五暴星・ウェジンダスタラ
魔名:ウェジンダスタラ
異名・称号:渾沌の巨獣、キメラの王、自らを錬成せし者、大陸喰らい、矛盾と大陸移動のデーモン・ロード…等々
権能:合成生物・大陸移動・矛盾
支配領域:混沌・悪・水・地
領土:魔界・象牙色の迷宮内・時の海の窓辺
神聖視する武器:ウォーハンマー
神聖視する動物:動物全般
神聖視する色:青・緑
対応する惑星:土星
対応する星座:磨羯宮 20~30°(夜間)
爵位:伯爵にして騎士
邪印:折れた矛と砕けた盾
属するパンテオン:デーモン・ロード
『陸はべヒモス、海はリヴァイアサン、これ何だと思います?』
ウェジンダスタラ
魔神バフォミトラに仕えるデーモン・ロードの一柱にして、"渾沌の巨獣"の異名で知られるウェジンダスタラは、彼の直属の精鋭部隊「五暴星」の一員でもあり、彼はその中で最も「若い」。
そのため、彼の純粋なデーモン・ロードとしての格は高くはないが、一度荒れ狂えば誰にも止めようの無い凶暴性と破壊力は、他の「五暴星」の面々はおろか魔神達ですらも一目置かざるを得ないようであり、現在は最も勢いのある若き「渾沌」の支配者として、デーモン達の頂点に君臨している。
合成生物・大陸移動・矛盾を司るウェジンダスタラは、22のデーモン軍団を率いる大いなる伯爵にして勇猛なる騎士であり、キメラやマンティコアといった複数の動物や生物が混ざったような怪物、または魔法や錬金術を用いた冒涜的実験の末に産まれたクリーチャーどもの支配者でもある。
召喚されると彼はバンダナで銀毛を上げ、右目には紅い逆五芒星の印が記された眼帯を身に着け、黒の執事服を纏った、軽薄そうな雰囲気を漂わせた青年の姿で現れる。彼は恐るべきデーモン・ロードとは思えぬほどにべらべらと軽口を叩き、バフォミトラの御名において強制されぬ限り、質問や問いかけに対してもいい加減かつ適当に返答する。
だが、彼の本性は途方も無く巨大で、あまりにも複雑怪奇であり、広大無辺な魔界においてもその巨大さに伍するか、それを越えうる者は海洋・海の怪物・畸形の魔神たるダグ=アオン、または時間・ワーム・老化の魔神であるイドトラスのみであろう。彼の頭部は獅子の鬣から4つの眼を持つ獰猛な鰐の頭部が生え、そこに象の鼻、猪の牙と水牛の角が混ざっており、右目にはカトブレパスの邪眼、左目にはバジリスクの邪眼が埋め込まれているという。その胴体はドラゴンであり、背には鋭い棘の生えた大亀の甲羅、腕は鋭い鉤爪の生えたクラーケンの触手、妙に人間じみた熊の手、足は河馬、尾はアスピドケロンの如き大魚であり、尾の先端には猛毒を滴らせた大蛇の頭部が生えているという。
怪物形態の彼は人間形態よりも遥かに危険であり、想像を絶する巨大さ故か、召喚陣の中に顔の一部しか喚ぶことができず、未だその全身を召喚できたという事例は一切聞かれていない。また、この状態の彼の瞳はカトブレパスとバジリスクの邪眼であるため、如何にか召喚を終えた直後に術者らが象に潰された蟻の如く絶命する、あるいは未来永劫、物言わぬ石像と化すのは実にありふれた最期である。
◇その種の起源
ウェジンダスタラについては謎が多い。彼が何時、何処で、どのようにして誕生したのかが、杳として知れぬ故に。
最も有力な伝説によれば、彼の誕生の切欠は遥か大昔、バフォミトラがダグ=アオンの勢力と魔界の海域で海上戦(後のカル=ベハルの海戦)を行い、敗北したのが原因であるという。並々ならぬ手間と時間を掛け、彼が総力を挙げて結集した魔界の大水軍は、あろうことか自軍の苦戦に痺れを切らして出陣したダグ=アオンたった一体の手によって瞬く間に全滅した結果、彼の傲慢なプライドと自信はズタズタに引き裂かれ、徹底的に傷つけられた。
