仄暗い夜の底

仄暗い夜の底

しがないSS書き


CP注意だぜ!(カルセレ)

それでもいいならばゆっくりしていってね!
















どろっどろに溶けた愛はどこへ行くのでしょう?


ある昼下がりの晴れたミアレシティの店の中で、二人の端正な顔立ちをした少年少女が椅子に腰掛けていた。少年の名はカルム、そして少女はセレナ。カルムはカロス地方のチャンピオンであり、世界を滅さんとしたフレア団を仲間と協力して壊滅させた若き英雄だった。

セレナは、そんなカルムに優るとも劣らない実力を持つライバルでお隣さんだった。


二人の関係はまさに近所付き合いと言ったところで、お互いが一歩引いて距離を置き、適度に付き合う。踏み込まないちょうどいい距離感。毎週土曜日に決まってポケモンバトルを行い、勝った方がその食事代を奢らせる。これが二人の唯一と言っていいふれ合いで、ルールでもある。


今日はカルムが勝利し、ミアレシティのお気に入りのカフェで休息と食事を取っていた。カルムはくず餅、セレナは普通の団子を頼んで食べていた。


静かなカフェの中で、セレナが沈黙を破る。


「あーあ…また負けちゃった…本当に油断も隙も無いわね」


「セレナのおかげだよ…オレも6体の手持ちを全部引き出されたし」


「嘘つけ、お世辞はいいの。私との戦いのその裏で、起点作成や選出誘導までしっかり熟して、エースの舞台を整える…まんまと嵌められた。」


「嘘じゃないさ、ここまで強くなれたのはセレナのおかげだよ。お隣さんがこうでなきゃ、オレはチャンピオンにも英雄にもなれなかった。感謝してるよ。」


「…どうも」


「どう致しまして。」


ニコニコと笑うカルムを前に、淡白な団子を一つ、パクリと食べる。甘過ぎず、酸っぱ過ぎず、さっぱりしていてちょうど良い。まるで私たちの関係のように。

カルムが口を開く。


「お隣さんがいてくれなきゃ、オレはあのまま旅に出ても、腐っていたんだと思う。セレナみたいに切磋琢磨できる近しいお隣さんがいたから…オレは…」


カルムは、そう言いながらくず餅に黒蜜を掛けていく。どろっ、どろっ、どろっとした黒い液体が純白の餅を崩して侵食していく。その様子をセレナは、じっと見つめる。


「オレは、セレナがいなきゃ駄目なんだ。お隣さんがいなかったら、オレはそのまま、何も出来ずにゆっくりと沈んでいくだけ…」


そう語るカルムの瞳はまるで、海のどん底のように深く、夜のように、彼のヘルガーのように、仄暗い。


まるで地獄にいる様な…


その様を見て、セレナは少し身震いする。確かに、カルムは英雄でチャンピオンだ。社会的にも知名度は高く、鳥のように高い場所にいる。だがその分掛かる負担も楽じゃない。


常に周りから期待され、その肩書きからどうしても人が近寄り難い。そして毎日が仕事で忙しい。


ただのライバルとして、さっぱりとしたままでいられるセレナに対して、カルムには心的負担がダイレクトに乗っかっている。それを支えているのは…


その正体に気づき、慌てたセレナが、カルムを見ると、彼はニヤリと、妖しく笑った。

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