人形使いの忘れきれない記憶

人形使いの忘れきれない記憶


愛と情熱の国ドレスローザ、その闇の部分の最たる場所地下工場。


「~~~~~♪♪♪」


この場所の主の一人である少女幹部・シュガーは今最高に良い気分だった。何故なら…。


「あら?中々美味しいわねこのグレープ。」

「そうなの♪最近のお気に入りなんだ♪」


彼女の最愛の姉であるモネとの久し振りの姉妹団欒を満喫している最中なのだ。彼女は普段パンクハザードという島でシーザー・クラウンと言う科学者の秘書兼監視役をしており、能力の関係でこの地下工場で缶詰めとなっているシュガーとは離れ離れの状態を強いられているのだが…。


「それにしてもシーザーの気まぐれもたまには役に立つわねー♪」

「うふふ、そうね♪少し悪い気がしなくもないけれど。」


ある日シーザーが新しい兵器を思い付き、完成に必要な材料の一つがこの島に存在しない植物だった為、飛行能力を持つモネに使いを頼んだのだが、折角来たのだからと思い立ち、ボスであるドフラミンゴの許可を得て一日滞在する事にしたのであった。(余談:使いを頼んだシーザーはそんなのいいからさっさと戻ってこいと急かしたのだが、ドフラミンゴに自分が依頼したSADの進捗について遠回しに責められ黙る事となった)


「いいじゃない、そんなの♪そんな事より今日は一日楽しみましょう♪」

「うふふ、そうね。」


さて、先ほども言った通り今は久しぶりの姉妹団欒である。もしこの場に何らかの用事で割って入る者がいれば例え幹部であろうと即座に自身の実の呪いを食らわせる程に大切な時間である。しかし何事にも例外と言うのはあるものである。


「フッフッフッ、楽しんでいるようで何よりだ。」

「あ!若様♪」

「あら若様。どうしたのかしら?」


その例外こそ今現れたドレスローザの現国王にして、彼女達ドンキホーテファミリーが崇拝する王下七武海の一人『天夜叉』ドンキホーテ・ドフラミンゴその人である。姉と並ぶ大好きな人の登場にシュガーは更に顔をほころばせた。


「なァに、ちょいとシュガーに伝えときてェ事があってな。姉妹水入らずを邪魔する気はねェから要件が終わりゃすぐ戻るさ。」

「若様なら良いのに…。それで要件って何なのかしら?」

「ああ、お前らクロコダイルは知っているな?」

「確かアラバスタを縄張りにしている七武海でしょ?それが?」

「実はな奴さん、どうも国家転覆を狙っていたらしくてな、それがバレて捕まった上に七武海の座を剥奪されたのさ。」

「え…?」


それは世界を揺るがす話であった。曲者揃いの七武海の中で優等生と呼ばれ、英雄とすら称えられたサー・クロコダイルが国家転覆を目論んでいたなど、彼を七武海と認めた世界政府の威信に関わる特大のスキャンダルであった。しかし…。


「えっと若様…。だから何だって言うの?そんなのクロコダイルが下手を打っただけで私には何の関係もない事じゃない?」


そう、そんな事はシュガーには何の関係もない話である。確かにドフラミンゴもクロコダイルも同じ王下七武海ではあるものの、新世界側のドレスローザを縄張りとするドフラミンゴと楽園側のアラバスタを縄張りとするクロコダイルではこれと言った関りはない。どうもクロコダイル側がドフラミンゴを嫌っているようなので猶更の話だ。そもそもこの国の地下に缶詰め状態の彼女からすれば外の騒動等基本「だから何?」の一言で済ませられる物でしかない


「それなんだがな、政府の連中は面子の為に海兵が奴の計画を潰したと発表しちゃいるが、実際に潰したのは海賊なのさ。」

「ふーん、つまり海賊の手柄を奪ったって事?ダッサ。」

「まぁ政府らしいと言えばらしいわね。」

「その辺はどうでもいいさ。問題は七武海に喧嘩売るような海賊がいるって事でな、まぁ現在地と伝え聞く実力を考えれば緊急って訳でもねぇが何かの間違いが起こらないとも限らん。そこでお前さんには問題の海賊の顔を覚えておいてもらおうと思った訳だ。」

「つまりそいつが目の前に現れたら即座に玩具にしろって事ね?了解したわ。」

「話が早くて助かるぜ。それじゃぁコイツが問題の海賊の手配書だ。」


そうして手渡された2枚の手配書を凝視するシュガーであったが…。


「えーっと、まず船長のモンキー・D・ルフィ…他に写真無かったのかしら…?まぁどうでもいいけど。それじゃあ次はこっちの悪人面の…」

「あら?ちょっと待ってちょうだい。」


船長の海賊の顔を覚えてもう1枚の方を見ようとするシュガーにモネが待ったをかけた。


「?どうしたのお姉ちゃん?」

「ねぇ、この手配書の左奥にいる人間の頭の上…なんだかウチの玩具みたいなの無いかしら…?」

「え?ちょっと見せ……。」



ドクン…

──私は■■!よ■し■■!──



「………!!?」

「あ?あー、確かにそう見えなくもねぇな。他のよりぬいぐるみ感はあるが…。」



ドクン…

──私の■は■で■■■を■■事なの!──



「だけど頭の上でこの立ち方は普通のぬいぐるみには無理よ。やはりウチの玩具じゃないかしら?」

(……何?……今の?)



