二人と一匹の永い後日談

二人と一匹の永い後日談


前提情報

※全てが終わったあと、IF世界に残留ルート

※IFローはドレークによって正史世界に飛ばされていた

※IFローの右腕はヘルメス内臓の義手。正史フランキーとウソップが一晩でやってくれました

※おにぎりちゃんがいる

※ドレークの呼び名捏造

※前半はモブ視点、後半はIFロー視点

 

 

 おれの名はヤラレ・ヤクダ。“新世界”で活動する賞金稼ぎだ。

 自慢ではないが、これでも腕利きを自称しているぞ。というか、四皇とかいうバケモノ共が支配する、偉大なる航路後半の海では、一定の力量がなければ海の藻屑だ。

 さて、おれは今とある島に来ている。というのも、ある人物の目撃情報が、この近辺であったからだ。

 

「おにぎり。あんまりはしゃぐなよ」

「アンッ!」

 

 ……いた。

 やたらと丸っこい小さな犬を連れた、下げ緒に宝石のついた刀を佩いている、長身の男。

  まだら模様の帽子、オーバーサイズのダウンジャケットとゆったりとしたワイドパンツ、という恰好と、もみあげとあごひげを剃って人相が変わったせいで、分かりづらいが……間違いない。“死の外科医”トラファルガー・ローだ。

 一年以上前、王下七武海入りしておきながら、麦わらの一味と同盟を結んだことで、話題になった男。そのまま共にドンキホーテ・ドフラミンゴに挑んで、消息不明になっていた海賊。まあ、あの時期は世界情勢がひどく荒れていたから、トラファルガー以外にも有名どころが何人か、消えていったものだ。

 

  “天夜叉”に負けて、軍門に下っただの、捕虜として拷問を受けているだの、はたまたあの男の『オンナ』として、愛玩されているだの、胡乱な噂が出回っていたものだが……実際はドロップアウトして、市井に紛れて生きていたとは。

 

 おっと、つい物思いにふけっちまった。今は尾行中だってのに。

  ぎこちない歩き方からして、相手はどうも、怪我を負っているらしい。手袋と袖の間から見えた右手首は、無機質な黒い金属が光っている。おそらくは義手だ。かけている眼鏡も、レンズが厚めだから、変装やファッションの類じゃなくて、本当に視力矯正用なんだろう。そうなると、あの犬は介助犬代わり? いや、やたらちょろちょろしているし、飼い主にめっちゃじゃれているから、ただのペットだな。

 なるほど、日常生活に支障が出るほどの傷が原因で、足を洗ったわけか。

 だがしかし、よほどの事情がなければ、発行された手配書が撤回されることはない。愛犬と一緒に、平穏を謳歌しているところ悪いが、その首を取らせてもら、

 

「おい、そこのお前。いま誰を狙っている?」

 

 ……弱体化した獲物を狩ることに、集中し過ぎていたおれは、背後から近づいてくる男に、気づかなかったんだ。

  振り向くよりも先に、後頭部に衝撃が走る。気がついたときには、おれは海軍支部の前に、ふん縛られて捨てられていた。

 

 

 

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「あれくらいの小物、普通に返り討ちにできた」

「目の前で殺気が漏れ出ていて、不快だっただけだ」

「……ふぅん?」

 

 買い物を終えて、ベンチに座っておにぎりを撫でていると、『ゴミ掃除』を終えたドレークが戻って来た。こちらはもう、十分に戦えるまで回復したというのに、相変わらずボディーガードよろしく裏で動く男に、嫌味を言ってやる。しかし堂々と返答されてしまったため、何も言えなくなってしまった。

 

「アンッ! アンッ!!」

「お、おにぎり。あんまりおれの足元で、走り回らないでくれ……踏んじまったらどうする」

「ワフ?」

 

 面白くないやり取りだったが、尻尾を振ってまとわりつくおにぎりに、たじたじとなっている姿を見て、溜飲が下がる。蹴飛ばしたら許さない、と茶々を入れてやれば、ドレークはでかい図体をますます縮こまらせた。

 

「そろそろ行くぞ。次の便を逃したら、おにぎりも乗せられる船がなくなっちまう」

「あ、ああ」

「アンッ!!」

 

 大男で遊んでいるおにぎりを抱え上げ、ジャケットのフードに入れてやる。小さい胴体がすっぽり包まれる感覚が心地いいのか、今までのはしゃぎようがウソのように、愛犬は大人しくなった。

 ほっとしつつも、もっと早くそうしてくれ、と言いたげな目をするドレークに、買い込んだ携帯食と医療品の入った袋を押しつけて、さっさと歩き出す。

 

「次の島は、高名な医師の出身地なんだ。もしかしたら、出回ってない医学論文とかが、あるかもしれねぇ」

「おれたちは賞金首だ。そこまで長居はできないぞ?」

「知ってるさ。いつものことだ」

 

 おれの方が先に動いたというのに、たった数歩で追いついて、ドレークは車道側を歩く。その姿にまた不満が顔を出して、つい棘のある言い方をしてしまったが、次の彼の言葉で悪感情は霧散した。

 

「まあ、好きにすればいい。お前はもう、自由なんだから」

「……初めから、そのつもりだよ」

「アンッ!」

 

 しばらくしてたどり着いた港で、予約しておいた定期便に乗り込む。

 おれとドレーク、そしておにぎりの、目的のない放浪の旅は、まだまだ続きそうだ。

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