五条悟にとっての希望

五条悟にとっての希望



黄昏時。五条家の本家邸宅の広い畳の一室にて、ふたつの影が向かい合っていた。

「ふ、っ……!!」

サングラスをかけた男——五条悟に向かって拳を振り上げ殴りかかる。ただの拳であれば無限に阻まれただろう。しかし、拒絶の力を纏ったその拳は寧ろ無限を解除して悟に襲いかかる。

「よ、っ……と!!」

頬に入りかけた拳を直前に避け、悟は類の腕を掴む。そのまま背負い投げしようとして————寸前で類は身を捩って強制的に腕を離させ、ぐるりと空中で一回転して畳の上に着地する。

「お〜お見事!」

「今本気で畳に叩きつけようとしましたね…」

「いやこっちも殴られそうだったし。まあちょっと本気だったけど」

「でしょうね」

こちらが眉を顰めるのにも気にせずになにやらうんうんと頷く義兄。

「やっぱり筋がいいね。流石は僕の義弟(オトウト)」

「嬉しくないです」

「この僕が珍しく人を褒めてるっていうのに、相変わらず類は冷めてるね〜」

お兄ちゃんそんな子に育てた覚えはありません!などと巫山戯る義兄を白い目で見る。

「あんたに褒められて嬉しい人間なんてこの世にいるんでしょうか」

「いるに決まってるでしょ。僕を誰だと思ってるの」

「人が折角の休みの日に仕事入れてくるクソ当主」

「いやそこはGLGでしょ」

「なんですか、それ」

「え、類知らないの?グッドルッキングガイなんて今どき皆知ってるよ?」

「皆じゃないです。現にオレは知らなかったし、皆知っててたまるか」

最後の方は吐き捨てるように呟く。他の人の前では丁寧な口調を心掛けているが、この義兄に対してだけはどうしても口調が荒くなってしまう。

「まあ真面目な話、僕の無下限を正面から解除できる術式なんて類以外いないし、僕が少しでも負ける可能性があるってだけで評価に値するよ。それ以前に類は元々強いし、僕に似て器用だからね」

急に真面目な話を始めた義兄には慣れている。この男は真剣なときと普段の落差が凄まじいのだ。

「強くなってよ、僕に置いていかれないくらい」

そう言われた瞬間、身体に電流が走ったようだった。その言葉だけ、他の言葉とは比べ物にならないほど強い意味と願いが込められているのに直感で気付いた。返しを間違ってはならないと本能的に感じる。どこか切実にさえ聞こえたその声に、僅かに口角を上げて義兄の顔を見上げる。

「置いていくどころか追い越してやるよ、義兄さん」

不敵に笑って宣戦布告したにも関わらず、義兄はここ最近で一番嬉しそうな表情をした。

「いつまでも待ってるよ———類」

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