中編

中編


 中編


注文した縄をレンゲから借りた本を参考に整えつつ、仕事の合間にこっそり練習していた数日間、青春師弟それぞれの予定の空いた日になった。

場所は先生の私室。盗聴器の類がないことを確認してから部屋にレンゲを招き入れる。

「お、お邪魔します…」

今日二人でやることに緊張しているのか頬を赤らめ少し他人行儀だったがすぐに気を持ち直したのかしっかりとした足取りで部屋の中央、先生と向き合う。

「師匠、今日は、その…」

しかし自分から言うのはやはり恥ずかしかったのかしりすぼみになっていく声を聞きながら先生、いや師匠はレンゲの手を取り目を覗きこむ。

時々読み返した本の中のセリフを真似ながら束ねられた縄の端を握らせた。

”緊張するのはわかるけど落ち着いて息を整えて。そして嫌だったらこの縄を放すんだよ?”

レンゲが自身の握る縄を一目見てその感触を確かめるように握りこんでから深呼吸を繰り返す。

まだ頬が赤いがしっかり落ち着いたのを見てから先生は縄束を引っ張った。

レンゲの手は縄の端を握ったまま。そこから伸びた縄束は結び目が解かれバラバラと床に落ち、静かな私室に音が響く。

この時点で師匠とレンゲの簡単な契約が交わされたことになったのだ。

”握ったままでこれから言うことは何?目をそらさないで言ってごらん”

「…ア、アタシをこ、…これで縛ってください…」

物語の中のこの場面を覚えていたのか定かではないが、頬どころか顔を真っ赤にして小さく震えた声ながらもはっきりとレンゲはそう言い切った。

この時から一登場人物として役になりきるのが楽しいと感じていた師匠はノリノリで2つに折った縄を片手にレンゲに次の行動を促した。


やめたくなった時の合言葉を決めてからレンゲは師匠に背中を向けて両手を腰のあたりで組む。今回は後手縛り。作中でも多用された縛り方で、上半身の動きを厳しく制限する縛り方の一種である。

緊張で体が硬くなっているレンゲの肩に手を置き落ち着いて力が抜けるまで待ってから師匠の手は動き出した。

組まれた手首にシュルシュルと縄のこすれる音が響きながら二重に回されていく。血管がある手首を締めすぎないよう注意をしつつ結び目を作り、まとめた手首を肩甲骨あたりまで持ち上げてから胸の上側に縄を回していった。

体を1周した縄を持ち上げた手首の縄に返しもう一度体に縄を回す。そうして胸の上側とつながれた手首の縄は肩甲骨よりも下に動かすことができなくなった。

これだけで腕の自由はしっかり絶たれたがここに縄を追加し、今度は胸の下側に縄を回す。こうすることで腕が左右に動くことをさらに抑えることができるのだ。この時に下側の縄が肘から外れないように腕と体の隙間に縄の閂を入れることで一気に拘束感が増す。

隙間を埋めるときの縄の締め付けにレンゲは無意識に声を漏らすが師匠は気づかず次々と縄を足しては華奢な体を縛り上げていった。


背中から鎖骨を渡り胸へとつながれた縄は平らなレンゲの体に起伏を作り上げていく。限界まで上げられた両手はその場から動かすことができなくなっていて、上半身を何重にも縛める縄は結び目とともに縄化粧となってレンゲの体を飾り付けていく。最後に余った縄をに背中側にまとめてから完成した後手縛りは百花繚乱の切り込み隊長であるレンゲから動くという意思を奪い取るようにその”上半身”を封じ込めた。

「うごけない…」

指先以外まったく動けなくなった自身の体を確かめるように身じろぎをするレンゲ。そのたびにぎしりと縄が鳴いては今の自身の状況を再確認している。

耳まで赤く、そして瞳もどこかとろんとしたレンゲに師匠は聞こえるよう少し声を大きめに問いかけた。

”まだ縄はあるけど下半身はどうする?”

びくりと震えるレンゲ。視線を下に脚をすり合わせるしぐさは縛られた時を考えているのだろうか。

「…ぉ、おねがいします」


その様子から次に口から出る言葉の想像は容易であった。


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