二人じゃない
―――何度裏切られただろう
匿ってくれた人は海軍へ通報し懸賞金を貰うためだった。
前に助けたことのある人から渡された食料は毒が入っていて、危うくウタが襲われるところだった。
心配してくれた人たちの罠にかかり、危うく二人とも死ぬところだった。
文字通り、世界の全てが敵だった。
いつしか人を疑うようになった自分に嫌気が差した。けれどもそうしなければ生きていけなかった。
全てを敵に回したことに後悔はない、ウタを守るためだから。それでも疲弊していく心は悲鳴を上げていた。
そしていつの日か信じるという言葉はウタへの言葉になっていた。
―――だからだろうか、目の前にいる人物すら信じられなかった。
「近づくんじゃねぇ!シャンクス!」
疲弊して眠っているウタを抱きかかえ拒絶する。本来なら信じられる相手だった。
―――けれどもし裏切られたら
その考えが頭をよぎる、その疑念は時間と共に大きくなる。
本当に裏切られたら、心が壊れてしまうだろう。
だから差し伸べられる手を拒絶する。過去の思い出を汚したくないから、綺麗な思い出でいてほしいから。
「来るんじゃねぇって言ってるだろ!」
裏切られたくないから拒絶して、そのたびに心が悲鳴を上げていく。
慟哭する心に蓋をして、本心すらも偽って叫ぶ言葉はまるでSOSのシグナルのようで・・・
それを目の前の彼はわかっているかの如く、何度も言葉を続けてくる。
「遅くなってすまなかった」
本来謝るのはこちらのはずなのに、彼は何度も謝罪する。
「どうでもいい!放っておいてくれよ!」
救いの手を取れない自分たちの悲鳴を、拒絶という言葉に乗せて叫ぶ。
逃げ出せばいいという判断をすべきなのに、それすらどこかで拒絶している。
ここで逃げてしまえば、二度と手を取れない気がするから。
そうやって矛盾を叫ぶ心は今にも壊れそうになる。
「信じなくてもいい、後で裏切ってもいい」
だからだろうか、彼が紡ぐ言葉を聞くたびに徐々に視界が歪んでゆく。
「どんな言葉も受け入れる、どんな処遇も受け入れる」
投げた土を避けないその姿に、凍らせた心を溶かしていく。
「だから礼を言わせてくれ」
近づく彼を拒絶できなくなり、蓋をしたソレが溢れそうになる。
とうとう眼前まで来た彼に、否定が涙で退いて行く。
「ウタを守ってくれてありがとう」
抱きしめられたことで、蓋をしたソレが限界を迎える。
「シャンクス……」
無言で待つ彼に、とうとうソレが溢れ出した。
「……たすけてくれ」
絞り出すような言葉に、力強く返答してくれた。
「任せろ」
その言葉は、何よりも得難い救いだった。