今も尚

今も尚








「スゥ……スゥ……」

まだ幼さを残すもうすぐ16歳の誕生日を迎える少年が気持ち良さそうに眠っていた

薄暗い部屋に少年……"ロー"以外にもローの子分である"ペンギン"、"シャチ"、"ベポ"が互いを蹴飛ばし合い眠りこけている

それを見ていた"ある男"はクスリと笑いまたローに目を移す

男の名は"ゴール・D・ロジャー"

かつて世界から海賊王と呼ばれた男

ロジャーはもう故人だ

それなのに現世に留まり続けられる原因は目の前にいる少年が要因だった

ローは幼くして故郷を無くし、海賊団に入った

それしか……生きる方法がなかった

珀鉛病に犯されたその体は、3年持つか持たないか……

だが転がり込んだその先に、ローは運命の出会いをする

その海賊団に潜入捜査していた"ドンキホーテ・ロシナンテ"またの名を"コラソン"

それでもなお、世界は"トラファルガー・D・ワーテル・ロー"に牙を剥く

ローが何をしたのか、世界はまたローから大切なものを奪い去った

ずっと見守ってきた

だからこそローの痛みは痛いほどわかる

『……』

ロジャーはローの頭を撫でようとし、失敗した

霊体の体では助けてやりたくても助けてやれない

ただただローのことを見守ることしか出来ない

それが悔しくて悔しくて仕方なかった

何度歯をかみ締めたか、何度死んだことを後悔したことか

そもそもの要因は己がフレバンスに良く訪れたことが原因だ

ロジャーがいなかったらもしかしたらフレバンスは滅亡していなかったかもしれない

レストもミラもラミも死んでしまうことは無かったかもしれない

ローがこんな茨な道を選ばなくても良かったかもしれない

おれが、いたから……

『ごめん……ごめんなぁ……ロー……っ!おれが、愛しちまったばっかりに……っ!!!』

そうだ

ロジャーが愛した結果がこのザマだ

フレバンスもルージュもエースもみんなみんな自分がもたらした結果の運命

ずっとこの世界を見てきた

色んな人が傷つき失った

己が大海賊時代なんて招いたせいで

『ごめん……ごめん……っ!』

「……?ロジャー、おじ様?」

『っ!?』

ローがうっすら目を覚まし体を上げ、虚ろではあるもののその目は確実に"ロジャー"を見た

ロジャーは目を見開き固まる

ローは寝惚けているのかそれとも本当にロジャーを認識しているのかは定かではない

確実に言えることはローはロジャーを"見ていた"

『ロー……』

「ねぇ、ロジャーおじ様……おれ大切な人が沢山増えたんだよ……」

ぽつりぽつりとローは自分の言葉をロジャーに伝える

一つ一つの言葉を噛み締めるように

「コラさん、ヴォルフ、ペンギン、シャチ、ベポ、スワロー島のみんな……」

『……』

「ラミに母様に父様に……ルージュおば様もおれにとってすごく大事な人……」

「もちろん、ロジャーおじ様だって大好きだよ」

『!』

ロジャーは俯いていた顔をバッとあげ困惑しながらローの顔を眺めた

やはりローは目がハッキリしていなく寝言のようなものなのかもしれない

だからこそロジャーはローを信じられないものを見るように見た

「フレバンスが滅んだ時、おれ本当は死のうかと思った」

「それでもロジャーおじ様がおれに力をくれたんだ」

「……生きようと思える"心"を」

ロジャーはグッと涙を堪えた

そんなことない。おれはなにもしてないんだロー

生きようと思えたのはお前の力だ

おれの力なんかじゃない

おれは、おれは……っ!

「おれが今こうしていられるのもロジャーおじ様がおれを"愛してくれた"から」

『っ!』

「みんながおれを愛してくれたから、生きてほしいと願ってくれたからおれは今もここで生きていられる」

「確かに、お世辞にも良い人生だったなんて今は言えない……」

「それでも」

ローは両手を上げ"触ることなどできないはず"なのにロジャーの両頬をそっと包んだ

「おれは、胸を張って幸せだって言えるよ?ロジャーおじ様」

フワリと花が綻ぶようにローは美しく微笑んだ

見開いたロジャーの瞳に光が射す

「だからもう、泣かないで」

『……っ!!ローっ!!』

ロジャーは耐えきれなくなりローをキツく、強く抱き締める

本来触ることの出来ないはずなのに、この時は確実に2人は触れ合った

『ごめん!ごめんなぁ!!おれがお前を、お前たちを愛しちまったから!!おれのせいでフレバンスが!!』

「ううん……ロジャーおじ様のせいなんかじゃないよ……それはおれが一番よく分かってる……」

『それでも、お前に色んなもの背負わしちまった!!謝っても謝っても……っ!償いきれねぇ!!!』

「ロジャーおじ様、それは違うよ」

ローは咽び泣くロジャーの瞳をしっかり見詰め、言葉を紡ぐ

「これはおれが自分で背負うって決めたんだ。それに、"おれのせいだ"なんてそんなこと言わないでよ」

ローは未だに止まらないロジャーの涙を拭う

「誰がなんと言おうと、おれはロジャーおじ様のこと大好きなんだよ」

「ずっとずっと……愛してる」

たった"愛してる"の一言

それでも確かにその一言はロジャーのもうない心臓によく馴染んだ

まだ16歳でこの世の理不尽を経験したと言うのに……何故ここまで純粋に、ただ真っ直ぐに愛を伝えることが出来るのか

ローは自身をキツく抱き締めるロジャーにも負けないぐらい強い力でロジャーを抱きしめる

「ロジャーおじ様……すごい暖かいね……」

『ああ……っ!そうだなぁ……っ!ローも、あったけぇなぁ……っ』

もう二度と味わうことなんてないと思っていた体温

久しぶりに感じたこの温かみはロジャーの苦しみを簡単に溶かしてくれた

「お、れ……きっと、やり遂げるよ……」

ローの瞼がゆっくりと重力に従い落ちてゆく

「こら、さんの……ほんがいを……きっと……」

遂に体を完全にロジャーに預けローは深い眠りへとついた

『……ああ』

ロジャーはそっとローを布団に下ろし掛け布団をかけ直してやる

このことをローが起きても覚えているのかは分からない

もしかしたら寝惚けてただけなのかもしれない

それでもロジャーにかけてくれた言葉は全て"本物"だった

それだけで充分だ

『おやすみ、ロー……おれも愛してるぜ』

そう言ってローの頭を撫でるロジャーの手は決してすり抜けることなくロジャーの深い深い愛を、確実に繋いでいた

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