この屈辱的な敗戦以降、彼は暫く領土に引きこもり、様々な復讐方法を模索した。やがてある時、彼は偶然立ち寄った科学の塔において、遺伝子学と生物学について纏めた独自の論文と研究報告書を目にした時にふと閃いた。……古の時代において神々が創造した陸のべヒモス、海のリヴァイアサン……この力ある二大巨獣同士をかけ合わせた「作品」を生み出せば、この耐え難き屈辱を晴らせるのでは…?と。
以降、バフォミトラは科学の塔の地下空間に数年間ほど引きこもり、その間の領土内の内政や統治の殆どを妻のアハズ神とシルヴェストリらに代行させた。やがて、彼が魔界の表舞台から姿を消してから約6年後、魔界の住人達から「アハズとその側近による反逆説」や果ては「死亡説」まで囁かれ始めた頃、魔界の全領域と階層で途轍もなく恐ろしい獣じみた咆哮が鳴り響いた。
魔界全土は勿論のこと、その恐るべき咆哮の震源地たる象牙色の迷宮内においても、かつてないほどの混乱と動揺が走ったのは言うまでも無い。主たる"有角公"が不在の今、領土内が前例のない未曽有の危機であると察したアハズ神とシルヴェストリらは、精鋭の魔軍を率いて科学の塔を完全包囲する……だが、そこで彼らが目にしたのは、塔内から出て来たバフォミトラ自身の姿であり、彼は満足げな笑みを浮かべながらこう告げた。
『祝え、終末を告げる新たな"獣"は、今ここに誕生した・・・・・・!!』と。
彼に言われるがままに科学の塔の地下へと潜り、そこに設けられた専用の転移門を通過した先で彼女らが目撃したのは、べヒモスやリヴァイアサンに酷似しているが、その何れでもない全く未知の巨獣であり、それは夢と現実の狭間で微睡んでいた。困惑しているアハズ達を尻目に、彼はやや興奮した面持ちで続けざまにこう告げる。
『微睡の中にいるこの"獣"は、まだ然るべき名前が無い。・・・だが、これは間違いなく諸世界を破壊するものだ。』
『これより"名も無き獣"は、魔界の荒野を666年彷徨い、彷徨い終えてから369日後に我が下へと戻るであろう。』
そう述べると彼は、この巨獣を象牙色の迷宮の外へと投げ捨て、そのまま魔界の地へと放牧した。やがて、魔界の深部にて覚醒した"獣"は本能の赴くままに広大な魔界を彷徨い始め、その行く先々で甚大な被害と破壊の爪跡を残した……魔神フラウロスの領土である「血葬焦土」、凍てついた極北の世界にして魔神コシチェイの領土たる「フィンブルヘイム」、魔神アンガザンが支配する密林地獄「ウトゥムングル」、バフォミトラの妹である魔神アルディナクの住まう「嘆く砂の海」、魔神ソヴェロンの支配する「イブングラハ」・・・・・・等々、魔界の悪名高い階層の数々を踏破し、最後に因縁深き魔神ダグ=アオンの支配する海域「ヰ=ハギン」を蹂躙し終えると、"獣"は魔界から忽然と姿を消した。
やがて消息を絶ってから約369日後、顕現を果たした世界において明確な自我が芽生えた"獣"は、その本質と全く似ても似つかぬ青年の姿を取ると、物質界から象牙色の迷宮へと帰参した。すると、その光景を目にしたバフォミトラは満足げな笑みを浮かべながら、"彼"に向かってこう告げた。
『お前は魔界の荒野を666年彷徨い、彷徨い終えてから369日後に完成した。』
『故に貴様はこう名乗るがいい、ウェジンダスタラ(魔界語において「自らを錬成せし者」ほどの意)と・・・・・・!!』
こうして、デーモン・ロードたるウェジンダスタラは誕生したのだという。
◇異説・ウェジンダスタラ
しかし、一部の賢者や魔界の識者らは、上記の神話や伝承を完全に否定する。何故なら、バフォミトラとダグ=アオンの両名は12柱の魔神達から成る、謎めいた秘密結社「禍悪祟十二円卓」に属する同士であり、表立って敵対する理由や原因が無いに等しいからである。
