並行世界からこんにちわ

並行世界からこんにちわ

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郁代はひとりと遊びに行く約束をしていた。余裕を持って家を出たにも関わらず、電車が遅れたために待ち合わせに遅れてしまう。郁代は小走りで待ち合わせ場所に向かっていた。

ひとりは人混みが苦手だった。彼女の性格を考えて、できるだけ人通りの少ない場所を待ち合わせに場所に選んだつもりだった。しかし、不安は募るばかりだった。

自分が到着するまでの間、彼女は無事に過ごせているだろうか。

そんなことを考えながら、地面を蹴る足に力を入れる。そして、彼女が着ているだろうピンクジャージを探した。

やがて郁代はひとりを見つけた。彼女は自信無さげに待ち合わせ場所にたたずんでいた。……自信がないというよりも、何かに怯えていると表現した方が正しいかもしれない。

郁代は慌てて駆け出した。人混みをかき分けて、彼女の全身を捉える。目の前に現れたのは、驚きの光景だった。

ひとりは、赤髪の男性と話していた。知らない人との出会いに緊張するあまり、体が溶けかけている。彼女の正面に立つ男性は、あからさまにひとりの変化に戸惑っていた。

ひとりが人の形を崩して騒ぎになる前にと、郁代は慌てて二人の間に体を滑り込ませた。

「ごめん、ひとりちゃん。待たせたわね!」

「き、喜多ちゃん!」

郁代が現れるや否や、ひとりの表情は一気に明るくなった。ひとりは素早い動きで郁代の後ろに回り込むと男性の視線から逃れるように身を縮めた。

郁代の肩にひとりの両手が乗せられる。

ひとりは人の形を保てていた。最悪の事態を避けられたことに安堵すると、郁代は男性を正面から見据えた。

――ナンパだろうか。

強い警戒心が胸に広がる。

ひとりは服装や姿勢の悪さにより気付かれにくいが、優れた容姿をしている。勘の鋭い人であれば、彼女に声をかけるのは当然なことだろう。

しかし、道端で突然女子高生に声をかけてくるような遊び人を相手する気はない。そもそも、郁代は大切な友人との貴重な遊び時間を邪魔されたくなかった。

――すみません。私たち急いでいるので。

そう伝えて、さっさとこの場から離れよう。そう思って口を開いた時、郁代は固まった。

彼の容姿から目を離すことができなくなる。

郁代と同じぐらいの年齢。郁代と同じ若菜色の瞳。そして、郁代と同じ炎のように鮮やかな赤髪。

少年は整髪料を使って直毛であろう髪を柔らかく見せていた。整えられた眉毛や、同年代の異性に比べれば綺麗な肌から、かなり見た目に気を遣っているのが分かる。服装も清潔感があり、嫌味がない。そして、少年から感じる周囲から好かれそうな活発で明るい印象。

彼を一言で表すなら「好青年」。街中で見かけたならば、「イケメンがいる」として思わず目を止めてしまうだろう存在。しかし、彼からはそれだけに留まらない何かを感じてしまう。

非常に強い違和感。凄まじいほどの既視感。何かがおかしい。脳内で警鐘が鳴らされる。しかし、原因が分からない。郁代は思わずたじろいでしまった。

どうやら正面にいる彼も何かを郁代に感じたようだった。郁代を見て、目を丸くさせている。

先に動いたのは少年の方だった。困ったように眉を下げながら、彼は口を開いた。

「えっと、あのーー。驚かせたならごめん! 知り合いに似てたから、つい声をかけちゃって」

典型的なナンパの台詞。よくそんなに恥ずかしげもなく、偶然を装って言えるものだと感心してしまう。

しかし、謝罪する少年は、郁代の予想とは異なり言葉どおりに心底申し訳なさそうな顔をしていた。

まるで失敗して落ち込む子犬のよう。そんな彼に毒気を抜かれたのか、それとも郁代が来て落ち着きを取り戻したのか。今まで小刻みに震えて推し黙っていたひとりが、内緒話でもするように耳元に口を近づけて尋ねてきた。

