仲間から見た師弟の話
「おーい、お二人さん。土方さんがお呼びです…っと」
沖田とその師匠を呼んでくるように言いつけられた斎藤は八木邸の縁側で二人を見つけ、声をかけようとして────慌てて口をつぐんだ。
師匠の方は柱に肩を預け、もたれるようにしつつも座った姿勢のまま穏やかな寝息を立てている。
沖田の方はといえばそんな師匠の膝に頭を乗せ、安心しきった様子で横になっていた。
その上半身には師の羽織がかけられており、寝冷えしないよう配慮がなされている。
そして近くには空になった湯呑が二つと、団子が刺さっていたと思しき串が何本か乗った皿。
「…団子食って昼寝かよ。なんつーか、変わらんのな」
京に来てから良くも悪くも近藤や土方、山南といった面々は少し変わった。
それを受けて永倉や藤堂、原田もどことなく変わった。あるいは自分も気づかない内に少し変わったかもしれない。
だがこの師弟だけはそんなものどこ吹く風とばかりに、変わらず穏やかだ。少なくとも普段は。
─────剣を握ってる時も、この姿も。どっちも本質だってんだからこの二人には参るね。
斎藤は内心独りごちる。
剣を取れば沖田は冷徹な、師匠の方は普段の態度そのままに恐るべき人斬りと化す。
その一方で普段はこの様になんとも穏やかで明るく、柔らかな人柄でもある。
どちらが本当、ではない。この二人はどちらも地続きなのだ。
普通の人間ならば賽子の面のように別の顔を持つことになる。
だがこの二人は別れることなく、一枚の紙の上に全てが存在する。だから切り替える、という行為が存在しない。
大抵の人間はそれを理解できず恐れる。いや、理解しても恐れるのが普通だ。
斎藤だとて理解しているが時々恐ろしくなる。だから恐れる人間の気持ちはよく分かる。
しかし────
「…ま、急ぎの用事じゃないみたいだしいいでしょ」
────そういう人間、というだけの話でもある。
彼も彼女も喜怒哀楽に加えて思いやりや優しさを持つ普通の人間なのだ。師匠の方はいささか怒が怪しいが。
確かに人斬りとしての精神は恐ろしいが、別に化物というわけではない。
こんな風にあたたかな光を浴びて、思わずうたた寝をしてしまうような。
弟子の身体が冷えないように羽織を身体にかけてやるような。
全幅の信頼を寄せる師の膝の上で無邪気に子供のような寝顔を見せるような。
二人ともそんな人間なのだ。
「…それはそうと、あんたらいつくっつくの?」
師弟のような、父娘のような、兄妹のような距離感。それでいて時折恋仲のような面も見せる。
今もまさにどの距離感なのか測り難い姿を晒している二人に向けて小さく呟くと、斎藤は静かにその場を離れた。