二人の激突

二人の激突

  

「園子ちゃんの思いつきにも困ったもんだぜ全く、そう思わないかゆゆワイ?」

「園ちゃんも考えがあっての事だと思いますよ…多分」

大赦の地下の更に地下に設置された広い空間

そこは簡単にいえば高級体育館のような、そんな場所だ 普段から使われることは殆どない、そういった場所で行われるのは模擬戦である。

神の去りし地で神の力を振るう者と力を極めし武の到達点のぶつかり合い、それこそが模擬戦の最大の目的なのだ。


両者少しの沈黙の後に退がる、5メートルほどの距離が両者の間に出来る。

最早言葉など無粋だと言わんばかりに、両者同時に地を蹴り出し間合いを詰める。

初撃は、夏ワイが取った

シンプルな拳による正拳突き、しかしその速度は弾丸をゆうに超え対物ライフルによる狙撃を思わせた。

狙いは胸、人体の急所であるそこを正拳突きにて貫く一撃に見ているものがいたら震撼しただろう。

しかしゆゆワイは無傷、服には埃一つついていない。

それどころか返しの蹴りが反撃として、夏ワイの腹部へとめり込んだ。

鈍い音がなり一気に夏ワイが壁へ叩き付けられ、全身を殴打された痛みが襲った。

ゆゆワイを護ったのは【肉体の保護】魔力を代償に、鎧となり衝撃から対象を護る魔術である。

それが膨大な魔力を糧に発動したのだ、正に難攻不落の盾と言えよう。

壁に叩き付けられた夏ワイは即座に体勢を立て直し、改めて好敵手を見据える。

その先にあったのは空中に浮かぶ無数の青白い門であった。

「全門フルバースト」

冷めた声でそう告げ、両の手を打ち合わせる 瞬間凄まじい光と轟音が空間を包み込み槍の様な歪な槍が放たれるその数は30を超える。

「数撃ちゃあたるってもんでもねぇんだせ?」

それを見て呆れながら夏ワイは突っ走る、

見ればわかる一発でも貰えば鍛えた鋼の肉体すらも抉り穿ち己は無様な串刺し死体に早変わり、死が確約される。

普通の人間ならばそんな賭けには出ない、勝ち目が無いのなら逃げようそうするしかない。

だが夏ワイに逃げるという選択肢はない、自分は拳を振るうだけだと数発であれば足を止めずに躱し、身体を捻り避けるも飛来する槍の数は段々と増えていくものの合間を縫うように駆け抜ける。

そして───

一本だけ捕まえた。

掴む腕に焼けるような痛みが走るがそれを耐える、更に腕を動かすと共に横へと体をズラし、その一本を手に持ったまま再び走り出した。

「あの人まさか、投げ返す気か?」

それを見てデタラメさを再認識するゆゆワイ、槍の一本があの状態で投げ返したところで自身が被弾する危険は何一つとしてない。

だがそれではつまらない、ならば返して貰おうじゃないか。


夏ワイはゆゆワイへと投げ返す為の槍を摑みとりそして放り投げた。

ゆゆワイは己を護る術を捨て空に拳を振り切る、

瞬間、見えない衝撃と音速を超えし槍が真正面からぶつかり合い、爆発的な光と音を空間に広げた。

槍が拉げて粉々になる、だが槍の破片の先にはゆゆワイがいた。

眼にも止まらぬ速さで両者間合いを詰める、交差し互いの頬を拳がすり抜ける。

腕に響く衝撃は一体どれだけの速度が出てるのか、鍛えたとはいえ人の身では出せるはずもない音を奏でる。


夏ワイが二度、ゆゆワイも二度超高速で拳を振るう。距離を取ると10秒後には三度交差する、両者顔を殴りつけられており口から一筋の血を流していた。

互いに手傷を負いつつ、それでもまだ動けるとばかりに殴り合う。

その身体には最早傷だらけで血塗れになり、満身創痍にも程があるといえる状態である。だが当の本人たちは御構い無しだ。

互いに気にしているのは相手のこと、相手が先に死ぬか自分が死ぬか、兎にも角にも相手が本気で拳を振るえる相手だと認識した時点で両者共にもはや目の前の敵しか見えていない。