「……あの、喜多ちゃん。こちらの方は喜多ちゃんの親戚ですか? も、もしくは生き別れの兄弟とかだったり……」

郁代ははっとした。指摘されて気付かされる。目の前の彼はあまりにも郁代に似すぎていた。まるで、彼女の言うとおり「生き別れの兄弟」かと思うほどに。

おそらくそれが、彼から覚える違和感の正体なのだろう。喜多家には、娘に話せないような重大な秘密があるのだろうか。よくない思考が頭をよぎる。

背後には縋るように郁代の肩を掴む後藤ひとりがいる。

想像に過ぎない家族の秘密よりも、はやくこの場を切り抜けて、彼女を安心させることを優先するべきだろう。

そう心に決めた直後、郁代はさらに驚愕することになった。

「喜多くん……。し、知り合いの人ですか?」

たった今到着したと思われる少女が、少年の肩口から小首を傾げながら現れた。その姿を見た郁代は衝動的に、半ば悲鳴に似た声を上げてしまった。

「ひ、ひとりちゃんっ!?」

「うぇっ、な、なんで私の名前をしってるんですか!?」

大声に驚いたのか、現れた少女は小動物のように飛び上がった。そして、郁代の後ろに隠れるひとりのように、少年の背中に身を隠してしまった。

少年の肩口から少しだけ顔を出して、おずおずと郁代を見る彼女に、強い既視感を覚えてしまう。

その姿はまるで、渋谷に遊びに誘った時に、虹夏の背に身を縮めて隠れてしまった後藤ひとりのようだった。

少女は「典型的な」美少女だった。その態度から、彼女が引っ込み思案で臆病な性格をしているのは明らかだったが、それを気にさせないくらい整った顔立ちをしていた。

もし、「彼女は芸能人」だと説明されれば、ほとんどの人が信じるだろう。誰もが自然と惹きつけられてしまう。そんな魅力が彼女にはあった。

郁代は愕然とした。

きっと「普通の人」であれば気づかなかっただろう。しかし、後藤ひとりに憧れ、後藤ひとりの可能性を知り尽くしていた郁代は違った。

桃色の髪に透き通った青い瞳。綺麗に整えられた髪、さりげない化粧、良い姿勢。服もきちんと流行を押さえていて、その中でも自分の魅力が引き立つものを身につけている。

一見、まったく違う存在のように思える存在。しかし、突然現れた彼女は、郁代にとってはどこからどう見ても「おしゃれした」後藤ひとりだった。

なぜ郁代の理想とするひとりが目の前に現れたのか。その理由がわからず、その場で再び立ち尽くしてしまう。きっと、ひとりも同じだったのだろう。郁代の背後から、彼女が呻く声が聞こえた。

「……あっ、もしかしてライブに来てくれた人でしょうか? だったら私の名前を知っててもおかしくないですよね。失礼な態度をとってすみません」

落ち着きを取り戻したらしいおしゃれなひとりは、少年の隣に立って郁代の前に姿を現した。そして、申し訳なさそうに頭を下げる。

「……って私ぃ!?」

しかし、その直後に彼女は素っ頓狂な声をあげて縋るように青年の腕に飛びついた。彼女は恐れの色が滲む視線を郁代の背後に向けている。

郁代はひとりに意識を向けた。どうやら彼女は気を失いかけているようだった。ガクガクと震えて、白目を剥きながら溶けかけている。

ひょっとしたら、ひとりはドッペルゲンガーに会ったとでも思っているのかもしれなかった。

郁代は、気絶しかけるひとりを非難することはできなかった。

郁代自身、目の前の少年や、ひとりによく似た少女の登場に戸惑っていた。

目の前の二人もこの現状に動揺しているようだった。

結束バンドの歌詞のように、意味もなく秒針が進んでいくのを感じる。

このまま行動を起こさなければ、せっかく手に入れたひとりと遊ぶための時間は確実に無くなるだろう。

一体何が起きているのか。郁代は現状を打開するべく、まるで並行世界から現れたような目の前の少年と少女に、凛とした顔で向き合ったのだった。

 

