人から生まれた呪い

人から生まれた呪い

Part1

張相さん、悠仁くんと並んで新宿の地下通路を歩く。目的はある泳者の討伐…とは言っても標的は他の泳者とは事情が違うけど…。私はそれに関して不安を募らせている。

「ここら辺だな?伝書桜が言っていたのは」

駅のホームに出ると、張相さんが伝書桜さんの描いた地図に目をやり、自分達の現在地を確認する。

「でも、誰も居ませんね…」

「だね。待ってたら来るんじゃねぇかな?」

私がいくら周囲を見回しても、私達三人の他には誰も居らず、無駄足に思えた。

「張相!!」

その次の瞬間、"術式を持った異形のもの"が張相さんの方へ走ってくる。不意を突かれて反応が遅れた張相さんだったが、それが攻撃を仕掛ける前に悠仁くんが殴り飛ばした。しかし、髪と思しきものからジェット噴射で加速して、再び張相さんを狙う。しかし、今度の張相さんは異形のものの存在を認識し、確実に仕留めるべくそれの頭に数本の血の矢を撃ち込む。やがてそれは苦しみ地面に倒れ、そのまま動かなくなった。

「助かったぞ、悠仁!」

「いいんだ。それより術式を持つ改造人間って…」

私の疑念が確信に変わった。恐れていた事態が本当になった。私達がこれから戦おうとしているのは…────

「よ」

「!」

何かの間違いならばどれほど良かっただろう。

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「帰国して早々にすまない。無為転変は……上層部の人間を皆殺しにして行方を眩ました」

「え」

地下通路に乗り込む前、夏油様術師から告げられたこと。あの人がそんな嘘をつくような人でもそんな状況に置かれている訳でもないことはわかっていた。それでも脳が、魂が理解を拒んだ。

「そ、そんな……そんなはずないですよね…?き、きっと泳者の誰かが……」

「総則9は知っているな?」

「泳者の情報を参照できる…」

「そうだ。そしてその参照した情報によれば無為転変を持つ泳者はあいつだけ。そしてあいつはここに来て急激にポイントを増やしている。それも5点刻みでなく、2~3点ずつだ。これが意味することはわかるだろ」

その真実は私から逃げ道を奪った。彼が上層部だけでなく、無関係の人間まで殺めた。意味もなく、ただ認めたくなかっただけなのに、証拠を突きつけるという追い討ちをかけられた。私はただ黙って泣くことしか出来なかった。

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やっぱり、無為転変さんは呪詛師になっていたんだ。上層部の人間を鏖殺し、無関係の人間を改造人間に変えているのは彼で間違いなかったんだ。漏れ出る涙を抑えながら、彼に斬りかかる。

「おっと、太刀筋が落ちてるな」

彼はそう言って私の剣を片手で受けると、私ごと刃を引っ張る。そして…

「……お前も俺のところに来いよ」

掌を私に向け、術式を発動しようとしていた。私は一瞬だけ諦めかけた。

〝穿血〟

音速で飛ぶ血液の線が刀を掴む無為さんの腕を斬り落とす。

「おお、これが張相の赤血操術!加茂家の子とは比べ物にならない練度だ。それに、お前の血は人間にとって毒になるんだって?斬り落とすのが間に合わなかったら終わりだったな」

どうやら腕は張相さんではなく自分で斬ったものだったらしい。無為さんは張相さんの術式遣いに感心しつつ、自ら斬った腕を治す。

「さて、真人を祓った呪術師、毒持ちの赤血使い、そして……四級。どう立ち回るか」

彼は不敵な笑みを浮かべるも、それはどこか無理をしているようだった。そして頑なに私と目を合わせようとしない。

「まずは…張相からだな!」

無為さんは改造人間を2体配置し、張相さんの方へ走りだす。それを止めようと悠仁くんが走り出すも、勢いのある状態で改造人間の当て身を喰らうことに。

「悠仁!」

「よそ見するなよ。俺達は殺し合いをしてるんだぜ?」

無為さんは手を刃のように作り変えると、それを張相さんに向けて伸ばす。張相さんもそれに応じて血の塊を投げる。その塊が無為さんの手を弾き、悠仁くんと殴り合う改造人間の片方を貫いた。

「あちゃ〜…」

動かなくなった改造人間を見て、頭を抱える無為さんに悠仁くんは物凄い勢いで距離を詰め、右ストレートを叩き込む。それと同時に無為さんの左フックが悠仁くんに刺さり、クロスカウンターを決めた。

「ぐふっ…あっ…!流石は東堂の超親友だ。良いパンチしてるよ」

悠仁くんはよろめきながらも立ち上がり、再び無為さんの方へ走る。一方、私は無為さんが置いた改造人間を斬り続けていた。予め設置していたらしく、壁や床下からどんどん出てくる。

「うっ……強い!」

押し寄せる改造人間の波を処理しつつ、後ろ側の状況を確認する。すると、無為さんが悠仁くんと張相さんを相手に悠々と戦っていた。そして小型の改造人間が二体、悠仁くんの背中を狙う。

「悠仁くん、危ない!!」

「!」

〝血輪〟

改造人間二体は張相さんが咄嗟に出した輪っか状の血液の刃により真っ二つにされる。

「ありがとう」

悠仁くんはお礼を言うも、その次の瞬間、改造人間でできた球体が彼のみぞおちに入った。

「悠仁…?」

「いってぇ……油断した…」

何事もなく立ち上がる悠仁くん。張相さんの表情が険しくなる。

「よくも俺の弟を…!」

〝赤燐躍動〟

「許さん、俺はお兄ちゃんだ!!!!」

〝黒閃〟

手に血のグローブを纏い、無為さんに怒りの拳を叩き込む。その拳は黒い火花を纏い、無為さんを後方に吹き飛ばす。やがて壁にぶつかり、そのままめり込む。

「…結構痛いな」

<───────────────to be continued

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