久方の歓声響くUtopia Parade
毎日のように仕事を片付けて、昼休みをしていた時の事。
<「失礼します、先生!」>
<「少しお時間を頂いてもよろしいでしょうか?」>
外から響くのは、《同じような》2人の声。
“大丈夫だよ!”
「すいません!」
「ありがとうございます」
“……ああ、君達か!”
訪れたのは、ペレー帽を被った917号とハンチング帽を被った1920号だった。それぞれ、マエストロとゴルコンダが保護しているアリスだ。
“今日はどうしたの?”
「今回はですね~……」
「スランピアにて、とある問題を解決して頂きたいのです」
スランピア。廃虚の遊園地であるそこは、『複製』がたくさんいる場所だ。例として、シロ、クロ、ゴズが挙げられる。そして……彼女達のマスター達の実験場でもある。
“解決したい問題、っていうのは?”
「現在、スランピアには、10体の量産型アリスが保護されています!」
“へ~……え、『保護』!?保護って言った、今!?誰に!?”
「ゴズさん達ですよ?」
聞く耳を疑った。何がどうなったら、『恐怖』が本質の『複製』達が量産型アリスを保護するのか……ああ、そうだ、番号を聞こう。
「……内訳は?」
「52号と96号、XX46号。後の七体は海賊版です!」
……違和感がある番号があったので、聞いてみた。
“XXっていうのは?”
「彼女は元々4桁の番号が割り振られていましたが、何らかの理由で上2桁の記憶が欠落していました。それを補う形で、XX、という事になっています」
“なるほど……それで、私は何をしたら良い?”
「先生には、2週間後に開かれる、スランピアのパレードに参加して頂きます!そこで彼女達に定住権を与えるか、否か、を判断して頂きます!」
「スランピアの問題は主にシャーレが担当していますよね?恐らく、そんな所に、住んでいて大丈夫なのか、不安だと思います。なので、直接見て頂いて、判断して頂ければと思います」
なるほど、至極真っ当な提案と理由だ……ここは彼女達の提案に乗ることにした。
“分かった、参加するよ”
「おお!ありがとうございます!」
「感謝します……ここからは私達の注文ですが、よろしいでしょうか?」
“何かな?”
「連れて行くメンバーの事です。今回ですが……ユウカ財団代表とオリジナルは休ませてあげて下さい。彼女達、色々と大変そうなので」
確かにその通りだ。どちらも現在、心労がとんでもない事になっているので、招集させるのは酷だな、と自分でも思った。
“分かった。その注文、守るよ”
「再び感謝申し上げます。では、私達はこれで失礼します」
「『楽しんで』きてくださいね、先生!それでは!」
……楽しんで、か。正直シロ&クロ戦で『楽しい』という感情は生まれてこなかった。本当に楽しめるのだろうか?と悩んでいたら、もう2週間が経っていた。今回私が招集したメンバーは、
「今夜もよろしくです、主殿!」
「あなた様の招集でしたら、このワカモ。いつでも駆けつけますので」
「ヤッホー、ご主人様!」
「ウフフ……美食とは違いますが、先生からの招集ですので、ね」
イズナ、ワカモ、アスナ、ハルナである。今居るのは、スランピアの城の前。もう少しすれば、シロの大玉が見えるはず……
“あれ?”
「ん〜?ご主人様。アレ、なんかいつもより小さくない?」
「それに、もうどなたか乗られておりますわね?」
そんな疑問が私達に湧く中、
「フフフ……」
パチン!