 

 

 

喜多郁三は困っていた。

待ち合わせ場所にいた後藤ひとりに声をかけたところ、それは郁三の知る「後藤ひとり」ではなく「後藤ひとりによく似た少女」だった。

確かに、待ち合わせ場所に少女は、最近のひとりとは見た目が異なっていた。

ピンクのジャージに目元までかかる長い前髪。まるで、郁三が後藤ひとりと出会ったばかりの時のような姿だった。

彼女に声をかける直前、彼女の変化に戸惑う自分がいた。正直なところ、今の面影も残さずに、突然昔の姿に戻るなんておかしいとは思ってはいた。しかし、溶けて地面に広がったり、綿毛になって宙を舞ったりすることのある彼女のことだから、今日は昔の格好に戻りたい気分なのだろうと軽く考えて深く気にはしなかった。

ひとりによく似た少女は、郁三が声をかけた途端に怯え出してしまった。実際、彼女と育三は初対面であるから無理もないことだろう。しかし、その姿は、あまりにも昔のひとりにそっくりで、彼女のつれない反応に寂しさを覚えると共に、懐かしさを感じてしまう。

人違いしたことや怖がらせてしまったことを申し訳なく思っていると、活発そうな赤髪の少女が自分たちの間に入るように現れた。

昔のひとりとよく似た少女と待ち合わせをしていたらしい彼女は、郁三を強く警戒しているようだった。

ひとりとよく似た少女は、赤髪の少女が現れるや否や、素早い動きで彼女の後ろに隠れてしまった。

赤髪の少女は、その行動にまったく動じていなかった。おそらく、それが彼らにとっての日常なのだろう。

彼女たちに不審者扱いされたことに、若干傷つきつつも、ひとりによく似た少女にも気の置けない友人がいたことを嬉しく思う自分がいた。

こんな考えを抱いてしまうなんて、初対面の人に対し、なんて傲慢なことだと思う。

しかし、どうしても他人に思えないひとりによく似た彼女の、かけがえのないだろう絆を目にして、胸が温かくなったのは事実だった。

後から現れた郁三のよく知るひとりも、昔の自分にそっくりな少女を目にして驚いたらしい。不安を覚えたらしい彼女が腕に絡みついてくる。

赤髪の少女が、ひとりによく似た少女を守るように立ちはだかった。どうやら、かなり怯えさせてしまったらしい。ひとりや偶然出会った彼女たちのことを考えれば、ここに長居をするのは避けた方が良いだろう。

郁三は、本当のところ、昔のひとりと仲が良さそうな赤髪の少女と連絡先を交換したいと感じていた。

なぜか彼女には、ひとりによく似た少女以上に他人とは思えない何かを感じてしまう。

言葉で表すとするなら「親近感」。

不思議なことであったが、彼女とは後藤ひとりや結束バンドのこと、イソスタのことで一緒に盛り上がれる気がした。

もっとも、自分に向けられる鋭い目つきを見る限り、彼女が快く連絡先を教えてくれるとは到底思えない。

なんとなく赤髪の少女を見ていると、ひとりに腕を引っ張られた。ひとりを見れば、彼女の不安な表情が目に入る。

潮時だと思った。

郁三は、この奇妙な出会いにに名残惜しさを覚えつつ、彼らに別れを告げるため、人好きのする笑顔を浮かべたのだった。

 

 

 

 

