていない時にひたすら優しく甘やかしてやると、こちらに必死にしがみついてくる。そしてその頭を撫でてやるとどこか安堵したように微笑む。それが不思議と可愛らしく見えるのは、褥の空気に酔っているからだろうか。地右衛門が朝には忘れているのを良い事に、ここ数回は確かめる為に毎回その笑顔を眺めているが、未だに答えは出そうにない。


共に夜を過ごし肌を重ねる度に、一つ彼を理解し、また一つ解らない事が増えていく。

果たして彼を真に理解する日は来るのだろうかと、腕の中で眠る地右衛門の頬を撫でると、その口元が僅かに綻んだ。

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