人生2周目の高家に生まれた直義妄想続き
剣術の稽古
直義5歳くらい
「今日から剣術の稽古を始める。まずは正しい姿勢で刀が振れねばはらん。構えてみよ」
「っみゃい!」(噛んだ)
師直はその場にしゃがみ込んで悶絶した。
気負って噛んじゃうの可愛い。
その近くで、遠くの空に声にならない雄叫びをして衝動を誤魔化した師泰。
手で顔を覆って神仏に感謝し天を仰いだ祖父師重。
直義は噛んだのが恥ずかしくて、涙目で顔真っ赤にしてぷるぷるしてた。
兄や父が当てにならないのを見て、取り敢えずのフォローとして指導を始める重茂
「ほら、まず背筋をもっと伸ばして、そうそう、刀はこう…」
実は対直義の武術教育に一番向いていた。
立ち直った師直。
重茂に木刀の構えを指導されている直義を、さりげなく重茂から役目を交代して、背後から抱き込む形で木刀を握る直義の両手に自分の手を重ねる。(ゴルフのセクハラ指導のように←偏見)
「姿勢はそれで良い。まずは素振りだ。刀を振ることに慣れよ」
「はい!」
師直の手が離れて、直義が素振りを始める。
「みゃあっ!にゃあっ!(やぁ!やぁ!)」(人語は副音声でお送りしております)
力も勢いも足りない直義の木刀での素振り。
子猫の猫パンチに師直もニッコリ。みんなニッコリ。
「その調子だ」
「はい!」
数回の慣れない素振りで、もう直義の姿勢は崩れ始めていたけれど、初めてなのだから、一生懸命なのだから、可愛いから、よし!
そして、ここに指導者に向いている人間が一人も居なくなった。
「にゃあっ!にゃっ!みゃあ!(やぁっ!やぁっ!やぁ!)」(人語は副音声でお送りしております)
直義が素振りを続けていると、その側に植えている庭木の葉がひらり…と直義の前に舞い降りて来た。
直義は、目の前に舞い降りようとしていたその葉を見つけて、木刀で叩き切ろうと目標を定めた。
顔を輝かせ、やる気に満ちた目で気合いを入れた直義は、大きな声をあげて舞い散る葉に大きく振りかぶった。
「ぴゃああっ!(やああっ!)」(人語は副音声でお送りしております)
すかんっ!
掠めることなく、木刀は華麗な空振りをして空を切った。
ひらひらと木の葉は直義の目の前で地に落ちていく。
直義は顔を真っ赤にして、羞恥からぷるぷると小さく体を震わせた。
そうしてこの醜態を見られる事が恥ずかしいというように、顔を赤らめたまま周囲の様子を伺う。
その様子の可愛さに悶絶していた師直達は、直義が視線を向ける寸前にさっと顔を背けた。
直義が視線を向けると、師直は師重と何やら顔を突き合わせて話し込んでいて、師泰は難しい顔をして珍しく何やら本(逆さ)を読んでいる。そして重茂は直義に背を向けて,空に向かって大きく背伸びしていた(一番誤魔化し方が下手)
見られてなかったとホッとしたのも束の間、誰も自分の稽古を見ていてくれなかった事が悲しくなりシュンとする。
「…ちちうえ」
直義はトボトボと師直のところまで数歩歩いて行くと、師直の袖をツンと引っ張った。
「…おけいこ、ちゃんとみてください」
瞳を潤ませて強請る直義に、師直の心は絶叫をあげて身悶えていたが、あまり発達していない表情筋のお陰で、ほぼほぼ無表情を保てていたのは僥倖だった。
「すまん。ちゃんと見ているから続けてみろ」
「はいっ!」
顔は無表情を保てていたが、理性は振り切っていたようで、気落ちしていた直義の頭をこれでもかと撫で捲る。頭を撫で頬を撫で顎を伝い喉を撫で擽る。猫ちゃん猫ちゃん。
謝られ、慰められて、元気良く返事をした直義が師直から少し離れてまた素振りを始める。
名残惜しい手が空に浮いたまま、師直が直義の素振りを見守っていると、素振りをしながら直義がちらっと師直を見て、ちゃんと見ていてくれていることが嬉しいと言ったように満面の笑みを浮かべた。
凄いでしょ?上手でしょ?見て見てと言うように元気に素振りをする姿に、師直達はみなほっこりし見守った。
もう姿勢とか勢いとか、そんなものどうでも良いな、頑張ってて可愛いからよし!
やはり武術指導者はいなくなり、そしてただ可愛い直義を見守る父と叔父と祖父がいるだけの場となった。
今まで、まだ早い、怪我をしたらどうする、危ないと男性陣による親族会議(父、叔父、祖父)で直義の武芸教育がなかなか進まなかったのを見兼ねた嫁が口を出した。
(基本、嫁は男の子で嫡男の教育は師直に一任している。嫁も直義が武術に向いてるとは思ってない)
「素直で可愛くて賢い子だけど、でも将来、あの子が執事としてお仕えする時に、多少の武術が出来なきゃあの子が困るさね。お義父上やアンタの後継いで高一族の棟梁にもなるわけだしさ。あんまり弱っちかったら舐められちまうよ」
嫁の発言にその場が凍った。
「…そんな舐めたまねするヤツは儂らが許さん」
「……」(無言で酒を呑む師直)
「……」(無言で拳を鳴らす師泰)
「(義姉さんが言ってる事正しい筈なんだけど)」
怖くて発言出来ない重茂。
高一族サーの姫となった我が子の行く末を思って遠い目をした嫁。