人に非ず
「…もしもし、社長?こっちは片付いたよ。そっちはどう?」
ビル街のある地下フロアにて。
私は辺りで沈黙しているオートマタやドローンを見遣りながら社長に電話する。
私が持ってきた仕事だったけど、正直報酬の割に容易い仕事だった。
でもこれで、当分は金銭面で困らないだろう。
『お疲れ様、カヨコ。ええ、ハルカが頑張ってくれたおかげで完璧よ!』
すると、喜色を含むとても弾んだ社長の声が返ってきた。
『報酬も破格な額が入ったし、今日は奮発して美味しいでも食べに行きましょう!』
「ふふっ、あんまり無駄遣いしないようにね?」
「じゃあ、今から事務所に帰るよ。」
『ええ、また後で。』
社長の喜ぶ顔を思い浮かべるだけで、私の口角も上がってしまう。
それがとても心地好くて、通話を切った後も心が軽かった。
故に気を抜いてゆっくりと出口に歩いて向かう。
だが、その時にはもう、私は詰んでいた。
「っ!これは…!?」
地下から地上に上がる為の唯一の通路に続く鉄製の扉。
私が鍵を警備から強奪した事で意のままに開けられるはずのそれは、全く開く気配を見せなかった。
『漸く捕まえたぞ、ワシの顔に泥を塗りおった女狐めが。』
「なっ…!?」
どこかのスピーカーからか、低くドスの効いた聞き覚えある声が響き渡る。
この声は以前に人身売買の現場を抑えた闇商人だ。
彼は檻の中にいるはずなのに、どうしてその声が聞こえるのか。
考える間に思考は急激に鈍り、視界は暗くなる。
どうやら睡眠ガスを散布されたらしい。
こうして私は、罠に掛かってしまった。
それがまさか人として、そして、女としての終わりであるとは、夢にも思わずに。
──────────────────
「ぁ…れ…?」
ぼんやりとした頭と視界。私は寝ていたらしい。
肌寒く、何だか息苦しくもある。
何故眠っていたのだろうかと、鈍い頭で考え始める。
「ひぅっ!?」
だが、私の意識は全身を襲った痛みすら感じる冷感で即座に覚醒する。
背中を伝う雫と氷の感覚から私は氷水でもかけられたのだろう。
それらを払おうと反射的に身を捩り、手足を動かす。
「痛っ…!!」
しかし、動かそうとした身体は何かに引っ張られ、その動きを完全に止めてしまう。
そこで漸く見えた自身の姿は、酷く辱められたものだった。
「何…これ…!?」
ガチャンガチャンと鳴る鉄の音。当然の様に衣服は無かった。
代わりにあったのは鈍い光沢を放つ鋼鉄の枷。
それらは手足は勿論、胴、腿に二の腕、そして首にも食い込む様に嵌め込まれている。
(なんて恰好…!?寒いし、枷が冷たくて…食いこんで痛い…!)
枷に繋がれた鎖は天井まで続いており、息苦しさを伴って私を宙に浮かせていた。
脚は広げられ、あられも無く恥部を晒されている自身の姿に、脳が理解を拒む。
その時だった。
「さっさと起きろ女狐。」
「あ”っ!?!?」
ヒュッ、という風切り音の後に訪れたのは鋭い打撃音。
そして、股間を襲う想像を絶する痛みだった。
目の前にあの男がいる事に、ここで漸く気づく事となった。
周囲は冷たさを感じるコンクリートで、鉄格子も見えることから牢屋なのだろう。
「あっ…!!いぁ…!!」
「こんな事、して…!タダで済むと…ぎゃっ!!!」
抵抗しようと口を開くが、再度振るわれた鞭で黙らされる。
その手つきは手馴れており、幾多の生徒を叩いて来たのだろう。
だが、それよりも先に、気になって仕方ない事があった。
「こ、れ…!?まさか…!?」
「ほう…もう気づいたか、察しが良いな。」
「下の毛はミレニアム製の薬液で処理済みだ、永久にな。」
先程の鞭は、毛の無い滑らかな場所を叩いた時の様な破裂音を伴っていた。
そう、そこにあった毛はもう無いのだ。男の言葉通りであれば、もう、二度と生えては来ない。
「なんて…なんて、事をッ…!!」
アソコの毛がもうずっと無いなんて、悔しくて、恥ずかしくて、思わず涙が滲んでしまう。
だが、男の態度は淡々としたものだった。
「お前はもうワシの所有物だ、意見する権利も無い。それをこれからじっくり教えてやる。」
「ふざけた事を…!私は、あぎぃっ!?!?」
今度は陰核を鞭打たれ、衝撃で吊るされた身体が大きく跳ねる。
明滅する視界の中、男はおもむろにズボンを下ろしていた。
「ひっ…!嫌、嫌ぁ!」
「喚くな。」
裸に剥かれた自分。強制的に開かれた股。そして、目の前の男。
私もバカではない。これから起こることは容易に想像がついた。
それでも、最後のその瞬間まで、希望は捨てたくなかったのだ。
だが───
「ふぅぅぅ………」
「ぁ…」
ミチミチミチ、と音を立て、スキンも何も着けていない男性器を、私は受け入れてしまった。
「いぃっ…!?い、痛…!!」
「ふむ…初物にしては、中々具合が良いな。」
私の純潔は、アッサリと散らされてしまった。
自分で弄ることはあれど、せいぜいが指程度のものしか入ったことの無い膣。
その入口を、ミチミチと限界まで押し広げてその剛直は私を貫く。
どこか現実味が無い様な気がして、夢だと思い込みたくなった。
しかし、破瓜の痛みはそれを許してくれない。
「どうだ?初めての男は。」
男の口角が、私を嘲る様に吊り上がる。その瞬間に、この上ない恐怖を感じてしまった。
以前に捕まえた際には微塵も感じなかったというのに、身体は震え、力は抜け、涙が頬を濡らす。
これはただの恐怖ではない。私の中の女が、この男に蹂躙されることに恐怖しているのだ。
「うぎぃ!?う、動かないでぇ…!」
男は腰ではなく私が吊られている鎖を握り、その剛直を抽挿しはじめた。
心は嫌悪感でいっぱいだった。痛い、苦しい、気持ち悪い。けれども、何よりも…
「うっ………………ふうっ………!………あっ……、あぁんっ…!」
(何で…!?何で、嫌なのに、気持ちいい…!?)