ドクン!

──■■てよ!■■■■■ったら■■!!──



「確かコイツは東の海の村で撮られたモンだと聞いたが…なんだってそんなとこにいやがる?荷物にでも紛れたか?」

「………ハァッ、ハァッ。」



ドクン!

──■■、例の■■の■を■■して■■■■■を■■■■に■■■だが…──



「ねぇ、シュガー。貴女この玩具に心当たりは…シュガー…?」

「ハァッ、ハァッ……コヒュ…。」

「お、オイ、シュガー…どうした…?」



ドクン!

──お■い■■、■■から■■■…。■きて…。■■■■■、■の■■で■■の■■……!!!──



「ゴホッ!ゲホッ!!ヒュー…ヒュー…カハッ!!!」

「過呼吸…!?ねぇっ!!どうしたのシュガーッ!!?」

「オイ、シュガー落ち着け!!気絶だけはするな!!!」


シュガーが食べた実の名前はホビホビの実。相手に触れる事でその相手を玩具にして自由に操る強力な能力である。しかしこの能力には能力者であるシュガーが気絶すると全ての玩具化が解けるという欠点があり、それ故普段は最高幹部トレーボルに護られながら自身も気絶に繋がらないように気を付けている…のだが、今それを気にする余裕など彼女にはなかった。


(何…?何なの、この記憶……!?)


今のシュガーは感情の制御が何一つとして出来ていなかった。苦しみ、嘆き、絶望、そして……罪悪感。それらの感情が激流となって襲い掛かって来ていた。


(どうしてこんな事を思うの…?どうしてこんなに辛くて苦しいの……!!?)


継ぎ接ぎの記憶。身を震わせるほどの罪悪感。それらは『記憶のない』彼女にはとうてい受け止められる物ではなかった。


(……もう……ダメ………!!!)


涙が零れ、意識が遠くなる。限界を迎え、ホビホビの呪いが解けようとした……瞬間。


ファサァ…


「大丈夫よ落ち着いて、シュガー。」

「……お姉ちゃん…?」


その時世界で一番安心できる場所にいた。


「貴女の身に何が起こったのかは分からない。だけど忘れないで。私はいつだって貴女の味方よ。だから怖がらないで」

「あ…あぁ……。」


姉の胸に抱かれ落ち着きを取り戻したシュガーは、いつの間にか眠りに落ちたのであった。






「手間をかけさせて悪かったなぁモネ。」

「大切な可愛い妹の事よ。手間なんて事は無いわ。」

「だが問題は…あの玩具にあんな反応を示したか…だ。」

「ええ…。」


数十分後、シュガーを寝かしつけて安堵した2人は今回の一件について話し合っていた。


「これは私の直感なのだけれど、あの子は自分自身でも何故こんな事になっているのかまるで分っていないように感じたわ。そこで思ったのだけれど…もしかして『元になった人間』を玩具にする時に何かが起きたのではないかしら?」

「なるほど、ソイツはシンプルで…この上なく厄介な話だな。」

「ええ、悪魔の身の能力とは儘ならないものね。」


ホビホビの実には2つの副作用がある。一つは外見年齢の停止。これにより本来22歳である筈のシュガーの外見は実を食べた10歳の時で止まっている。そしてもう1つは記憶消去。能力によって玩具にされた人間は玩具となった瞬間に当の本人を除いた全世界の人間からその者に関わる記憶が全て消えてしまう。能力者であるシュガーも例外ではないのだ。


「普通ならソイツがどういう奴かを調べ上げて対策を取りてぇ所だが…最悪今回の二の舞か…。」

「シュガーの前では2度と麦わらの話はしない程度に止めておくべきかしらね。」

「ああ、他の連中にも通達しておかねぇとな…。今日はシュガーにつきっ切りていてやってくれ。」

「ええ、勿論。」


そうしてモネと別れたドフラミンゴは歩きながら考える。


(一体あの玩具とシュガーの間に何があった……?)


2年後、思わぬ形でその答えを知る事になるのだが、それは別の話。


──End──

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