代用品に花の咲く
夜襲失敗後旦那再起動失敗によりドゥフシャラーちゃんに権限が移っちまった時空。
注意:ドゥフシャラーちゃんとアシュヴァッターマンが可哀想
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クリシュナが言った。「もう殺さなくていい」のだと。
夜襲をすることなく旦那の元へ帰ると、旦那は今にも絶えてしまいそうで。
やった、やったのだ、と。俺の嘘の報告に笑って、そうして、彼は死んだ。
…………死んだのだ。
ついぞ危惧した悪魔<カリ>になることはなく、人として死んだのだ。
胸で激流が暴れ、涙すら流してはすぐ蒸発するほどに怒りが滾っていた。
それでも、それでも彼が人として死ねたことだけは……それだけはきっと、良かったことなのだろうと飲み込んだ。
サインダヴァの地が燃えたと聞いたのは、それからすぐのことだった。
「クソッ、クソックソッどういうことだよクソッタレ!終わったんじゃねえのかよ戦争は!!!」
どうして、なぜ、なぜよりにもよってあの場所が襲われる!
あの場所は旦那の末の妹の、大事な大事なドゥフシャラーの嫁いだ地。彼女が夫と共に守ると決めたその地を一体誰が!なんの権限で!もうとうに終わった戦をどうして!そんな最悪な形で!
頭を流れる怒りの奔流に飲み込まれかけながらその地に向けて駆けていく。
そうして、そうして俺は、それを見た。
燃える炎の中、めちゃくちゃに切り裂かれた数多の死体の前に呆然と立ち尽くす彼女の姿を見た。
「ドゥフシャラー、無事か!?」
彼女は呆然と立ち尽くしている。
「っ……ここは危ねぇ、とにかく行くぞ!」
それは呆然と立ち尽くしている。
……様子が、おかしい。
「ドゥフシャラー!!」
それが、振り向いた。
錆び付いたナイフを無理やり引き抜くように。
「あ…………………………」
そこで初めて気がついた。
手が真っ赤に染まっているのは誰かを抱き上げたからだと思っていた。
違う。
その爪はあまりにも鋭く尖り変形していた。
鱗が喉元まで伸びて。
そして目が、目が赤く染まって。
「なん、で……………………」
「足りないの」
短くそれが言う。
「足りないんだって。足りないの。あれっぽっちじゃ足りなかったんだって。なんでだろう。なんでだろうね。兄貴たちもみんな死んで、夫も、家族も、みんな死んで殺されて。足りないんだって。それなのにまだ足りなかったんだって。こんなにたくさん、みんなみんな死んだのに、まだ死ななきゃいけないんだって」
「………………は?」
「足りなかったの!だから!そうしなきゃいけないんだって!本当は、兄貴がそうなるはずだったけど、もう機能不全?でどうにもならなかったから私が、最後に残った私が、私がやらなきゃいけないって!やらないと、もっとしんじゃうんだって、だから、わたし、わたし」
何を言っている。
終わったんじゃなかったのか。
終わらなかったのか。
終われなかったのか!
まだ足りなかったのか!
なにが、なにが、なにがもう殺さなくていい、だ!とんだ嘘だペテンだじゃあどうしてこうなっている!
<機能不全>
『……旦那、旦那』
『おお、どうしたアシュヴァッターマン』
『これやる』
『ほう、わし様に贈り物とは殊勝な心がけだな!……これは?』
『そいつは……あー……なんつーか……御守りだ。魔を遠ざける……みてえな。アンタは魔にも好かれるからいつか攫われたりしねえか心配なんだよ』
『アシュヴァッターマン……お前は良い子だな〜〜〜!こんなにもわし様のことを想ってくれるとは!』
「あ……」
あれか。カリ化の兆候がうっすらと見えてきた旦那にあげたその進行を止めるための。
「あ……あ……!」
ああ、そうか、それならこれは。
この惨状は全部。
「あああああああああ!!!!!!」
俺のせいか。
叫ぶ俺を見て、悪魔へと変貌していく彼女が言う。
「だから、殺さなきゃ。私がやらなきゃ。兄貴たちが背負わされた役目を私がやり遂げなきゃ。私が。私だって兄妹なんだから。やらなきゃ。殺さなきゃ。殺さなきゃ。殺さなきゃ」
「…………………………殺したくないよう」