交差点・2
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プルルルル…
"やあ、元気にやってる?カヤ。"
「この顔を見て元気だと思うなら先生も皮肉がお上手になりましたね?」
キヴォトス某所。夜。
とあるカイザーグループのホテルの一室で、私は腕輪から浮かぶ画面へと通信を行っていた。
その腕輪はシャーレで犯罪者達を管理している証の手錠…という建前で、私たちが先生と連絡を取り合うために、秘匿通信が可能なお揃いのデバイスである。
ミレニアムに作ってもらったらしいソレは、エンブレム入りのやけにスマートなデザインで、先生はつけるときに目を輝かせていた。
ともかく、私がこんな夜更けにそんな場所でわざわざ先生などと話をしているのには理由がある。
「まったく…それで、今日もあの子の話をしましょうか?」
これが今のシャーレで働く私の主な仕事になっていた。げっそりとした顔で、外で活動したアリスさんの今日一日の出来事と、収集した患者のデータなどを先生に報告するのである。
活動報告の改竄は暗躍の基本なので、私がやることを申し出たのだが、ハッキリ言って改竄どころではなかった。
この仕事を始めてから、生徒会長代行に就任した日とそう変わらない程の忙しさが毎日のように私の元に訪れているのである。例え超人であろうと、日の終わりには疲れ切った顔にもなろうと言うものだ。
それもこれもあの子のせい。
アリスという、自称勇者の愚かな少女が毎日のようにどたばたと騒がしいせいであった。
「今日はですね…」
今日という一日を思い出しながら、こうなった経緯が脳裏によぎる。
おかしい。私は今ごろ『帰ってきた超人』計画のために、人と資金を集め、彼らを出し抜こうと虎視眈々と準備を進めていたはずだ。
それがなぜ忙殺されている?
「……」
"?。どうかしたの?"
「あぁ、いえ。今までのことを少し思い返していまして。」
つと、考え込んで口を止めた私が、問いかけに答えを返すと、先生は面白そうに少し口角をあげた。
それを見て、霧消に気に入らない気分になる。だって、仮にこれまでの日々を例える言葉があるとすれば、
それは悪夢なのだから。
■
最近、キヴォトスで暴れる中毒者が現れると、どこからともなく盾を持った生徒が現れて、どこかへ拐っていくという噂。もしやアビドスに中毒者を誘拐している小鳥遊ホシノなのではないか?
そう考えて確かめにいけば、救護と叫びながら暴れる中毒者を片っ端から殴り倒している女と出会った。
「師匠!今日もご指導お願いします!」
「はい、アリスさん。救護には迅速かつ正確な対応が求められます。つまり…救護するならこう!です。はい、同じ角度で!」
「こう!ですか。」
「いいえ。こう!」
「こう!!」
「いいですね。では、相手を警戒させないよう、自分が今からする行為の名称を宣言しながら…救護!!」
「救護!!!!」
「…。」
「どうしましたカヤ。変わったした…怪我人でも見つけましたか。」
「いいえ…ちょっと常識外の知識をガンガンと吸収していくのは、成長においてどうなのだろうかと考察していただけです。」
「ふむ?…最終的に綺麗な花が咲くならばそれでもいいのではないでしょうか。悪い虫がついているわけではありませんし。」
「…今、私の方を見て言いましたか?」
「いいえ。語弊です。不快にさせたならすみません。」
「ふっ、まあいいですよ。私が鼻つまみものなのはいつものことです。せいぜい今のうちに見下しておくことですね。」
「見下してなどいないのですが……。あ、アリスさんがこちらに来ますね。では。」
「カヤ!アリスは新スキル『救護の魂』を習得しました!早速お試しに向かいます!」
「お試し?…まさかとは思いますがアリスちゃん。あの暴力看護団長の真似を本気でするつもりですか?」
「語弊ですよカヤ。私は暴力は振るいますが、あくまで救護が目的です。アリスさんにはそれをわかりやすい形でお教えしていくだけですよ。」
