二人だけの秘密
学祭以来、あまねさんとも親しくなった。
あまねさんは学級代表も務めていて、高校で初めて生徒会長になっちゃった私を頼もしくサポートしてくれている。さすが中学時代も生徒会長を勤めてだけあって、私よりも会長らしい、って生徒会のみんなも冗談めかして言うくらい。
そんなしっかり者のあまねさんだけど、みんなが知らない意外な一面も持っている。
「あ、あまねさん…ダメ…いくら二人っきりって言っても…こんなの…ッ!」
「けれど、のどか先輩…二人の仲を進める、良い機会だと思いませんか?」
魔性の笑みを浮かべるあまねさんに、私は従うことができなかった。
「ふふ、のどか先輩も、本当は早くして欲しいって思っている。そうでしょう?」
「う、うん…」
ごめん、ごめんね拓海くん。私、私、あまねさんと一緒に──
──拓海くんの部屋に不法侵入しちゃった♬
期末試験が迫ってきて、落ち着いて勉強できる場所が欲しいって望んだ私に、拓海くんのご実家が営むゲストハウスの一室を借りることをあまねさんが提案してくれたの。
拓海くんの口添えもあって、学生割引の格安料金で部屋を借りることができた。
で、二人で一緒にそのゲストハウスで勉強してたんだけど……
「品田とゆいの仲を進展させたいと思いませんか」
「うん、思う。すごく思う」
と、意気投合しちゃって、それで先ずは拓海くんがゆいちゃんのことをどう思っているのか知りたくて、こうやって彼の部屋にこっそり忍び込んだの。
ふわぁ〜、男の子の部屋に入るなんて私初めて。ドキドキする…。
「ふむ、品田め。もっとイカ臭いと思ったのに意外だな?」
「イカ?品田くんはイカが好物なの?」
「正確には好物を前にハッスルするとイカの匂いが漂う……俗説ですよ。気にしないでください」
空っぽのゴミ箱を見て落胆したあまねさんは、続いて机の上に飾ってあった写真立てに目を止めた。
「のどか先輩、コレを見てください」
「ふわぁ、小さい頃の品田くんとゆいちゃんだ。か、可愛い……──あれ?」
どうしてだろう、どこか見覚えが……
……そんな思考は、あまねさんからの呼びかけにかき消された。
「ふふ、そして本棚にさりげなく置かれたガジェット系雑誌…やはり幼馴染系か、わかりやすいぞ品田」
「ふわぁ…ふわわわわわ!?こ、コレ、コレッ!?」
「茶髪ロングの巨乳系ですね」
「か、解説しなくていいからっ!?こ、こんなの隠し持ってるなんて、し、品田くん、不潔…!」
「逆に持ってない方が不安とは思いませんか?」
「そ、そういうものかな?」
「彼も正常な思春期男子、そしてゆいは彼の性癖ど真ん中─いや、むしろゆいが品田の性癖を決定付けたんでしょう」
と、エッチな本をめくりながら冷静に分析するあまねさん。
「思春期男子の劣情を甘く見てはいけない。品田のヘタレた理性が性欲に吹き飛ばされて大惨事になる前に、あの二人を穏やかにくっつけないと」
と、いうわけで。そう言いながら、あまねさんは持ち込んでいた別の雑誌を本棚に並べた。
「あまねさん、それなに?」
「生徒会長モノです」
「なにそれ!?」
「性癖のバリエーションが増えれば、煮え切らないゆいへ性欲のままに襲いかかることもないと思いまして……のどか先輩、具合が悪そうですか、大丈夫ですか?」
「うん、ちょっと頭痛がね……」
私の様子に、あまねさんはようやく部屋からの退散を決めてくれた。
二人で部屋を出るとき、私はもう一度、机の上にある写真立てに目を留めた。
──お姉ちゃん。
……不思議と、懐かしい気がした。