他人の関係

他人の関係








啓吾が聖者の顔をしている。

「水色、俺は今日初めて存在を赦された。

平子さんは優しい柔らかさと温かさに溢れていた、制服の凶器も確かにイイ、でもぎゅっは…ぎゅって凄いんだな…」

「ふ〜ん一生分の運を今日使い切っちゃったね」

「俺のラブストーリーはここから始まるんだよ……時間って足りないよな…」

これは相当重症のようだ。

啓吾を狂わせたハグ使い、平子さんというのはぼくらのクラスメイトで、物凄く頭がいい訳でも、特別容姿に恵まれているとかでもない。強いて言うなら祖父母が外国の方らしく、金髪で癖毛。少々化粧気が強いのでギャルな印象を受ける。そんな女の子だ。

彼女は男子生徒から絶大な人気を得ている。理由はギャルが嫌いな男はいないと云う事と、その性格に起因する。

誰に対しても明るく分け隔てない。優しさと緩さで周囲を気遣う彼女に気軽に話しかける男子生徒も少なくない。

そんな女子に今回啓吾が引っかかってしまったのだが、応援する気は起きなかった。

彼女は啓吾でなく、石田に気がある。かなりの頻度で視線を送っているのだ。本人はバレていないと思っているかもしれないが、普通にわかる。

「あのさ啓吾」

放課後、バイトに向かうため教室を出る準備をしている彼に声かけた。

するとぼくの方を向いた彼の顔は

「やめろよ……何も言わなくてもわかっている……」

絶望一色に染まっていた。

「やっぱ諦められないの?」

「あぁ無理だよ……あの見た目からの清らかなぎゅっ、もう俺死ねるわ……」

「そこまでかあ」

どうやら完全に心を持って行かれてしまっている。

「さっき言ったけど、啓吾じゃダメだと思うんだよ」

「まだ言われてねーよ!」

「だって平子さん石田の事好きみたいだから」

「えぇーーーー!!!!」

絶叫と共に啓吾が崩れ落ちた。

「マジかよぉ……グッバイマイスウィートハート!!」

「まだ決まったわけじゃないと思うんだけど」

啓吾は肩を落としながらトボトボと教室を出て行った。その後ろ姿からは哀愁が漂っている。

まあ明日には立ち直るだろう。そこが長所だ。

ぼくも帰ろうと思い自分の鞄を手に取り教室を後にする。

その時、視界の端にある人物が映り込む。先程まで話題に上げていた人物。平子さんだった。

「小島やァ、また明日な〜」

笑顔で手を振り挨拶してくる彼女に対して、ぼくもまた手を振り返す。

そのまま歩いて行くのかと思ったが、何かを思い出したかのように引き返してきた。

「あの、アタシそんな石田の事見てるン、バレバレかな…?」

「石田の目が気になるなら、他の人に抱きつくの辞めた方がいいんじゃない?」

質問の内容からして、他の男子生徒(一部女子生徒)を勘違いさせている自覚はあるようだ。平子さんは恥ずかしそうに眉根を寄せている。

その仕草は男心をくすぐる。狙ってやっていないなら恐ろしい人だ。

プライベートは知らないが、校内の石田と平子さんの間には物理的な距離がある。

石田は自分のグループに属する人間以外との会話は必要最低限にしており、平子さんが話し掛けなければ言葉を交わす機会はない。

正直ぼくは石田と平子さんが特別お似合いだとは思わない。

石田は少々変わっているがモテる。その割に浮ついた話がなく、平子さんに恋愛感情を持っているように見える。

平子さんは石田を好きなら石田以外の人間にハグは辞めた方がいい。石田を煽りたいなら勝手にすればいい。

ぼくはそれしか伝えられない。

「ありがとう小島ッ。これあげるわ」

「これは……」

ぼくの手に渡されたものを見る。

「キャンディポップ……」

「そォ!今朝コンビニで買ったヤツやねんけど、いっぱいあるからあげる!じゃあバイバイ!」

言うだけ言って、彼女は帰って行ってしまった。手のひらに残された2本の飴を見つめると、イチゴ味とオレンジ味と書かれていた。

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成績は10位以内ではないし娘ちゃんの隣に織姫がいたら男子目線は

『井上さんもイイが平子さんはフツーに可愛い。というか俺が一番平子さんの良さを理解ってる』系になりそう



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