「…あの、アリスちゃん。ひょっとして……」
「はい!ミネ師匠がパーティ入りしました!アリスの手助けをしてくれるそうです!お試しの場も師匠が提案してくれました!」
「どこに、いくつもりです?」
「この近辺のヘルメット団のアジトでは、シュガーが蔓延し、多くの要救護者がでているそうです。ちなみに人数は100人ほど。全員が暴徒と化しており、目に入るものに襲いかかってシュガーを奪おうとしてきます。」
「…こちらの手勢は?」
「救護騎士団、救急医学部。どちらも救命テントで要救護者の治療に多くの人員を割いています。そのため…実質4人です。」
「…その頭数に私は?」
「はい!もちろん入っています!」
「…そうですか。私、野暮用を思い出s…」
「逃がしませんよ。」
「セナさんっ!?…うわぁ、やめっ!離してくださいアリスちゃん!持ち上げないでください!逃げません、逃げませんから!」
「ざんねん、カヤはまわりこまれてしまった!です!救護の場では皆平等に協力しなくてはならない!ミネ師匠の教えの一つです!!」
「すばらしいですよ、アリスさん!さあ、共に向かいましょう!」
「ご安心を、カヤ。万が一あなたがした…怪我人になっても迅速に治療します。」
「そういう問題ではなくて!この私が現場に赴く必要はないのではという話からですね…!」
「さあ!いざ救護!」
「救護!」
「救護。」
「…なぜ誰一人として私の言葉に耳を貸さないのです!?!?」
■
セナの提案で、明らかに砂糖に汚染されていないものの、彼女が落とされたら確実にゲヘナが終わるという生徒を保護しに行った。
そしたらなぜか、給食部主催で開く、スイーツフェスタの手伝いをすることになった。
「…はっ!?何番ですか!?数は!?」
「…お疲れ様です、カヤ先輩。あなたがここまでやるとは思いませんでした。」
「フウカさん…確か、途中でなぜかシュガー中毒者達がやってきて砂糖が入ってないことに暴れだして…どうにか取り押さえて…そしたらなぜか一気にやってくる生徒の数が増えて…ダメですね、そこからは記憶が曖昧です。」
「覚えていないのも無理ないです。一言で言えば、あれは… … …修羅場でした。」
「もはや記憶が曖昧ですが、その重い空白で察しました。まったく、どこから湧いて出たのやら。そこまで食べたいものでしたかね。アレ。最後の方なんてもはや盛りつけという概念を遥か彼方にうっちゃっていたと思うんですが。」
「…たぶん、安心したかったんじゃないでしょうか。」
「安心、ですか?」
「気づかぬ内にシュガー中毒になって、暴れて、二度とかえってこない生徒達がたくさんいる。あのヒナ委員長ですらそうだった。…だから、自分が食べている甘いソレが本当にそうじゃないだなんて…そう信じられますか?…そんな時に普段から食べてる給食で出してるものが、間違いなくそうじゃないってわかったら。…きっと、安心する。」
「……。」
「私たちの作った給食はまずいとか、イマイチだとか言われてます。はっきり言ってムカついてるし、見返してやるっていつも思ってます。でも、料理が人を安心させる…そんな当たり前のことができたっていうのが、今日はとても嬉しかったです。アリスちゃん達が手伝ってくれて、本当に助かりました。」
「…その割には浮かない顔ですね。」
「そうですか?むしろ、いつもの調子が戻ってきて少し気分がいいぐらいです。砂糖が流行ってから、給食を食べる人数がどんどん減っちゃって!普段はまずいまずいって言ってるくせにみんな食べに来てたんだなぁって。久しぶりに馬鹿みたいに忙しくって懐かしかったですよ。」
そう言いながら眺めるフウカの目線の先には、メイド服姿でくぅくぅと椅子に座って眠っているアリスや、錬成したスイーツモンスターと激闘を繰り広げて疲れ切って寝ているジュリ…そして、地に思い思い転がる美食研究会の三人がいた。
「…くればよかったのに。」
フウカのそこにいない誰かを想う目線。
その目線が妙に私は嫌だった。きっと、連邦生徒会があの女のことを想う目線と、よく似ていたから。