喜多郁代は戸惑っていた。

後藤ひとりに似ていて、後藤ひとりにはあらざる存在。

見れば見るほど、彼女は後藤ひとりと瓜二つだった。郁代の視線に怖気付いたのか、おしゃれをしたひとりは少年の腕に一層体を寄せた。

初めはひとりから分裂した物体が成長した姿かと思った。しかし、その考えはすぐに吹き飛ばされた。

郁代にとって「服装や容姿に気を遣う後藤ひとり」は理解できた。事実、ひとりはライブや文化祭などで誰かに求められれば、可愛い服も着るし化粧もする。

しかし、「男性の腕に積極的に抱きつく後藤ひとり」は解釈違いだった。

郁代の知るひとりは絶対にそんなことはしない。いや、できない。もし、そんな行動をしようとすれば、その人に触れようと手を伸ばしただけで、彼女は緊張のあまり、溶けたり、粒子になったりして、瞬く間に体の形を失ってしまうに違いなかった。

少年と少女の距離はとても近い。おしゃれをしたひとりとの接触に少年がまったく動じていないあたり、おしゃれなひとりの少年に対する密接な行動は日常のようだった。そんな姿を見せられれば、恋話が好きな郁代としては、彼らの関係までつい気になってしまう。

当然ながら、外見だけでは彼らが付き合っているかまでは判断することはできない。しかし、おしゃれをしたひとりが、この整った顔の少年に心惹かれていることは確信できた。彼女は、時折不安そうに赤髪の少年の顔を見る。その視線に宿る熱を見れば明らかだった。

郁代は、このおしゃれなひとりのことをどうしても他人とは思えなかった。

あまりにも、自分の大切なバンド仲間に似すぎている。ひとりも、恋をすれば彼女のようになるのだろうか。

そう考えると、彼女に瓜二つの人物をそうさせてしまったのであろう少年のことが気になってたまらなくなる。

できることなら、彼と連絡先を交換して、目の前のおしゃれなひとりについて色々と聞き出したいと思う。

しかし、もし不用意に近づけば、おしゃれなひとりと同様に、郁代のよく知るひとりも彼に恋してしまうかもしれない。それはそれで、見てみたい気もするし、突然現れた存在に彼女の心を奪われるのは面白く無い気もする。

そもそも、自分ととてもよく似たこの少年は一体何者なのか。少年の腕に身を寄せるおしゃれをしたひとりを観察する。少年にも目を向ける。

きっとこの状況が不安なのだろう。郁代の両肩に乗せられたひとりの手にぐっと力が込められるのを感じた。

この場をどう切り抜ければいいのか、考えに考える。そして、ひとりによく似た人物と親密な関係だと思える自分によく似た少年に、郁代はますます強い視線を向けてしまうのだった。

 

 

 

 

後藤ひとりは絶望していた。

郁代と待ち合わせしていたところ、突然、漫画の世界から現れたかのようなイケメンに話しかけられてしまった。

自分を知り合いと勘違いしている初対面のイケメンにどう対応すれば分からず、ひとりはなす術もなく固まった。

そんな時に、待ち合わせに遅れていた郁代が颯爽と現れた。まさに救世主だった。

彼女の背に隠れながら郁代の登場に安堵していたら、今度はイケメンの陰から、自分そっくりの少女が現れた。

それだけではない。自分とよく似た少女は、ひとりに声をかけてきたイケメンの少年と体を寄せ合っている。

自分によく似た存在が、ありたったけの青春をまとって精神的に襲いかかってくる。

少女とイケメンが織りなす光景を見たひとりは、ショックのあまり意識を飛ばしかけてしまった。

少女はお洒落だった。芋ジャージをまとう自分とは異なり、雑誌に載っていそうな綺麗な服を着ていた。

服に着られてもいない。ナチュラルメイクもしている。自惚れかもしれないが、そんな彼女を可愛いと感じてしまう。

もはや彼女を「自分にそっくり」と考えることすらおこがましいと言えた。しかし、いくら着飾っていても、ひとりにとって「彼女は自分だ」としか思えなかった。

風呂上がりに鏡の前で目にする素の自分。あまりにも、彼女の体つきは同じすぎた。そして、どことなく人付き合いが苦手そうな性格も。

もはや拷問だった。この場に郁代がいなければ、ひとりは現実を受け入れられずに塵芥となって空を散っていただろう。

お洒落をした彼女は、まるで本物のギターヒーローのようだった。

彼氏なのだろうか。彼女がどことなく郁代の面影を持つバスケ部のエースのような少年の背後から現れた時は度肝を抜かれた。

自分の虚言がこの世に実現することが、ここまで辛いことなのかと思い知る。見栄だけは一人前な、ミジンコのように取るに足らない矮小な自分は、このまま彼女に成り代わられてしまうのではないか。そんな悪い考えまで浮かんでしまう。

