人は見かけによらないって言うよねby羂索

人は見かけによらないって言うよねby羂索

スレ主

羂索は退屈な日々に呆れていた。

優しい夫との日々は楽しいものではあったが、どこか退屈さを感じていた。

一言で言えば刺激が足りない。好奇心旺盛な羂索にはそれが足りなかった。

しかし主婦というのはそう簡単に遊びに行けるものではない。

毎朝早く起きて、弁当を作り夫を送り出したら家事をする。

変わらない日常だが以外にもこれだけで疲れるものだった。故に疲れるが刺激が足りない。

平安時代のような術師がゴロゴロ転がっているわけでもなく、ただ毎日ひたすら家事をしていた。


(毎日家事をするなんてさ、この体に入るまでほとんどやったことなかったから楽しいけど、やっぱり刺激が足りないよねぇ)


そう悶々としていたある日、彼(彼女)は見つけた。

明らかに呪霊が見えている人間を。


「あの子…見えてるよね。みんなが見てない方向見てるし」


一般人というのは基本的に呪霊、広く言えば呪いが見えない。認識することができないため、見えている側の人間は特殊なのだ。


(昔は見えてるものだったけどさ、現代だと変わり者判定なんだから、笑っちゃうよね)


そう考えながら少女へと向かっていく。


「あなた…どうしたの?迷子?」


"羂索"ではなく"虎杖香織"として話しかけると、少女は驚いたように目を見開く。


「えっと…まぁ、そんな感じです!ぶらぶらしてたら迷っちゃって…」

(ほんとは違うんですけどね。任務行ってしくってそのまま変な術式でタイムリープしたとか言えない……!)


羂索が話しかけたのは大山藍であった。羂索が香織として生きていたのは2003年の話。だが藍は2018年を生きる人間であった。


「そうなの?お父さんとお母さんはどうしたの?」

「家にいますよ!休日なので。にしてもお姉さん、綺麗ですね」

「お姉さんなんて…こう見えても人妻よ?」

「っ……!!」


羂索は知らない。大山藍が大の美少女好きであることを。

別に少女ではなくても美女であっても守備範囲である藍は香織の見た目に惚れた。ちょうどドツボにハマっていた。


「お姉さんは何してるんですか?」

「お買い物。今日の夕飯のね」

「あぁ!旦那さんも羨ましいですね。こんな綺麗な奥さんに毎日お出迎えされて、ご飯作ってもらって…世界一の幸せ者なんじゃないですか?」

「そうかしら?そういえば…名前言ってなかったわね。虎杖香織です。よろしくね」

「虎杖……?」

「どうしたの?」

「いえ!知り合いにいまして。珍しい苗字ですけど、意外にいるんですねぇ!」

「そうなの?珍しいこともあるものね」

「そうですね…ハハ…」

(虎杖……?もしかしてこの人って虎杖くんの……?いやでもほんとに同姓なだけかもしれないし…でもここ宮城…)

「……あ、私大山藍です!よろしくお願いしますね、虎杖さん!」

「よろしくね、藍ちゃん」


そして2人は歩き出した。

藍は下心とついでに元に戻る方法を探すために。

羂索は藍を探るために。

お互いヤバい奴である。しかしそれはお互い知らない。

たとえ羂索でも他人の心までは読めなかった。


「藍ちゃんは中学生なの?」

「よく言われます〜!こう見えても16なんですよ。高2なんです」

「そうなの。じゃあセーラーの高校なのね」

「はい!虎杖さんはお子さんとかはいないんですか?」

「実はまだなの。欲しいなとは思うんだけれど…夫も欲しがってるし」

「そうなんですね」


そして藍はちら、と目線を動かす。

宮城には行ったことがないため土地勘は全くない。ましてや15年前の宮城となると今と風景が変わってる可能性だってある。

しかし藍はどうにかできないかと話の最中や信号待ちの時なんかに街を観察していた。


「ねぇ虎杖さん」

「うん?」

「お夕飯ってもう少し遅くても間に合いますか?」

「そうね…いつもよりは少し早いから余裕はあると思うけど…あ、藍ちゃんもお夕飯…」

「虎杖さん」


名前を呼びながらする、と自身の腕を香織の腕に絡ませる。

そして不敵な笑みを浮かべながらす…と路地の方向を指差す。

そこには小ぢんまりした少し古そうな民宿。


「えっと…?」

「私、虎杖さんのことほんと綺麗だと思うんですよ。顔がいいです。虎杖さんと仲良くなりたいしぃ…"楽しいこと"したくありません?」

「え………??」

「代金とかなら私持ちますよ♡これでもお金はあるので。ほら行きましょ?♡」

「え………………????」


連れて行かれるがままに民宿へ向かい、楽しい一時を過ごした藍と香織。

「綺麗な顔した人が顔ぐちゃぐちゃにして泣いてるの見ると興奮しますよね♡♡」

などとわけのわからないことを言われながら泣かされたのは言うまでない。

結局その日は友人とお茶していたなどと言い訳をして少し遅めの夕飯になってしまったのはまた別の話。

そして宮城を振らつき時々ナンパしながら藍はなんとか現代へ帰った。


「連絡先とか聞いてればよかったなぁ香織さん…まぁいいか。あんな人いただけただけお釣り返ってきますよね!」


可愛らしい容姿からは想像もできないほどの肉食系。

藍はいい時間を過ごしただろうが、羂索にとってどうだったかは誰にもわからない。


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