人形劇(後篇)

人形劇(後篇)


※作者のレスでこの作品は「トゥルールートの続き」と発言しておりますが、正しくは「アポピスを打倒、砂漠もオアシスとなった正史とよく似た世界線」ということに修正します。ご了承ください。



二人の少女が勇者の眠る機械仕掛けの神殿の封印を解いた丁度その時。

少女はアビドスの片隅で廃校舎に佇む魔神と邂逅した。

 

「あ……『小鳥遊ホシノ』?…………いやいや、そんな、どんだけ前の、ちょ、どういうことです会長!?」

 

「うへ~、今度の子は随分と元気がいいね。何かいい事でもあったのかい?」

 

「だ、誰のせいだとっ!あ、いえ、そうではなくてですね」

 

「あまりいじめないでください、先輩」

 

「ごめんね~、おじさんもういい年だからさぁ。若い子見ると揶揄いたくなっちゃうんだよ」

 

「それを言ったらおじさんって年ですらないでしょう」

 

「あはは、それもそうだ」

 

「いや、ちょっと………もういいです。一周回って落ち着いてきました」

「それで、あの『小鳥遊ホシノ』さんご本人ということでよろしいんでしょうか。あの、暁のホルスの」

 

「…随分と懐かしい呼び名だね~。そうだよ。おじさんがその『小鳥遊ホシノ』。キヴォトス史上最悪の大罪人、数多の生徒を砂糖漬けにしたアビドスカルテルの首領」

「本当なら必要なことだけ伝えるところだけど、懐かしい徒名を聞けて気分がいいから色々と教えてあげる。」

 

「っ、先輩」

 

「いいからいいから~。とは言ったもののどこから話そうか。事件やおじさんのことは知ってる?」

 

「えと、案砂糖でやったのと、小鳥遊さんたち3人は表向き幽閉されていたけど裏でシャーレの人員として働いていたっていうのは会長から」

 

「ホシノでも先輩でも何でもいいよ~、かたっ苦しいし。まあ、大筋はそんなとこだね」

「最初は順調だった。こんな風に穏やかに生きていていいのかって悩んだこともあったけど。それでもヒナちゃんやハナコちゃんと3人で贖罪を続けながら生きてきた」

「はじまりは、その数年後。おじさんたちが20歳くらいになろうかって時だった。私たちの体は、いつの間にかヒトじゃなくなっていた」

 

「……え?」

 「私とヒナちゃんがさ、どうにも成長が遅いから何か砂糖の影響が残ってるんじゃないかって検査することになったんだよ」

「アリスちゃんが砂漠をオアシスに変えたことで、皆を蝕んでいた砂糖は取り除かれた。でも、影響は0にはならなかったんだ。原因は特に大量の砂糖を摂取していたことかな。髪も爪も伸びるし、汗もかく。怪我をしたら血を流してその内ふさがる」

「それでも私たちの体は、ヒトでも砂でもない何かに変質していた。成長することも老いることもなく、学生の頃の姿のまま永遠に存在し続ける不老者に」

「慌ててキヴォトス中を調査したけど、幸か不幸か症例はたった3人。それもワケアリモノ。治療の目途もたたず、こうして今も元気に死に損なっているんだ」

 

「だから、ずっとここに……」

 

「まあ、これだけならまだ良かったんだ。死のうと思えば死ねるし、おなじく寿命がないアリスちゃんを寂しがらせずに済むのなら、ってね」

 

 

「全ての終わりは、その数十年後。“先生”が“先生”じゃなくなった」

「寿命か、病気か、たんに定年退職しただけだったかな。今じゃあ記憶も朧気だけど、“先生”がいなくなって、新しい“先生”が現れた。それからすぐ」

「一人の生徒が、声を上げた」

 

「『“小鳥遊ホシノたちをシャーレから解放せよ”』」

 

「私たちはもう十分に罪を償った。シャーレを出て母校に帰るべきだ、ってね」

 

「……それは、いいことなのでは?」

 

「そうだね、当時のみんなもそう思ったのかな。大勢がその声に賛同してくれたよ」

「シャーレを幾重にも包囲するほどに」

 

「包囲ですか?そんな、それじゃまるで」

 

