今までの4
真っ暗な夜道を一匹の怪物が歩いている
昼間あった事件の影響なのか、それとも突如現れた怪物を警戒してるのか周囲から視線は感じるも人の姿はどこにもない
『ジケンガアッタノハコノ辺リデショウカ』
グレンデルメンバー、ダダムガルは優梨から連絡を受け事件現場へと向かっていた
二人の女によってこの付近に住んでいた会社員の男が傷を負ったという話
ダダムガルも事件があったという話は聞いていたのだが、詳しいことは把握してなかったため調査してほしいという優梨からの頼みを断る理由もなかった
『ソレニシテモ…最近、事件ガ多イデスネ…』
口の無い顔から不安の言葉が漏れる
自分のような狂気や能力を持った人間が生まれてくる世界だ、悲しくなる出来事は決して少なくは無い
それが最近はより一層増えたような気がする。ダダムガルは何か嫌な予感がしてならなかった
「イエ…気ニシテモ仕方ナイデスネ。今ハ調査ニ集中シマショウ」
襲い来る不安から逃れるようにダダムガルは闇の中へ進んでいった
数分歩いてダダムガルは事件のあったアパートの前まで来ていた。どうやら被害は相当のものらしく、壁は所々穴が空いており、幾つかの部屋は扉が破壊され中が丸見えになっている
部屋の中には家具などが置きっぱなしになっていたものの、どこも電気はついておらず住人はいないようだった
事件のことを考えて一時的に別の場所で過ごしてもらってるのだろう
『コレハ酷イデスネ…』
ダダムガルは被害者の男には悪いとは思いつつ、被害が出たのが一人だけで良かったと思った。もし他の住人も居れば下手をすれば死者が出ていたかもしれないだろう
そんなことを考えながら暫くアパートの状況を見ていたダダムガルだったがふと足元に違和感を感じた。ふわっとした毛の感触
『オヤ?』
下を見るとそこには小さな兎のぬいぐるみがあった
『ワァ!カワイイ兎サン!貴方ハドコカラ来タンデスカ?』
ダダムガルは興奮したように兎のぬいぐるみを持ち上げる。突然、ぬいぐるみが足元に現れた怪しさよりも可愛さの方が勝ったのだろう
持ち上げられた兎はぬいぐるみでありながら、ダダムガルの声に反応するようにジタバタと暴れ始めた
「うるせぇ!デケェ声出すんじゃねえよ目立つだろ!!」
『オオ!最近ノヌイグルミハ会話デキルンデスネ!』
ぬいぐるみが喋り出すという異常事態が起こるもダダムガルは気にせず頭を撫でて会話をする
「とりあえず離せー!!」
「俺の名前はジョゼ。ぬいぐるみみてぇだがこれでも狂気だ」
ダダムガルの手から解放されたジョゼは自己紹介すると「よろしくな」と片手を上げる
狂気と聞き、ダダムガルは先ほどの興奮はどこかへ行きグレンデルメンバーとしてジョゼに接していく
『ヨロシクオネガイシマス。ジョゼサンハ、何故ココニ?』
「まぁ色々あってな。普段はぬいぐるみとして、ここに住んでる女の子と一緒に暮らしてる」
「そんなことよりお前さん、昼にあったことについて調べにきたんだろう」
ジョゼは小さな体をアパートの方へと向ける
「着いてきな。俺が見たこと、全部教えてやるぜ」
ジョゼとダダムガルはアパートの一室に入っていく
部屋の中には荷物などは置かれておらず、かなり埃っぽい
「ここなら万が一見つかることもないだろう。ま、誰も来ねぇとは思うが念の為な」
ジョゼは部屋の真ん中まで行くと床に尻を置く。ダダムガルもジョゼを踏み潰さないよう気をつけながら、向かいへと座った
『ココハ…使ワレテナイ部屋デスカ』
「ああ。住んでるやつがいなくてな」
ジョゼは何から話したものかと耳をくるくる回しながら考える
「俺も全部見てたわけじゃないが、まずは犯人について話そうか」
そう言うとジョゼは自らの口に手を入れ、中から紙と鉛筆を取り出す
能力によるものだろうか、自分の体よりも大きなものを取り出したが特に苦しんだりしている様子もない
『犯人。確カ、二人ノ女性ダト聞イテイマス』
「片方は知らねぇな、俺が見たのはこんな女だ」
ジョゼはぬいぐるみの体で器用に紙へ絵を描いていく
やがて紙の中には筋肉質な女性が現れる。よく見ると背も高そうな気もした
『コレガ…?』
「ああ、犯人の一人だよ。腕が伸びてた変な女だ」
『腕ガ伸ビル!漫画デ見マシタ!』
「おう、それは置いといてくれな」
ジョゼはもう一つ紙に絵を描き始めた
出来上がったのは、これといって特徴のない何処にでもいそうな普通の中年男性の絵
最初は何を描いたのかピンとこなかったが、ダダムガルはすぐにその絵が被害者の男性を描いたものだと分かった
「平川のおっさんと戦ってたのはこの女だ。…正確に言えばおっさんを乗っ取ってた狂気とか」
ジョゼは二つの絵を並べてそう話す
被害者が狂気に乗っ取られていたことに驚いたダダムガルだがとにかく話を聞くことにした
「戦いの結末までは見れなかったが、女はおっさんの体にいた狂気だけを殺していった。…どんな手を使ったかしらねぇがな」
話を聞いてダダムガルはあることを思い出した
被害者の男性は傷もそうだが、何より精神の疲弊が酷かったとのことという話だ。これが狂気から解放された反動によるものなら納得ができた
自分とは違う存在が中に居続けるというのは、想像以上に気持ち悪いものだ
『話ハ分カリマシタ。デハココマデガ、ジョゼサンノ見タコトデスネ?』
「そうだな。……この絵は持って行ってくれ」
ジョゼは自身の描いた絵をダダムガルへ渡す
それをダダムガルは丁寧に体の中へと仕舞った
「お前さんが犯人を探してるっていうなら頼む。絶対に捕まえてくれ」
『モチロンデス。デスガ、何故貴方ガ…?』
「ま、仕返しだな。これでも一緒に住んでる子とは長い付き合いだ。彼女を不安な気持ちにさせた奴らが気に入らないんだよ」
ジョゼは窓の外を見る
長い夜は始まったばかりだった