「はぁ~あ、また酷い目にあってしまいました。コーヒーはありませんか?まあこんな学生食堂風情にいいコーヒー豆などあるはずもありませんが。」
わざとらしくため息をついて私は立ち上がる。彼女に接触できた段階で、目的は果たせたといってもよかったのだ。わざわざここまで付き合ったのは、はっきりいって損以外のなにものでもなかった。さっさと引き上げるとしよう。
「インスタントコーヒーならありますけど…まあ、まだ一杯には速いかな。」
「え”。」
「ほら、後片付けです。」
「…これを?」
「はい。明日も給食はあるんです。」
積み上がるだけ積み上がった紙皿の山。沈黙したスイーツモンスターの屍とその戦闘跡。作りまくって汚れた調理台。流し台に積み上がった皿と調理器具。
「まあ、アリスちゃん達はお客さんですし、後は私一人でやっておきますよ。超人的な奮闘のお礼です。」
その言葉を聞いたカヤの頭がぴくんと動いた。
「まったく…。それでは効率が悪いでしょう。」
「え!そこまで手伝わせるのは流石に悪いというか…」
「超人たるもの、最も効率の良い手段を取るのは当然というだけです。さ、さっさと片付けますよ。」
「…じゃあお言葉に甘えて…。」
「ふ、この私が手を貸すのです。…インスタントだろうとなんだろうと、相応しい一杯はいただきますがね。」
この後、謎の復活をとげたデザートモンスターと再び闘うことになり、片付けはやり直しとなった。
□
闇オークションでアビドスシュガーの中でも特に特別なサンプルが登場する…。買い取った人に製法も公開予定である…。慈愛の怪盗によってその情報を得た勇者一行はオークション会場に潜入。パフォーマンスとして、その砂糖を生徒の一人に投与された瞬間、彼女が『変異』を起こしたのを見たアリスさんは、その砂糖が決して他の物の手に渡すわけにはいかないと、その落札を決意した。服用の結果を見たミレニアムからもサンプルが欲しいとある程度の資金援助を受け、私達はオークションで競り合いを始めた…
「(とはいえ、正統なやり方で手に入れる必要などありません。こちらにはあの慈愛の怪盗がいます。彼女曰くすでに予告状は送っているそうです。ここでの散財はいわば目を引くためのパフォーマンス…ある程度まで吊り上げたら、大人しく引き下がるとしましょう…)」
「?…こんな時に電話?一体だれから…」
『やあ、お嬢さん。(ドガーン!!)火急の…用だから(ズガガガ)、手短に済まそう。今日盗み出すプランは無理だ(バババババ)…』ブチッ
「え、ちょっと!?…つっかえないですね!!」
「…その反応を見ると、何がなんでも競り落とさないといけなくなったってわけ?」
「…そうです。不味いですね、そもそも競り合いに勝つ気がないのでそこまでお金がないんですけど…」
「その、……アリスちゃん、明らかにもう予算以上の額出してない?」
「…は?え、ちょっと!?アリスちゃん!?お金は有限なのですよ!?どこからそんな金額を出すつもりです!?」
「はい!さっき電話があって、勇者一行のお財布が、フラグを越えたことによって増加したそうです!支払いはできます!!」
「その電話は…?」
「こちらです!つなげておいて欲しいとのことだったので!では、アリスはオークションのミッションに戻ります!!」
『初めましてカヤさん。ピンチの少女への謎の融資もさりげなく行えるプロポーションも完璧美少女です。』
「…なるほど、ハッキングによる口座からの抜き取りですか。ミレニアムにもとんでもない詐欺師がいたものですね。」
『ふふ、それはあの子ならやりかねませんが、このミレニアムが誇る超天才でスマートなハッカーはそのような倫理を投げ捨てた手段はいたしませんよ。』
「?…じゃあどうやってお金を?まさかミレニアムが追加で融資でもしてくれるのです?」
『いいえ。単純に勇者一行が本来持っているはずだった金額を元の場所に戻しただけですよ。』
「… … …。」(必死で自分の携帯で何かを確認している。)