犯されているのに、気持ちよくなりつつある自分が嫌だった。
「ワシがやっているとは言え、処女で感じるとは…」
「これは思ったよりも才能があるかもしれん。」
「いうぅっ……!やだ……やだぁ…………!」
理性は嫌がっている。だが、身体は悦んでいる。
その二律背反に頭がおかしくなりそうだった。
暫くすると痛みが引き、快楽だけが増幅しつつあった。
火照った身体はひくひくと痙攣しながらその剛直を締め付け、快楽を貪ろうとする。
思考は得た快楽に塗り潰され、徐々に為されるがままの雌、いや、肉穴に私を変えていく。
「はぁっ…!ぅん…、んあぁ…!!」
ゾリゾリと私の肉ヒダが擦られ、快楽が電流の様に背中を突き抜ける。
理性が放つ嫌悪感から身体を何とかその快楽から逃そうとするも、鋼鉄の拘束は痛みと同様にそれを許さない。
すると次第に、快楽が理性が放つ嫌悪感を超越していく。
もう一度、もう一度と、抽挿が続くに連れて腰は意思に反して剛直をより奥に迎える様に動き始める。
私の穴が剛直を奥まで咥え込むと、私の足りなかった部分が漸く埋まったかの様な感覚に陥った。
それは、パズルの最後のピースが、ぴったりと嵌った時の様な快感だった。
だが、次の瞬間にはその快感は冷や水を掛けられたかの様に消え失せた。
「そろそろ、出すぞ…!」
「ひ、ん…!ぇ…?出すって、まさか…!?」
「嫌!嫌ぁ!!やめて!!出さないで!!助けて社長、先生ぇぇぇ!!!!」
蕩けた頭では、男の言葉の意味を即座に理解する事は出来ない。
それでも残った理性が何とか理解をして、やめる様に懇願するがもう遅かった。
男は抽挿のペースを上げ、その時が来る。
剛直は遂に私を限界まで広げてズン、と最奥まで押し入ってくる。
そして───
「ひやあああぁっ!?」
胎の中に、熱が広がった。
とぷっ、とぷっ、と粘性のあるそれに胎が満たされていく。
「っ…ふぅ。」
「ひうっ…ぅ…!」
男は一息つくと私の中からゆっくりと出ていく。
ズルズル、ズルズルと抜けていくその剛直を、私の女は最後まで名残惜しそうに咥え込んでいた。
その事実に吐き気がするほどの嫌悪感を感じていたが、同時に肉悦があったことも否定できなかった。
「はぁ…はぁ…はぁ………ぇ…?」
肩で息をしていた私の目に映る光景は最悪のものだった。
改めて見えた剛直は、先程まで自分の中に入っていたと思えないものだ。
長く、太く、逞しく、私の体液を纏ってぬらぬらとした光沢を放ち、薄らと湯気を立てる。
だが、その光沢を形成しているものが、私の体液と破瓜の血液だけではなかったのだ。
それには───白濁液までもがべっとりと付着し、私のアソコまで糸を引いていた。
「っ───嫌ぁ!!私、まだ赤ちゃんなんていらない!!掻き出さなきゃ…!」
あれは、精液だ。男女のまぐわいで、子を成すために必要なもの。
いずれは愛しい人とそうなるのだと思っていた。だが、これは違う。
まかり間違ってもそうしたいと思う相手では無く、私の自由意志すら無い。
「外して!これ外してぇ!!」
ガチャンガチャンと鎖を引き、アソコに手を伸ばそうとするが叶わない。
冷静な状態であれば、そんなことをしても意味が無いと悟るだろう。
だが、今はひたすらに中に出された事への絶望と、妊娠してしまうかもしれないという焦燥感に狩られて半狂乱で暴れていた。
「喚くなと言ったはずだ。」
「ぎひぃぃぃぃぃぃ!?!?!?」
男は私の乳首を千切れんばかりにつねり上げ、私を黙らせる。
私が大人しくなった様子を見ると、男は小さなハンドベルを鳴らした。
すると鉄格子の向こうから、人影が現れてこちらに歩み寄って来る。
「終わりましたか、ご主人。」
「ああ、いつものアレを頼む。」
その人影は白衣を着た如何にも研究職といった風貌の生徒だった。
指示を受けたその生徒は、再度奥に消えるとゴロゴロという音と共に荷車を押して戻ってくる。
運ばれてきたのは機械だったが、それが一体何なのかは全くわからなかった。
