“予定は未定になりました”
アラバスタ本編前の話
ギャンブル苦手ニキ
海賊から奪った物を手に戻ってくるとミス・オールサンデーが
「とっても素敵な服がポーンショップに入ったと連絡がきたわ」
と、どこか楽しそうな笑みをたたえて報告してきた。
「お兄さんよ」
キャメルは戦いというゲームなら強いがそれ以外の勝負となるとからっきしだ。
トランプのジョーカーは最後まで残り役を覚えないのでポーカーはブタで終わり馬やルーレットに賭ければ必ず外す。そういう男がアラバスタのレインディナーズに訪れればこうなるのはクロコダイルは分かりきっていた。
「軽く服を担保に出すなと何度も言っただろう」
自分の服が無いので代わりに渡されたクロコダイルの服を着てキャメルは呑気に器に盛られたフルーツとワインを楽しんでいる。体格が違い過ぎてぶかぶかだがキャメルは特に気にすることもなく相変わらずのマイペースさだ。
「私の作った服ってなんだか知らないけどこの国だと高く値がつくから丁度良いと思ってね。それにしてもスロットは難しいなあ。回転はゆっくりなのに並べて止めるのがちっともできない」
ゲームが苦手な者ほど、いや苦手だからこそなのかハマってくれるからカジノというのは儲かるものでクロコダイルにとって都合の良いカモなのだが兄までそのカモになってもらっては困る。
「ここに来る度に財布から何から空にしていくのは止めろ」
「ちゃんとそこらの賊から色々貰って帰ってるよ」
「やめろ。とにかく次やったら治験でもなんでもやってもらうからな」
その台詞にやっと食べていた手がピタリと止まる。
「あの仕事嫌いだなぁ研究所もあれが一番つまらなかった。基本じっとしてるだけだし」
普通はそれが当たり前だろう、という言葉は口には出さずにクロコダイルはキャメルの手から苺を取ると口に含む。糖度が高すぎてクロコダイルの好みの味ではないので噛る前に口の中ですぐに砂にしたが。
「美味しいよね。この国の果物って甘いの多くて好き」
それもあと何年食べれるかどうか。ただ教えなくても問題ないだろう。キャメルは無くなっても少しの間落ち込んだらすぐに代わりを見つけてこんな小さな果実の存在など忘れてしまう。
本当に兄が大切にしてるモノは片手で数える程しかなく、その数が増えることなど滅多にどころかカロリナ以降見たことなどない。
「苺の砂糖漬けていうのがこの前売っててね。今度持ってくるよ」
「いらねェ。その前に壊した機械の修理代持ってこい」
「さっきも言ったけどレバーはなにもしてないのに勝手に折れてボタンはへこんじゃったんだよ」
「壊した奴は皆そう言う決まりなのか? いいから払え。それまで出禁だからな」
「本当なのに。仕方ないねこの国での服の流行りでも調べようか三着位仕立てれば貯まると思う。うーん次の人にちょっと待ってもらおうショコラに手紙頼まなきゃ」
キャメルのナワバリは簡単に言えば楽園全体だ。あっちこっちへ気軽に移動し依頼を受けてはまた次の仕事へ。気に入った服を着た人間にしか名刺を渡さないので新規は滅多に増えない割に服の評判は良く依頼の頻度は多い。カジノに寄ったのもアラバスタの依頼人へ服を引渡しに来ただけで本来なら今日勝って夕方にはショコラと一緒に出港している予定だったのだ。
「⋯⋯何ヵ月かける気だ」
「四ヶ月くらいかな! それまで部屋貸して」
さらさらと書かれる字は達筆だが内容は自分勝手過ぎてどうしようもない。それでも客は文句も言わずに服を待つのだからキャメルの服は高値が付くのだ。
「それまでの金はきちんと上乗せするからな」
「分かってるよ、大丈夫」
にっこりと微笑むキャメルに呆れた顔で仕事に戻る為に出ていこうとすると手をとられて苺を一つ乗せてくる。
「いってらっしゃい」
ひらりと軽く手を降る兄に無言で振り返り口にほおる。やはりクロコダイルには甘ったる過ぎて食えたものではなかった。
手紙を書き終わりショコラを呼べば当たり前の様に扉から入ってくると一声鳴いて整えられたキャメルの髪を食む。流石の彼女もこの悪癖には多少呆れているのかもしれない。
「ごめんごめん、つい楽しくて」
手紙を彼女専用のポーチに入れてニッコリ笑う。
「なんだかクロの機嫌も良いみたいだけどなにか有ったのかな」
「ブエエエ」
「私が負けたから? ⋯⋯なんで?」
首を傾げて考え込む相棒にショコラは呆れた様に髪をぐしゃぐしゃにしてから言いつけを守る為に部屋を出ていく。
弟がいると構う時間作りの為に作業効率が上がってたちまち目標額に届く事をよく心得ている彼女は敢えてのんびりと、目的地を目指して歩きだした。