仲直りの後
「ちょっと、いいかな?」
副隊長にそういわれてただの席官が断れるわけもないのだから実質◯◯に選択権などない。解っているのかいないのか……。
「…………なんだよ」
ふたりきりのところに移動してすぐこっちから口を開いた。どうせ勿体つけたところで吉良は話したいことを話すのだろうから。
「本当にすぐに済むよ。檜佐木さんとね、仲直りできたから一応お礼をと思ってね」
「ハッ、あの会話でなんで俺に礼を言うなんて発想になるんだか」
「うん、そういうと思ったけど一応ね…」
「アイツは来てねぇけどな」
「檜佐木さんは◯◯くんがいろんな想い抱えてるの解ってるから気を遣って来ないんだと思うよ」
チッ…、と舌打ちが漏れる
「うるせぇな、で、なんだよ。礼っていうならもう聞いたことにしてやるからいけよ」
「ああ、うん。いちばん言いたかったのはそれなんだけどもうひとつ、◯◯君に伝えとこうかと思ったんだ。僕ね…」
いつもどおりの表情のまま、吉良は言う。
「◯◯くんほどじゃなかったけど、修くんばっかり拳西さんに最優先で大事にされててずるいなとは思ってたよ」
「は?」
「僕の場合は亡くなった両親への想いがまだ残ってたし、修くんほど全霊で拳西さんを求めていなかったし、何より修くんが安心と安らぎが必要な状態だということは初対面の時から子供ながらにわかっていたから修くんに対して君みたいな感情にはならず僕が護るんだって思っていたけど、それはそれとして…ずるいというか、羨ましいなって気持ちがなかったわけじゃない…」
「……ッ、それが、どうしたよ」
「どうもしないよ、べつに何も変わらない。修くんにあたりのきつかったり、事件の後修くんのところにかけつけなかったり、ましてや現世実習で傷ついてる修くんを苦しめるようなことを言った君を苦手だって思ってたのは変わらないから」
「べつにテメェに好かれたいなんざ思ってねぇが、それならマジでんなくっだらねぇこと聞かすんじゃねぇよ」
「そうなんだけどね。少なくとも僕は、檜佐木さんのことは何よりも大切にしたいけど…、……檜佐木さんっていうより拳西さんに、ちょっと思うところがあったんだなって今回気づいたんだ…。……まあ何回考えても修くんほどじゃなくても大切にしてくれたのも確かだから拳西さんのことは大好きなんだけど」
「……るせぇな。テメェが何言いたいのかはわかったが、俺とテメェを勝手に一緒にすんじゃねぇよ。俺は拳西さんのこともまあたしかに嫌いだが、単純にアイツのことも嫌いなんだよ。ついでにテメェのこともな」
「………。あー、やっぱり僕がいちばん未熟なのかな」
「はぁ?もうどうでもいいから消えろよマジで」
「……うん、とにかく檜佐木さんとは仲直りできたから」
◯◯の言葉を聞いて、◯◯ならそういうと解っているから檜佐木は礼には来ていないのだろうと思った。
「死神に多少の歳の差なんて関係ないはずなんだけどな」
仲良くはきっと一生ならない『兄』ふたりのどこかわかり合ってる関係が少し羨ましかった。
end