人の癖に/神の癖に

 人の癖に/神の癖に


ウィツィロポチトリ神の時と違い、トラロック神と行う儀式はいつも気後れしてしまう。それは神を――敬愛して止まないお方を女性として抱くという行為が、僕にとって不敬極まりないと感じているからだ。必要な事といえど、崇高なる神の体内に未熟な人間の穢れを入れるなど、僕には到底出来なかった。それを察したトラロック神の険しい表情は今でも忘れられない。それからしばらくはウィツィロポチトリ神として快楽を享受する一方に留まっていた。

そして今日、久しぶりにトラロック神と儀式を迎える。いつになく緊張する僕を見てオセロトル達が水を用意してくれたようだ。今だけは彼らの気遣いに感謝し、注がれた水を一気に飲み干し、閨へと赴いた。


「はっ、はぁっ!トラロック神!あぁ!っく!!」

「あっ……!」


止まれ、止まれ止まれ止まれ止まれ――!!やめろ!やめてくれ!これ以上神を穢さないでくれ!

瞬間、頭が真っ白になる。もう何度目の絶頂か、出るもの出尽くして尚も腰が動き続ける。身体の内側が熱くてたまらない。

おかしい。こんな真似、僕に出来る筈ないのに――。


「あ、あ、愛して……おります!お慕い、しております……!」


顔中の穴という穴から汁を垂れ流し不遜なるうわ言をまき散らしながら、組み敷いたトラロック神を貪り続ける。あぁ、トラロック神。わが愛する神の肢体に包まれる至上の幸福!


「んっ、イスカリっ、いいの、よ。好きなっだけ……あっ」


涙で滲む視界からでも分かる、蕩けた表情のあなた。

こんな無体を働く愚か者になんという慈悲を!何故叱責しないのです!あぁ、よしてください。そんな風に誘惑されては益々歯止めが効かなくなってしまいます!


「あ、すき、すきです!トラロック!ウィツィロポチトリ!我が愛しき■■■■■■■■の――」


最早何の言語かも分からないその音は、強引に引き寄せられ塞がれてしまった。

その正体を理解した瞬間、最後の極楽を迎えると同時に――意識を手放した。




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彼はトラロックとして私を抱くのを嫌がる。その理由が神への信仰の篤さ故の遠慮ならまだ分かる。でも、それが“魂”に基づく本能的な拒絶だとしたら……?初めてトラロックとして迎えた夜の、あの時見せた彼の苦い顔が今でも忘れられない。

ウィツィロポチトリとして彼を抱く時、快楽と苦痛が隣り合わせているのを知っている。本人がどれだけ良いと言っても、そういう風に身体を慣らしていても、人体の法則から外れる行為である以上負担はどうしてもかかる。出来るなら、ただ快楽のみを与えたい。一切のしがらみを取り払い、本能のままに――彼にはそれを味わう義務がある。

そして今日、汎人類史の知識を元に作った媚薬を水に混ぜ、オセロトルにイスカリへと持って行かせた。これできっと、私を受け入れる筈――。


「はっ、はぁっ!トラロック神!あぁ!っく!!」

「あっ……!」


効果は想像以上だった。あんなにも理性的だったイスカリは今、無我夢中に私の体内を侵し尽くしている。結合部で起きている乳白色の洪水などお構いなしに、彼は私を貫き続けた。これは事故だ。分量を間違えた私の失態だ。だから神の癖に快楽に溺れてしまうのも仕方ない。


「あ、あ、愛して……おります!お慕い、しております……!」


涙と汗とで顔をぐしゃぐしゃにしながら囁かれた愛に、脳が痺れる。

なんて事を言うの。他でもないあなたにそんな風に求められたら――。


「んっ、イスカリっ、いいの、よ。好きなっだけ……あっ」


気持ちいい、気持ちいい。娼婦みたいな喘ぎ声なんて出しちゃって。でも仕方ないでしょ?そういう儀式なんだから。

体内で暴れるイスカリのそれが膨張を始めた。あぁ、また果てるのね……。


「あ、すき、すきです!■■■■■!■■■■■■■■■!我が愛しきテノチティトランの――」


――あ、だめ。

焦点の定まらないイスカリを強引に引き寄せ、その口を同じ私のもので塞いでやる。

彼の息を飲み干すと同時に迎えた絶頂。それが今日の儀式の終わり――。

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