この為、彼らはカル=ベハルの海戦とは、両者が共同で行っていた極秘の生物実験の成果を試すためだけに行われた盛大な自作自演であり、かの大戦の犠牲者らは只の生贄に過ぎなかったのだと提唱しており、別の噂によるとこの実験には、変化・発明・錬金術を司る魔神であるハーゲンティも参加していたのではないかと、密かに囁かれているが、これらの説とその真相に関しては未だ陰謀論の域を脱していない。
だが、カル=ベハルの海戦に巻き込まれて消滅した港町や隣接階層には、「禍悪祟十二円卓」の独善的な振る舞いに強い不満と異議を唱える魔界の諸侯や有力者が数多く存在していたのもまた事実であり、この説は一部界隈において根強く支持されている。
◇領土
"キメラの王"の領土は、他の「五暴星」の面々と同様にバフォミトラの領土内に含まれている。だが、その巨大さ故か彼には惑星規模を誇る、専用の疑似次元領域を与えられた。それこそが"時の海の窓辺"であり、シュールレアリスムのような独特のセンスが光る奇妙で名状しがたい海岸線と建造物、油絵の絵の具全部をでたらめに混ぜたような、毒々しい色の広大な海が果てしなく続いている。
この領域の陸・海・空を不可解なキメラと彼に仕えるデーモンたちが気ままに徘徊しているが、その中で最も巨大かつ強大なのが、ウェジンダスタラであるのは言うまでも無い。だが、彼は自身のための居住地に大したこだわりを持たず、人間形態の時は象牙色の迷宮内にある科学の塔に入り浸り、そこで新種のキメラや生命体を創造する事に没頭している。
怪物形態であれば、領土内で大小様々なキメラとデーモンを引き連れながら永遠の海洋で漂うか、陸地で怠けていることで満足している。一部は溺死(または圧死)し、また別の一部は彼が喰らうが、十分な数の魔物が生命の危機と領土の境界から逃れ、魔界の他の領域か、時には異なる次元世界へと害を及ぼしながら移動する。
◇主な崇拝者
ウェジンダスタラの主な崇拝者は、動物や怪物へ変身する魔法や能力を悪用する術師やドルイド、優れた新種や合成生物の誕生によって自身の優位性や才能を示したい、あるいはその秘めた力を利用する事を目論んだ狂的な錬金術師が中心を占める。
だが、現状に強い不満や劣等感を抱く強い変身願望を抱く者や、手軽に強大な力を欲する者、他の生物の力を積極的に取り込みたい異端的なライカンスロープなどが彼の崇拝に惹かれる場合がある。このような輩たちは、来るべき終末において魔界が勝利することを信じきっており、自分たちがやがて大いなる「渾沌」によって塗り替えられた新たな現実の中で生き延び、これからも存在し続けるために"渾沌の巨獣"を崇拝し、最終的な審判と結末が到達する前にこれらの変性を終えようと目論んでいる。
あらゆる手段を用いた生存と環境適応を理想とするこのカルトの殆どは、現在の文化と文明を否定するばかりか、自身の種族や民族としての誇りとアイデンティティをも放棄しており、魔法や外科的改造による飽くなき力と強さを追求している。
◇主な聖域や寺院
ウェジンダスタラの聖域は人体実験室、廃棄された病院、人気のない海岸線、沈没した船、海に没したか地下へと沈んだ遺跡や洞窟であり、その儀式と生贄は危険な薬品や外法を用いた人体改造や移植手術、特に複数の生物の特徴と長所を持つ怪物への強制変化を伴う傾向にある。
その際、生贄の身体は忠実な信者を「進化」させて、"キメラの王"の敵を食らうように意図された、不浄なる変成儀式の素体として有効活用される。
◇他の神格との関係
比較的新参者とは言えウェジンダスタラは、バフォミトラとその妻アハズ神の信頼された側近の一人であり、シルヴェストリとクインドヴァトスは、「五暴星」の若手である彼に対して厳しめな態度を取るが、その圧倒的な実力を認めている。ザルバニドゥは彼を出来の悪い弟の様に見ており、両者の関係は極めて良好と言える。リスサアエラは無邪気にも彼を同世代の友人と思っており、積極的に彼を"散歩"(という名の敵地における虐殺行為)に誘っているが、当の本人は適当にはぐらかしている。