『はい、スピーカーに切り替えさせてと…カズサさん、聞こえていますか?カヤさんの顔色を見事にあててみせましょう。…白ですね?』
「うん、スマホ見てからすごい真っ白。例の砂糖みたい。」
『不思議なことに。ここ最近の活動で勇者一行が手に入れるはずだった報酬や活動資金が、少しずつ別口座に移動していたので、元の所に戻しておかせていただきました。』
「あ…ぁ…私の…帰ってきた…超人……けいかく……」
「…こいつ。」
『横領も着服ももっと上手いやり方がございます。そう、情報であるなら底の底まで透視できる超天才にして透き通るような薄命美少女を出し抜くドブ川の汚泥めいたやり方とか。…ごほん、ともかく、それなりに膨れ上がっていたへそくりはキチンとあるべき場所に戻しておきました。そろそろオークションも終わるでしょう。では~。』
「パンパカパーン!!やりました!!アリス!オークションでも勝利です!…カヤ?どうかしたのですか?HPがゼロになっています!!」
「よかったね、アリス。…コイツはそっとしておいてあげな。たぶんほっといたら復活していつもの調子に戻るよ。」
「なるほど、カヤは実はアンデット族だったのですね。納得です。」
「資金…私の資金……」
「死後もお金に囚われてるタイプのアンデットか…。」
この後、このオークション会場にアビドス風紀委員会のヒナが襲撃し、商品である砂糖を強奪。どうにか引き落としも有耶無耶になったが、私のお金は帰ってこなかった。
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救護騎士団がトリニティから離れて活動していた理由。それは、ティーパーティーが既にシュガーに陥落しており、あくまで平和的に堕ちることを勧められたミネが団員を引き連れて外へと出たためであった。
再び戻ってくれば、トリニティ内部の状況は悪化。砂糖の蔓延する退廃の学園と化しつつあった。この状況において沈黙を決め込んでいたシスターフッド…シャーレに情報を流していた内通者のサクラコの情報により、ティーパーティーの陥落は聖園ミカが中毒者となり、彼女を管理していた生徒…浦和ハナコが起こしていたことが判明する。
道中、ツルギ、コハルと合流した勇者パーティは、監禁状態のミカを誘拐、トリニティ中心部からシャーレへの決死行を開始することになった。
「う"ぇ"るごろろろろろろ!!う"る""ぁ"ああ!!!死ぬ気でついでごぉい!!じゃないと死ぬぞ!!!!」
「すっかりイカれてしまってますねトリニティは!!なんで生徒数人片付けるだけなのに榴弾砲を持ち出してくるんですか!?こっちにはミカさんも乗ってるんですよ!?」
「決まってるじゃない!ツルギ先輩がいるからよ!」
「確かにさっきあなたを庇って直撃を受けたのに何事もなかったかのようにあの人ピンピンしてますけど!!」
「ツルギはスゴいです!一人だけゲームが違います!」
「ははぁ"~!!!さすがにちょっと痛ぇ!!」
「うぅ…ごめんなさいツルギ先輩…私のせいで……」
「気にするな、今は前だけ見ろ。お前のダチを一発ぶん殴るには、ここを絶対に脱出しなきゃならねぇんだ。」
「トリニティの生徒全員が押し寄せてきてる勢いですよ!?可能だと思いますか!?」
「できるか、じゃない!やるしかない!この蜂の巣をつついたような騒ぎがその証拠だ!!ソイツをここから出せるかどうかに今のトリニティを変える全てがかかってんだ!」
「…はい!ハナコを騙して時間を稼いでくれたヒフミとアズサのためにも、私、絶対にシャーレにミカさんと行きます!」
「…ねぇ、いい加減つっこんでいい?」
「やめなさいフウカさん。今は運転に集中してください。あなたのドライビングテクニックに全てがかかっているんです。」
「この新しい車は嬉しいのよ。流石ミレニアムというか、前より頑丈だし、なんならキッチンカーにもなるし。でも、これ前の倍は速いはずなの…」
「ダメですフウカさん。突っ込んだら負けです!この空気感のまま行った方がいいと超人の感が言っています!!」