小さく笑う影が指を鳴らした。すると、
ヒューン……ドッカーン!……パラパラ……
青い花火が打ち上がり、青い色のネオンが『UTOPIA』を浮かばせた。
「お客様方!今夜はご来園頂き、誠にありがとうございます!私は量産型アリスのXX46号です!どうぞ、よろしくお願いします!」
「おおっ!シロの衣装のアリスちゃんだ!カワイイ!」
「お褒め頂きありがとうございます、メイドさん!さてさて、私の自己紹介もこんな所でやめておいて……早速、パレードを始めるとしましょうか!C'mon、妹達!パフォーマンスの時間だよ~!」
「「「「「「「わーーー!!!」」」」」」」
一斉に飛び出してきたアリス達。皆、それぞれ、踊ったり、芸をしている……なるほど、『楽しんで』とはこういう事か。一瞬だが、童心にかえっていた自分がいた。すると、
「ではでは、此処で!本日の2人の主役の1人を呼びましょうか!」
その合図によって、『あの』大玉が何処からか転がってきた。という事は、
“シロが来る!”
「「「「!!」」」」ガチャ
「おいでませ、シロさん!」
クスクス……ヒューン、ドーン!パラパラ……
ーSLUMPIAーSHIRO
“さてと……アスナ、移動して!”
「ん~~?こう?」バッ
ドカーン!!
「おお!ありがとう、ご主人様!」
「フムフム、初手爆弾とは、シロさん、盛り上がってますね!私の方も……よっと!ほいさ!」
シロが攻撃している最中、XX46号は玉乗りしながら、ジャグリングしていた。正直言うと、微笑ましい。
“おお、凄い……っ、突進してくる!”
「その前に決めます!」チューーン!!
シロが突進してこようとしてきたその時、ハルナの弾丸がシロを撃ち抜いた。その一撃により、シロはダウンした。
「およっ、先生達の勝ちですか!おめでとうございます!では、次のステージへとお進み下さい!ほら、妹達も!移動開始ですよ!」
「「「「「「「はーーーい!!」」」」」」」
私達が移動すると共に、アリス達も移動する。もちろん、向かう先はクロがいる所。そこに居たのは、
「皆様、お待ちしていました!ここからは私、量産型アリスの96号が担当させて頂きます!」
「今度は、クロの衣装を着たアリスちゃんだ!コッチもカワイイ!」
「ふふふ、ありがとうございます!ではでは……妹達!まだいけますか!?」
「「「「「「「大丈夫です!」」」」」」」
「よし!このままパフォーマンスを続けて下さい!さらに!本日2人目の主役のご登場です!……舞い降り給え、クロさん!」
ファサ……キラーン!……ゴゴゴ……
ーSLUMPIAーKURO
“来たか……今度は……イズナ、移動して!”
「了解です、主殿!」ポン!
ゴーカート、木馬、ティーカップが空中に舞い、放たれる中、96号はというと、
「ああ、来てくれましたか!」
カーカー
「ふふふ……私達は私達で、輪舞して盛り上げましょう!」
カーカー!
クロのカラスと踊っていた……あのカラスって、意思疎通出来るんだ……
“ハッ!……戦局は!?”
「大丈夫です、あなた様……これで……終わりです!」バンッ
ワカモがクロに放った弾丸は……見事命中し、クロはダウンした。
「おおっ!先生方の勝利です!という事は……ここからクライマックス!フィナーレを飾るとしましょう!46号!」
「了解しました!本日ご用意した花火、ありったけ発射します!……点火開始!……発射!」
ヒューン、ドドドカーッン!!!パラパラパラ……
フィナーレを飾るにふさわしい大量の花火が空を彩る。
「わー、綺麗です!」
「ええ、美しいですわ」
「おおー、すごーい!」
「フフ……あの夏を思い出すようですわ」
皆が感想を述べる中、私は黙っていた。否、うまく表現出来なかった。青い色が多いが、それでも、美しい、という表現しか出てこなかった。
“……ああ”
綺麗だ。そして、なんだかんだ『楽しかった』……本当に不思議だ。
「さあさあ、最後に開くは、大一輪!とっておきでございます!特とご覧あれ!3、2、1、発射!」
ヒューン……ドッカーン!!……パラパラ……
そして、見事な大一輪の花火が開き、散ったと同時にパレードは幕を閉じた。気付いたら、自然と拍手をしていた。
「ふふふ、如何でしたでしょうか、今宵のパレードは!?」
“楽しかった!そして、感動した!”
