二初 死は二人を分かたない(1/26少々修正)

二初 死は二人を分かたない(1/26少々修正)



ごめんね、マイヒーロー。死なない、約束する。

そう与一は言ったのに、結局自分を庇い死んでしまった。

あの時約束を交したこの部屋には、もう自分だけしかいない。啜り泣くの音が聞こえても、慰めてくる声はもう聞こえない。

あの男に傷つけられ、それから三日、与一は生きた。あの男に渡された個性の影響か、与一は最期、少しの時間を得ることができた。皮肉なものだ。

与一との最期の一時が、何度でも脳内で反芻される。

「ごめんね、結局約束を破ってしまって」

不吉なことを言うな。まだ生きているだろう。

俺は与一の手を取り握りしめた。与一を救けだしたあの日を思い出す。あの日が運命の分かれ道だった。

「でも、君ももう分かっているだろう?僕はもう長くない」

与一は俺の手を握り返した。

「僕がいなくなっても、君は僕の意思を継いでくれるんだろう、マイヒーロー」

ああ、継ぐよ。当然だろう。

与一は俺の顔に自身の顔を近づける。

口から慣れ親しんだ感触を得た。初めて口づけを交した日はあんなに戸惑っていたのに、いつの間にか自然に交わすようになっていたなと思い返す。

「願わくば、君に全てを捧げたいな、意思も何もかも全てを」

あの時を境に与一はみるみると衰弱し、次の日の出を迎える前に、彼は永遠の眠りについた。最後の最後まで俺の手を握りしめていた彼の手が力を無くしていく様をただただ感じ取る事しかできなかった。

あの時のことをまた思い出していた俺は与一に握られた自身の右手にそっと触れた。

与一の手を握ったつもりが、いつもいつの間にか俺の方が握られていた。

俺が与一を救ったはずだったのに、救われていたのは俺だった。

そっと触れていただけのはずだったが、思いを馳せているうちに力強く握っていた。やるせない気持ちでいっぱいで、後悔してもしきれない。

「辛いことが絶えず生じてしまうけれど」

左隣に与一がいるような気がする。恋しいがあまり、面影を見てしまったようだ。まるで本当に隣にいるように感じる。

「どうか希望を持って、マイヒーロー」

与一の亡霊は俺に身を寄せる。

「希望の糸は、紡がれているようだよ」

与一の亡霊は、俺の右手にそっと彼の手を重ねた。

「与一っ……」

思わず左を見たが、そこには非情な現実が見て取れるだけだった。

与一がいるはずが無い。与一は死んだ。幽霊なんぞ存在しない。分かっていたはずなのに期待してしまい、そしてひどく落胆した。やり場のない怒りを発散させるように右手の拳を振り下ろす。

ビリッ。

微かに違和感が走った。恐る恐る右手を見てみると、赤い光の線のようなものが右手を纏っていた。

以前見た光景が思い出される。与一が兄から与えられた個性を見せてくれたことがある。それとそっくりそのまま同じだった。

与一の個性が、俺に宿っている。そう結論付けるまでに時間はかからなかった。

「酷い男だ……」

俺は涙を流した。微かに笑みを浮かべて。

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