更に速度を増し加速し加速し上がっていき血は止まらない 殴れば殴るだけダメージが蓄積されいつかは終わりを迎えるが、両者ともただでやられる気は一切なかった。

深く踏み込んで殴りつけるも返され更なるダメージを貰う。

その返礼に左手を振り抜きゆゆワイの右頬を殴り返す。

二人共同時に背後へと飛んで距離を取り、一呼吸だけ置いてまた間合いを詰めて乱打戦へと発展する。

拳同士がぶつかり合い、時にそれは得物で相手へ斬りかかるかのようにすら見えた。

しかし、やはり夏ワイが徐々に優勢になっていくのは仕合が始まった頃から変わらぬ事実であった。

体力や筋力といった面で勝る夏ワイが優勢になるのは、至極当然の話ではある。

だが狡猾さではゆゆワイの方が上であった、不意に心臓と肺に違和感が走る。

その隙に肩を捕まれ、掌底を腹に叩き込まれ吹き飛んだ。

「っ!?魔術か!!」

あの激しい攻防の中で彼は二つの魔術をかけたのだ。

一つは対象の肺を海水で満たす【深淵の息】そしてもう一つは心臓を掴み握る、【ニョグタの鷲掴み】

正に神業、二つの魔術を解除するのは至難である。

「ケホッケホッやって…くれるねぇ…」

「これでも一般の範囲内の技だから…あ、門の創造はちょっと違うか…まぁ、いいよね?」

乾いた笑いを上げながらゆゆワイはフラフラと立ち上がる。

彼は本気だ、この戦いを遊びとして全力であると、きっとここで己の知る全てを明かし全力で戦うことを望んでいるのだろう。ならば乗るしかない、彼も本気であるのならばこちらも全力を出すのが礼儀という物だ。

「おいタコちょっとこっちにこい、」

夏ワイがそう言うと観戦席で観ていた園子の頭の上で寝ていた衣蛸

が夏ワイの足元へと降りてくる。

「お前の力、ちょっとだけ借りるぜ」

そう夏ワイは言うと衣蛸が魔力を流し、手のひらに乗る。そのまま何もせずとも衣蛸が絡まり一体となり徐々に大きくなっていく。

バキボキと関節の折れる音を鳴らし、人間の腕を骨が曲げ伸ばせる状態に無理やり戻すとぐちゃぐちゃに歪み変な方向に伸びきったそれを動かし元に戻し拳の形を作る。

「正真正銘全力全開で……行くぜッ!!」

その力は神の域に届いたと言っても過言では無いだろう、超速度を誇る超音速の一撃は音を置き去りにするほどに速く、その破壊力たるやミサイルすら

小石に思える程に強大である。

まさに一撃必殺、当たれば死ぬと言わんばかりの強烈な拳を夏ワイは繰り出そうと走り出す。

それに対してゆゆワイは………笑った。

それに応する様に焔が湧き上がるまるで王の目覚めに歓喜する、配下であるかの様に

歓喜に燃えるのだ。

焔は刀へと形を変え、まるで最初からそうであったかの如く手に収まる。


そして両者は再び激突した、地面を砕き土煙を上げる中で咆哮が上がる。

轟音が鳴り響き壁にはヒビが入り床が砕け散り始める、空間が震える。


「…これヤバくないどう思うワイくん?」

「どう考えてもまずいですよ園子様!?早く御二方を止めないと本部ごと潰れますって!?」

「だよねぇ……ちょっとこのバトルお預けにしようか、これ以上やっちゃうと冗談抜きで崩壊しそうだし、じゃあ二人とも〜お願い──って言うまでもないか」


激しいぶつかり合いを終わらせたのは二人の少女の声であった。

「この大馬鹿夏ワイっ!!さっさと止めないと皆に迷惑かかるでしょっ!!」

「ゆゆワイくんこれ以上は危ないからやめよー!!私もそろそろ怒るよーっ!!」

空間を、世界を震えさせていた轟音と振動が止まり二人が顔を見合わせると夏ワイもゆゆワイも血まみれでありもはや傷が無い場所を探すのが難しい。お互いの傷は深手であり、もはや満身創痍の状態だ。

「あーあ、とんだ騒ぎになっちゃったねぇ夏ワイさん」

「俺は……いいぜぇ別に……お前だって悪いわけじゃねぇだろ……」

仰向けに倒れたままボロボロの天井を眺める、ここまでやればもう何も文句はない。最高に気分も良くし殴り合えたのだ、これはもうこれ以上を望むのは無粋だろう。

「夏凜ちゃんに怒られちゃうなぁ、これ」

「俺も友奈に怒られそう……心配かけちゃったなぁ…」



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