「当時のシャーレはね、ほとんど私たち不老者の監督だけが仕事だった。あの事件をきっかけに学校同士の連携が強くなった。生徒の手に負えない問題は裏で私たちが潰した。皮肉にも平和になったキヴォトスで、生徒間の問題は生徒たちが解決するようになった」

「シャーレの仕事は、少しずつ減っていった。それは間違いなくいいことだった」

 

「でも、それを良しとしないやつもいた」

「仕事が減っても、シャーレの権限はそのまま。そして、私たちという強大な戦力もある。……これは、おじさんたちが昔張り切り過ぎちゃったせいで、先生が交代するころには私たちのことが公然の秘密になってたせいなんだけどね」

 

「ああ、キヴォトスの都市伝説、歴戦の傭兵も裸足で逃げ出すダークヒーロー『三魔官』ですか」

 

「うへ~、それやめてって言ってるじゃんか~」

 

「えっ!三魔官って、あの往年の大人気コミックの!?元ネタあったんですか!」

 

「ほんと勘弁して……脱線しちゃったね。まぁ、そんなわけで。善意の子もいたんだろうけど、それら民意を操った悪意に就任したばかりの新米先生は抵抗できなかった」

「そうして私たちはアビドス、トリニティ、ゲヘナに連れ戻された。シャーレも解体こそされなかったけど、権限のほとんどを奪われて、先生はお飾りのお人形にされちゃったんだ」

 

「そうして…………ん~、、、そんだけかな」

 

「えっ!?」

 

「いや、だってやることはほとんど変わらなかったんだもん。シャーレから引き離したはいいけど扱いに困ったのかな?しばらくほっとかれて、結局は当代の生徒会長直属のエージェントに任命されたんだよ。他のみんなも似たような感じ。それからはゴロゴロしながらたまに悪党をぶん殴ったり、歴代生徒会長の政敵を恫喝したり、そんな風に過ごしてきた」

「汚れ仕事を誰かに押し付けたい学校と、表に出れないけど働かないとご飯が食べられない私たちでWIN-WINってわけだ。なんで不老なのにお腹は空くんだろうね~」

 

「そういうものですか…?」

 

「そ~いうものだよ。飴のつもりか、善意なのか、三食おやつに昼寝付きでアビドス内なら割と自由にさせてもらってるしね。ヒナちゃんたちにも全く会えなくなったわけじゃないし。シャーレもなんだかんだ生徒のお悩み相談とか続けてるみたいだし」

「“先生”が“”先生“じゃなくなって、私たちは一人になったけど、世界は何も変わらなかったんだよ」

 

「で、長々と喋ったけど本題ね」

 

「次期アビドス高等学校生徒会長。君には、私への命令権がある」

「その気になれば学区1つ単独で落とせる戦略兵器『アビドスの魔神』を適切に扱い」

 

 

「私の母校を、このキヴォトスを、どうか守ってほしい」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

“以上、これがキヴォトスに昔々から伝わる『3人の魔人』『小さな勇者』のお話だよ”

 

「……先生は、よろしいのですか」

 

“?”

 

「聞けばシャーレは元来持っていたものを不当に奪われたのではないですか!」

「歴代の先生も、当時の先生もずっとキヴォトスの、生徒の皆のために身を粉にして働いてきたというのに!ホシノさんたちにも声をかけましょう!私だけでは力不足ですが、彼女ら4人の力があれば、きっと────」

 

“それはダメ”

 

「何故です!?悔しくないのですか!さんざん利用して、要らなくなったからと捨て去った者たちが!」

 

“ちょっと寂しいけど、みんなが自分たちの力で答えをつかみ取れるならそっちの方がきっと素敵なことだから”

“それにね、必要とされなくなったわけじゃないと思うんだ”

“当時の生徒たちは、シャーレの権限をはく奪した。だけど、シャーレは解体しなかった。それはきっと、彼女たちが子供だから。どうしようもなく不安になった時の道導にするために残したんだと思う”

“だから私はここにいるよ。いつか、君たちが迷ったとき、その手を握ってあげるために”

 

 

「────本当に、先生は先生ですね」

 

“??? うん、先生だよ?”

 

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