事の終わり
トムの一件は、これにて一応の終結を見せた
終結せざるを得なかったというべきか
CPが、政府がかかわっている以上、これ以上追及や下手な探りはこちらの首を絞めるだけ
私ととてただで済ませるつもりはない、いずれ真実を全て明らかにする時が来るだろうが、少なくともそれは今ではない
今はただ、声を荒げぬよう口を紡ぎ、なにも見ていないと眼を塞ぎ、ただ静かに時が過ぎるのを待つ
こう言ったことはタイミングと、それをなすまでの情報秘匿が重要だ
ただでさえこちらは世界を滅ぼす兵器の設計図なんて秘密を抱えている
慎重に、油断なく事を進める必要があるのだ
そのため私も事件後は大きな動きは見せず、いつものように粛々と仕事に従事している
とは言え、今回の事件によって生まれた鬱屈とした感情が消えることはない
むしろ発散できない分、膨れ蓄積していく一方だ
だが、先日も言った通り、今この島は好景気に沸いていた
その分、私も仕事がここ数年で最も忙しい日々を送っている
新たな投資先の選定、電伝虫放送の事業拡大、劇団やテゾーロのライブの運営等々
その忙しさは、ひと時でも心に溜まった悔しさや悲しさを忘れさせてくれる、値千金の妙薬になっていた
…今回の一件で、痛感したことがある
やはり、政府には勝てない
世界政府という、この世界の中心に坐する巨大権力の前では、私でもなす術がない
今回はトムだったが、今後何らかの理由で私の方にその鉾が向くことがないとは限らない
だが逆に言えば、その鉾をこちら側が使えれば強大な武器になりうる
…私とて本意ではないし、可能であれば関わりたくないというのが本音だ
しかし、毒を以て毒を制す、世界政府という権力に抵抗するには添えと同等以上の権力を手に入れるしかない
すなわち、天竜人の加護
以前にもいったが、天竜人の何方か個人の配下として、その名前を借り受ける
それが最も確実で安全なルートと言えるだろう
しかしそれは、あの下界民を己と同種と思わない、傍若無人の天竜人の所有物となることを意味する
これが、私がこの案に二の足を踏む要因だ
…はぁ、まったく
どこかに、あのドンキホーテ夫妻のような、下界人と同様の価値観を持った天竜人はいないものか
いれば即刻取り入るというのに…
なんて、妄想甚だしいというべきか
こんな無駄な思考をしていないで、できる限り早く、現実的な案を模索しなければ