主を待つ運命

主を待つ運命



ミレニアムの出港準備が進む中、パイロットスーツに着替えたアスランはハンガーブロックに固定されたデスティニーを見上げていた。すると、そこにキラが姿を見せた。


「アスラン、もうじき発進できるって」

「ああ……」


キラの伝言に短く答えつつも、アスランはデスティニーから目線を外さなかった。それを見たキラもデスティニーを見上げた。二人にとっては因縁の深い機体。どちらもデスティニーとの戦闘経験があるだけに、この機体のポテンシャルは誰よりも理解している。


「でも、アスランがルナマリアにデスティニーの搭乗を薦めるなんて思わなかったけど……君は乗らないのかい?」

「俺にはズゴックがあるからな。それに、インパルスの搭乗経験があるルナマリアなら不足はないと思ってる」


本音を言えば、この機体が本来想定しているパイロットに乗ってもらう方がありがたい。だが、その当人―――シンはこの場にいない。先程の放送でシンの“追悼式典”が開かれていたが、彼らの嘘を知る立場からすれば、彼の死すらも疑わしかった。だが、それを確かめている時間はないということも二人には理解できていた。『レクイエム』という明確な脅威がある以上、これを取り除かなければオーブは滅びてしまう。悔しいが、シンの生存確認を諦める他無かった根拠を彼らに作られてしまったのだ。


「シンのことは、正直俺だって信じたくはない。実際にこの目で見たわけじゃない。それはキラも同じだろう?」

「うん。僕としては、シンの性格ならどんな形であろうとも生き延びようと精一杯足掻くと思うんだ。それと」

「? なんだ?」

「誰かの命を救おうとして危ないことをしちゃうのも良く知ってるし、何だかんだ生きてるってことも」


前の大戦でキラはフリーダムを通してシンの駆るインパルスと戦った。ベルリンでデストロイと相対した際はエクステンデッドの少女を救おうとして、あのような行動をとった―――という事実をキラはシンから聞いていた。


「キラ……お前はシンのことを信じているのか? それとも貶しているのか?」

「良くも悪くもそれがシン・アスカの為人だと僕は思ってるだけだよ。シンがファウンデーションの民を救ったのなら、僕たちが救わなきゃいけないのは全世界の罪もない民。その為にレクイエムを破壊しなきゃいけない。仮にシンが生きていたとしたら、彼が楽できるように僕らが頑張らなきゃ。だから力を貸してほしいんだ、アスラン」


どんな時でも真っすぐで、ひたむきに生きている。大切な人を喪っても、それでも何とか足掻き続けた少年。呆れ気味に問いかけるアスランに対し、キラは笑みを浮かべてアスランに頼み込んだ。先程アスラン自身が言っていた『誰かに助けを求める』という行動を実践していた。


「……ああ。アイツがひょっこり帰ってくるようなことがあったら、その時はルナマリアに説教してもらえばいい」

「てっきり、君が説教するのかと思ったんだけど」

「俺はコンパスじゃないからな。寧ろキラの役目でもあるんだぞ」

「うぅ……まあ、程々にしておくよ」


シンならば、きっと生きている―――そう信じて疑わない二人を見つめるかのようにデスティニーは静かに佇んでいたのだった。

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