だが、状況が変わったことで私もある程度の落ち着きを取り戻すことができた。
「実は…ご主人の指示されてたアレが、つい先日完成したんです!」
「ほう、それは丁度いい。女狐にはピッタリだろう。」
私は内心で未知への恐怖に慄く。男は生徒から機械を受け取ると動作を確認していた。
その間に白衣の生徒は男の足元にしゃがみ込み、何とその剛直をしゃぶり始める。
「じゅぞぞっ…はぁむ…んぉ、んむぅ…!」
「お前もじきにやることになる作法だ、よく見て覚えておけ。」
「私が、そんなことするわけない…!」
私は男を睨み、その言葉を否定する。
誰がそんな事をするものか。
金を積まれても私は絶対にやらないだろう。
「そうかそうか。これは躾甲斐があるというものだ。」
男は私の反抗的な態度を動物の鳴き声か何かの様にあしらう。
そして、手に持った機械を私の乳房の少し下の肌に当てた。
「じっとしてろ、お前の名前を書いておくだけだ。」
「な、何を…?ぎゃあっ!!!」
瞬間、肌を貫き焼く様な激痛が私を襲った。
押し当てられた箇所だけで無く、脊椎を通って脳にまで響く様な、そんな痛みだった。
先ほどまでは股から溢れ出る白濁液の方が気になっていたが、今はそれどころではない。
思わず粗相をしてしまい、びちゃびちゃとアンモニア臭のする体液が床に落ちる。
だが、男はそんな事は見向きもせずに手元の機械を弄り、再度私に押し当てる。
今度は顔の…目の下だった。
「や、やめてぇ…!!あぎぃっ!!!!!」
顔は胴よりも遥かに痛覚が鋭敏だ。
故に先ほどとは比にならないほど痛く、我慢しようとしていた粗相の勢いも増してしまった。
そんな折、下から声が聞こえてくる。
どうやら今しがた私に処置したものが何だったのかの説明のようだった。
「めちゃくちゃ痛いのは…ぁむぅ…我慢ひえくらはい…んちゅっ…」
「ぅん…代わりに、『色素調整式タトゥーガン』は生涯如何なる方法を取っても消える事はありませんから♪」
「ぇ…!?」
タトゥー、と言ったのだろうか、彼女は。
信じられない。いや、信じたくは無かった。
「信じられん様だな、見せてやれ。」
「はぁい。」
そう男が言うと生徒は立ち上がり、私に鏡を見せてきた。
そこには───
「う、嘘…嘘、嘘だ…!?」
「ううん、本当。あ、墨も入れてるけど消す方法とかは本当に諦めてね?」
「色素の構成から変えて貴女の身体の一部として再生する様にしてるから。外科手術も無・駄♪」
右の乳房の下には、『3280417』という管理番号とバーコードが刻印されていた。
だが、私が最も信じたくなかったのは左目の下だった。
『Slave』…つまり、奴隷という文字が刻まれていたのだ。
「これでもうお前は表を歩けまい。」
「残りの生涯を、このワシに使い潰されろ。」
「──────」
頭の中が真っ白になる。
顔とは誰もが見る場所。そこに大きく刻印された『奴隷』の文字。
しかもこの文字は、消せない。当然、誰かに見せれるハズも無い。
素顔の私が表には出れないこと、つまり、私の社会的死の象徴が、このタトゥーだった。
「さて、最低でも此奴が作った損失の埋め合わせに5匹は雌を産ませねばならん。」
「今後の此奴の調教と改造はお前に任せる。終わったら店頭に出すが、それまでは好きにしろ。」
「ほ、本当…?好きにしちゃっていいの…!?」
「そうだとも。それと、今回のタトゥーガンの褒美に今夜はワシの部屋に来る事を許そう。」
「やったぁ!ご主人、愛してるぅ♪」
打ちひしがれる私を余所に、二人は会話を弾ませながら牢屋を出て行った。
後に残されたのは自分と男の体液、それに肌にタトゥーを刻まれた際の何とも言えない匂いだけだった。
「あ…あぁ…!うっ………うああああぁぁぁぁぁ…!!」
もう限界だった。
処女を奪われ、腟内にも出され、挙句は消えない証を刻まれた。
あまりにも取り返しがつかない状況に、もうどう生きていけば良いのかすらわからない。
私はそんな絶望感に苛まれながら泣き疲れて眠るまで、声を上げて泣き続けた。