仇敵、恩人、そして〇〇
私には親友がいた。2人。1人は、愚直な男の子。私と新時代を誓い合った。私をずっとそばに「置いて」くれた、私の船長。
もう1人、それは私を人形にした張本人。互いに海賊であることも知らず、ただ普通に、同年代と女の子と思って仲良くしていた。親友になれた。そう思っていたのに。
「どうして、私をおもちゃにしたの?・・・そんなに嫌いだったの?シュガー」
「・・・・・・」
目の前には歌になったシュガーがいる。触れればおもちゃになることは既に分かってた。だからウタワールドに早々に誘った。
勝ち負けは問題じゃない、なぜ、なぜ。
「私は、シュガーの事を友達だと思ってた。ううん、今でも思ってる。お互いに海賊って事を知っても。シュガーは・・・そうじゃなかっ「違う!!!」
その声はウタワールド中に響き渡った。とても強い、否定の感情。それが嘘じゃないことくらい、すぐに分かった。
「私は・・・!!」
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12年前、姉と共にファミリーに加入してしばらく経った頃。姉妹共に悪魔の実を若様から頂いた。姉は最強種の自然系ユキユキの実。対して私は超人系ホビホビの実。
食べた瞬間理解できたことは2つ。
・手で触れた生き物をおもちゃにできる
・私の体は今後一切、一歳も年を取らない
なんだこれは、あんまりじゃないか。手で触れられる距離まで近づかなければ意味がない。鍛えようにも一生子供の体じゃたかが知れている。“女”であることも利用できない。
つまり私は、受けた恩すら返せない役立たずである事が決まった。
転機は12年前、音楽の島エレジアに訪れた時だった。ただの補給目的で訪れた島で、綺麗な歌を歌う少女と出会った。
「私はウタ!新時代を作る女よ!」
「・・・シュガー。ただの子供よ。何もできない、ただの子供」
それからは、まぁ、私が唯一年相応になれた時だった。あれ程「楽しい」と思えたことはなかった。
ウタに誘われ、コンサートホールに入れてもらった。音楽の島というだけあって、素晴らしい音色を聞かせてもらった。
「お疲れ様、いい音色だったわ。」
「ありがと!・・・あれ、なんだろ。」
彼女の視線の先には古びた楽譜があった。あんなものあったか?誰が置いた?
そこで思い出した。若が言っていた事。
『この島には古代兵器に匹敵する魔王が封印されてるらしい。』
『類稀なる歌の才能を持つ者の前に楽譜の姿で現れる。』
『それを歌えば、魔王が現れ破壊の限りを尽くす。』
『その歌の名前は────────』
「駄目っ!!ウタ!!それを『歌っちゃ駄目!!』」
「むぐっ・・・」
夢中だった。悪魔の実の能力は精神状態に影響を受ける。だから、『発動してる』とも知らず『彼女の口を塞ぎ』、『歌うな』と言ってしまった。
その瞬間、私の中から親友は消えた。キィキィ鳴くうるさいおもちゃがそこにいるだけだった。いつの間に能力を使ったんだろう。誰に使ったんだろう。
なぜ私はこんなところにいるんだろう。早く若様の元へ戻らねば。
────────────────
「知らなかった、記憶を失うなんて。初めてだった、能力を使うのが。」
全て話して漸く理解できた。この12年間、ずっと胸に穴の空いたような気分がしていた。その原因が。私は許されざる罪を犯した。
若の命令ではない、自分の意思で1人の人間を、たった1人の──を、消したんだ。
「謝っても許されないなんて事分かってる。だから、私を友達なんて、親友なんて呼ぶのは、もう」
やめて、そう言おうとした瞬間、温かい感触がした。いつの間にか五線譜の拘束は外れていた。代わりに、とても緩やかで、でも外せない拘束。
「シュガーは、私を、エレジアを守ってくれたんだね・・・ありがとう!あなたはずっと私の友達だよ!」
「・・・そう。・・・ありがとう・・・ごめんなさいっ・・・!!」
気づけば、王宮内にいた。さっきまでの幻術空間は消えていた。横には眠りこけるウタがいた。私はその背中に手を回し──────
「絶対に、あなたのことは忘れないから。またいつか会いましょう。」
いつか、歌を聞かせてね。私の、たった1人の──