享楽主義者の気まぐれ

享楽主義者の気まぐれ

長老

とある冬の夜、子どもを拾った。

年の頃はおよそ二つか三つ。乳離れは済んでいるようだった。

気まぐれで通りかかった教会の傍で震えていた彼らを自宅に連れ帰ったのは、何か考えがあったわけではない。この子らを連れ帰ったら面白そうだと、何とはなしに思ったからだ。

彼の屋敷は日常的に死体に囲まれているため、生者の気配など久しくなかった。子どもには悪影響を及ぼすという思考が彼にあるはずもない。人形を動かして適当に作った部屋も活用して、慣れない子育てが始まった。

 

 

「ネロ、ビアンコ、おいで」

 

ふらりと、絶対に屋敷から出てはいけない、ときつく言い聞かせて出かけた日のことだ。死んでいたところで何の感傷も抱かないと断言できるが、死体ならばもう少し育っていた方が使い勝手がいい。

すくすくと成長した白黒の兄弟を呼びつけ、とてとてと駆け寄ってきた頭をなでた。色彩こそ対照なものの、ふわふわとしたくせっ毛は二人ともに共通している。

 

兄のネロは芸術に興味があるらしい。贈られたり懇意になった人間から買ったり、売り出し中の画家から気まぐれに買った絵画に強く興味を示した。

見るよりも自分が表現する方に惹かれるらしく、今は単なる児戯程度の絵だが中々見どころがある。コミュニケーションを好み、口がよく回る子であるから、長じた後は知り合いの貴族に紹介してもいいだろう。自分を売り込むことも得意なはずだ。

 

弟のビアンコは引っ込み思案だ。無口で、他者との関わりよりも自分との対話を好むらしい。同時に四則計算、またその先に強い興味があるようで、日がな一日与えた問題を解いている。もちろん自由時間は、という話だが。

金銭の概念にも手を出しているため、本人が望むなら商家に養子に出そうかと考えている。補佐という立ち位置が一番能力を発揮できることだろう。

 

「新しい弟だ。ほれ、挨拶せい」

 

揃って疑問符を浮かべる兄弟に答えを示し、三人ともに促した。

新しい「弟」はネロと同じ黒髪とビアンコと同じ赤目を持っている。ついでに耳は少し尖っていて、彼と同じ種族のバケモノでもある。

ネロは率先して、ビアンコはこわごわと、三人目はおっとりと。三者三様の性格を見せて、顔合わせは終わった。

 

新しい「弟」の名はパドゥレ。

彼が一を極めた結果全を示したなら、パドゥレは全を得るべくして生まれた才児だった。

完全に伸ばしきることができたなら、全ての道でトップクラスと至るだろう。そして極端に寿命が長い彼らならば、その完全すら通過点にすることができる。それを感じた彼は震えたし、生来の享楽主義が今まで以上に表に出た。

乾いた砂のように吸収していくため、熱も入る。ネロやビアンコは人間であるため、教えられないのも作用した。

こうして、後に災害とまで言われる才の塊が磨かれる状況が整った。

 

 

何にせよ、一人増えてより賑やかになったものの、今までの生活にそう変化はない。

若いというのは才能だ。種族の違いをものともせず、今では最初から三兄弟であったかのよう。

四人目が増える、その日までの日常であった。


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