乗車切符は片道で。
皆々降りる列車の中。1人降りずに座っている。
窓枠から広がるのは闇。降りた皆が行き着いたのは光。1人呪いの中に取り残されるまま、列車は闇に向かって発車する。
『えー、それでは発車致します。』
ノイズの掛かる車掌の音をバックにゆっくりと動き始める。1人乗ったままの乗客は降りた人々を見て目を細め、密かに手を振った。しかし皆はそれに気付かない。気付く由もない。
ふと誰かが振り返った時には発車しており、顔は合わない。もう誰の顔を見ようとしていたのかも、誰を惜しもうとしていたのかすらも分からない。
等しく犠牲になった人間が行き着くのは闇。
呪いの蔓延る闇。
誰も存在しない暗闇。
けれど乗客は微笑む。
そしてこれは、ただの夢である。