「おおっ!ありがとうございます!嬉しいです!」
さてと……ここから、見極めなきゃいけない事がある。
“君達は何故、此処に住みたいの?”
そう聞いてみた、その時、
「それについては、私から説明させて頂きます!」
今、目の前に居る9人とは違う『アリスの声』がした。すると、
ヒラヒラ〜
と、1枚のトランプが落ちてきた……トランプ?
“まさか!?”
そう呟いた瞬間、
ヒュオーーーーン!!……
1枚が無数になって、竜巻を形成した。
「な……!?」
「っ!?……中に誰か……アレは!?」
竜巻が収まった後、中に居た人物が口を開いた。
「Ladies&Gentleman!!初めまして、こんばんは!私は量産型アリスの52号でございます!以後、お見知りおきを!」
「凄い登場の仕方……はっ!さては、忍者ですか!?」
“いや、あの格好見る限りマジシャンだよ、イズナ……”
そう、彼女が身につけているのは、
「まぁ、やっぱり、ゴズの衣装のアリスちゃんもいるよね!」
という事は……
“君は、ゴズの総力戦担当なの?”
「ええ、そうです!その時は、是非!私のマジックも楽しんで下さいね!」
……何故か、ゴズの総力戦が『楽しみ』になっている自分がいた……って、それよりも、
“君が理由を教えてくれるんだね?”
「はい!では……ここ、スランピアは、先生方にとって、厄介な場所である事は重々承知です。しかし、私達にとっては、ようやく嫌な思いをしない安寧の地であり、『居場所』であり……《我が家》です!」
“……!”
「もう、あんな……争いに巻き込まれて、辛い思いはしたくありません!……どうか……どうか!私達に此処に住み、パレードやショーをする事をお許し下さい!お願いします!」
「「お願いします!」」
今まで支配していた『歓喜』が、『悲哀』になったのを感じた。一応、事前にモモグループの方で話はつけてあった……もう、自分の中で答えが決まっていた。
“許可するよ!”
それを聞くと、
「お……おお!ありがとうございます!」
「良かった……良かったです〜!」
「やりましたよ~、妹達〜!!」
「「「「「「「やった~~!!!」」」」」」」
『悲哀』が再び『歓喜』に戻った。すると、
「そういえば……先生!私達……といいますか……ゴズさんからとある提案がありまして……」
“えっ……ゴズから!?”
あのゴズから!?きっととんでもない提案だろうな~、と思ったら、
「此処では量産型アリスを20人は、迎えられるようなので、そちらも許可して頂きたいのですが……」
……恐らく悪い物でも食べたんだろうか?……いや、『複製』だし食べれないか?……もう、その場の空気に任せてしまえ!と思っていた自分がいた。
“そっちも許可してあげる!”
「すいません、ありがとうございます!」
気が付くと、日が昇り始めていた。すると、
「ええと……今夜はスランピアにご来園頂き、誠にありがとうございました!」
「私達に会えるのは、また夜です!お出口はあちらから!」
「またお会い致しましょう、先生方!私のマジックに酔いしれる、その時まで!」
3人はそう告げて、私達を見送ってくれた。その帰り道。
「ううん……眠いですが……楽しかったですわ」
「なんだか、心踊りましたね」
「また行きたくなったね、ご主人様!」
「イズナも52号殿に負けないように修行します!」
“だから、52号は忍者じゃなくて、マジシャンだよ、イズナ……”
なんて事を言いながら、帰路に着いたのだった。一方、スランピア組は、
『負ケチャッタケド、ナンカ気分ガ良イ!何ヨリ、楽シカッタネ!』
『そうだね……あの男には、初めて感謝しなきゃいけないね』
『ニャハハハ!良かったニャ!』
と嬉しそうであった。