「フウカ、ゲームで言っていました!言えなくなってしまってからでは遅いです!言えることは言えるときに言っておいた方がいいと!」
「…そう…そうよね、アリスちゃん!ごめんなさいカヤ先輩!私もう我慢できません!」
「えっ、なに?エッチなこと!?ダメよ!!!」
「ダメ、ダメです、フウカさん!」
「どうしてツルギさんはさっきから車と並走できてるんですか!?!?」
「?」
「• • •」
「あ"~……」
「ワタシの方が車より速いからだ。」
この後、ミカさんを含めて私たちが無事にトリニティを脱出するまで、ツルギさんをフウカさんの車が抜き去ることは一度もありませんでした。
□
それ以外にもまあ、キヴォトス各地を走りまわされて、あっちで救護こっちで討伐だの。
その度に私を引っ張っていくのですからたまったものではない。
まさに悪夢という他ないというわけだ。
気づけばそんな愚痴を目の前の先生相手にとうとうと喋っていた。
「まったく、とんだ貧乏くじを引いてしまいました。これならシャーレで先生のお手伝いでもしているべきでした。」
"でも、カヤたちのお陰でこっちも大分動きやすい。感謝してる。"
疲れきった顔でそう先生は微笑んだ。実際、私たちがキヴォトス各地で暴れまわっている間に、先生も着々と各学校の生徒達への交渉や相談受付や、あの怪人とアビドスの砂糖の研究を進めている。
こうして私たちがカイザーグループのホテルに泊まれているのは、先生がかなりイヤそうな顔でカイザーと交渉したおかげであったりもする。とはいえあの理事は一度首になったためか、顔の効く範囲は狭いらしく、かなりランクが低いのが少々不満だ。『お気持ち』さえ払えばジェネラルでももう少しマシな宿の手配ぐらいできたというのに。
「…ふん。なら目に見える形での報酬を要求します。そうですね、連邦生徒会への復帰の口添えなどはもちろんのことですが…」
"美味しいコーヒーとか?"
「あぁ、いいですね。この苦労の先で無事復帰を果たし、室長室で飲む一杯のコーヒー。実に素晴らしい一時になりそうです。豆はそうですね、グァテマラのSHBを満たしたものが良いでしょうか…」
「…?あれ。私、先生にコーヒーが好きなことを話したことなどあったでしょうか?」
”うん。こうして毎日話す時に、コーヒーをよく飲んでるから。”
「あぁ。まあ確かに。そうですね。」
ちらりと手元に置いてある缶コーヒーを見る。本当はこのような泥水に等しい安物のコーヒーなど私に相応しくない。だが、忙しく駆けまわる中で、確実に手に入るコーヒーはこれしかなかった。最初はイヤでイヤで仕方なかったが、毎日一日の終わりに先生と話していれば、気づけば味も気にしなくなっていた。
この忙しさで随分とペースを乱されてしまったようだ。さっさと事件を終わらせて、かつての舌に戻したいものである。
「ふふ、なら先生。この私に相応しいコーヒーを準備してみせることですね。おっと、私はコーヒーには五月蠅いですよ。生半可なものはつき返しますから。精々頑張ることです。」
”わかった。しっかり選ぶよ。”
「期待はしませんが…楽しみにはしておきますよ。」
”……うん。”
「…?」
私の軽口に対する妙に長い沈黙。一瞬それが妙に気にかかった。
「カヤ!先生とお話ですか!アリスも混ぜてください!」
「アリスちゃん、今は仕事の話の途中です。大人しく寝ていなさい。」
「先生!聞いてください!今日、カヤがとても汚い悲鳴をあげた話をします!」
「ちょっと!?!?黙りなさいアリスちゃん!!超人の沽券に関わります!」
「もがもが。ももがもがもが。」
”なるほど、レッドウィンターで粛清されたんだね。”
「なんで通じるんですか!?」
だが、割り込んできたアリスさんとの話のせいで、その時の妙なひっかかりは私の中から消え去ってしまった。
夜も更けていく中で、騒がしい声がホテルの一室からは響いている。
次の日から、ホテルにすら泊まれなくなることなど知る由もなく。