主従の絆
神永 side in
「主殿!ただいま戻りました!」
玄関からライダーが入ってくる、美作が出てから10分も経っていない。
「おかえり、ライダー。とりあえず座ってくれ」
「はい!えーっと美作殿から聞きましたが話があると」
アイツ…!ライダーに話して逃げられないようにしやがった…!いや逃げるつもりは無いんだけども
「あぁ、少し話したいことがあってな」
そう言って横になっていた体を起こす。
だいぶ回復したためこれぐらいは問題ない。
「ライダー、お前は聖杯にどんな願いを求めるんだ?」
「あ、……話していませんでしたね」
そう言ってライダーが座り方をきっちりしたものに直す。
「私が聖杯にかける願いはひとつです」
───兄上と、また仲良くしたい
そう、牛若丸は口にした。
「……仲直り?」
「はい、生前の、奥州に行く前の様に兄上と仲良くしたいのです」
「……つまり座でそういうことをしたいみたいなことか?」
「そう…なりますかね?」
やり方わかってないのか……、まぁ聖杯は万能と言うしそこら辺も含めてやってくれるんだろうな。
「……私は、何故兄上が私を処刑しようとしたかは分かりません、でも、それでも!兄上と、幼い頃のように…」
そういった牛若丸の肩は震えていた。
──命を狙われたとしてもそこまで仲良くしたいのか
「牛若丸…」
「……すみません、少々取り乱してしまったみたいです」
「いや、大丈夫こっちこそ不躾な質問だった、すまない」
「気にしないでください…、とりあえず私の願いはそういったものです」
思った以上に牛若丸の願いはささやかで、それでいて不可能に近いものだった。確かに聖杯を求めるに足る願いとも言える。そして、この願いのために命をとしているのか…
「……なら牛若丸、お前に問いたいことがある」
「はい、何でしょうか」
「もし、俺の命で願いが叶うのならどっちを取るんだ?」
この質問は明らかに意地の悪い質問だ、牛若丸に願いと俺を天秤にかけさせるものだ。だが、これから戦い抜くに辺り俺が牛若丸を信じきれるかの大切な要素だ
「主殿です、たとえ願いが叶わないとしても主に刃を向ける訳にはいきません」
キッパリと、即言い放った。
「…は?いやもう少し悩むとか」
「確かに私の願いは叶えたいものです、ですが主殿の命と天秤にかけるものではありません。私は他の聖杯戦争に呼ばれさえすればチャンスがありますが主殿の命はそうは行きません」
「牛若丸…」
なんで、キモチワルイと思ったのかが今わかった。
───牛若丸は忠義というものが最も遵守すべきものなのだ。たとえ、自分の命や願いを天秤にかけたとしても。
ヒトとして欠落している、そういうことだったのだ。
だがその忠義は決して揺らぐことがない、その時の主を絶対に裏切らない。在り方がヒトでは無い、忠犬なのだ。
何故、そうなったのかオレはそれを知る術を持たない。だがここまで俺を信じてくれている牛若丸を裏切ることはしたくない。
───ホントニ?ヒトノ心ヲ分カラナイ獣ヲ?
頭の中でナニカが語りかけてくる、だがだとしてもだ。
俺は、牛若丸のマスターなんだ。命をかけて戦ってくれている彼女を、裏切れるはずがないんだ。
彼女を裏切ってしまったら、俺は俺でなくなってしまう。
「わかった、ならそうはならないように気をつける」
「主殿……?」
スッキリした、俺がなんで牛若丸をキモチワルイがっていたか、その疑問が消えそして彼女の在り方を理解した。それだけでここまで変わるのか
(美作には感謝しないとな)
こうやって話さなければ分からないこともある、あいつには俺の悩みなんて阿呆みたいに見えたのだろう。
「なぁ、牛若丸」
「どうしましたか?」
「ありがとう、俺のサーヴァントで居てくれて」
「……へ!?」
顔を赤くした牛若丸はびっくりして後ずさりする
「な、ななな!?何を言って」
「いや、こんなヘボマスターなのにこんなに忠誠を誓ってくれたんだ、お礼ぐらい言うだろ」
「いや、だとしてもその…」
「気にしないでくれ、それともうひとつ話しておかないといけないことがある」
「……はい、何でしょうか」
そう言って先程美作が言っていた牛若丸と契約したいといった旨の相談した
「むぅ…確か美作殿はまだ令呪が残っていましたよね?」
「ああ、だから厄介なんだ。俺の持つ令呪は二角、あいつも二角アドバンテージはある、だがそれ以上に裏切る可能性が…いや、無いなあいつはそんなタマじゃない」
今までの付き合いからそう断言する
「まぁ牛若丸が嫌なら断るってのも手だが…」
「戦略的には断る必要性はないんですよね」
「そうなんだよな、少なくともあいつが契約すれば宝具の使用回数が倍になる。牛若丸の戦闘スタイルを考えれば断る必要性はない」
悩ましいところだ。
「わかりました、では次美作殿が来た際に話しましょう」
「そうするか、まぁとりあえず明日に色々決めよう、もう俺は限界でな」
「わかりました、では今日は休みましょう」
そう言って牛若丸は鎧を消すが…
「……その、あまり見ないでくださいね?」
なんか恥じらってる!?
牛若丸の変化に驚きつつ俺は床についた
神永 side out