本音を言えば、ひとりが理想とするギターヒーローのように、カースト上位の雰囲気漂う少年と親しげにする自分そっくりな少女を羨ましく思う気持ちがあった。しかし、それ以上に気になることがあった。

郁代がひとりによく似た少女に目を奪われている。

郁代の背後にいるひとりにはよく分かった。彼女が郁代の好きそうな格好をしていることも。彼女の姿こそが、郁代の理想の後藤ひとりであることも。

どことなく虚しさを覚えて、自分の存在を示すように郁代を触れる手に力を込める。

今度郁代と遊びに行く時は、母親に頼んで目の前の自分によく似た少女のように可愛い格好をしてみようか。

そんなことを、真剣に考えてしまうのだった。

 

 

 

後藤ひとりは恐れていた。

郁三が見知らぬ少女と話している。

ひとりは人見知りだった。そのため、知らない人がいる場所にはできる限り行きたくないと思っている。

しかし、郁三が長らくその少女と一緒にいるものだから、ひとりは勇気を出して彼らの会話に加わった。

声をかけた途端、郁三と話していた赤髪の少女が大きな声で自分の名前を呼んだことには驚かされた。その後、ひとりは彼女の背後にいた自分とそっくりな少女の存在にも驚かされることになった。

なぜ、昔の自分とそっくりな少女がいるのか。これが神様の悪戯だとしたらなんと残酷なことだろう。

どんなに着飾ったとしても、自分の本質は「彼女」なのだと現実を突きつけられているかのようで落ち着かない。

たまらず、かつての自分によく似た存在から目を逸らせてしまった。そして縋るように郁三を見る。彼の目には、かつての自分によく似た少女はどのように映っているのだろう。

その時、ひとりはあることに気がついた。真っ直ぐに注がれた視線。どうやら、郁三は赤髪の少女に強い興味を抱いているようだった。いつも彼のことを見ているひとりだからこそ、簡単に察してしまった。

ひとりを見て、ひとりの名前をすぐに呼ぶあたり、赤髪の彼女は結束バンドのファンに違いなかった。もし、ひとりと同じ彼女が秀華生であるなら、こんな人目を引くほど可愛らしい子に今まで気づかないはずがない。

彼女が結束バンドのファンであるならば、彼女は必ず郁三のことも知っている。

郁三と同じ赤髪で若菜色の瞳をした彼女は、郁三と同じように陽のオーラに満ちていた。どう考えても彼らは似たもの同士だった。そんな彼らが惹かれ合わないはずがない。

郁三がリョウにぞっこんであることは知っている。しかし、絶対に間違いが起きる可能性は無いとは言い切れない。

そんなことを考えた途端、ひとりはいてもたってもいられなくなった。

正直なところ、郁三によく似た少女にひとりも興味を抱いていた。密かに憧れている陽キャの同性の友達。

リョウは先輩であるし孤独を愛する存在であるため、自分が求めているものは少し違う。

同性で、郁三のように明るく可愛い歳の近い友人がいたらどうなるのだろう。

今の郁三にされているように、度々、彼女の輝きに殺されてしまうかもしれない。しかし、一緒に恋話ができたなら、きっと楽しい日をすごせるのではないだろうか。

陽キャは怖い。しかし、自分とそっくりな性格だとおもわれるかつての自分とよく似た少女が友達になれているのねであれば、自分も彼女と友達になれるのではないだろうか。

目の前の彼女と気の置けない関係を築いているらしい、かつての自分によく似た少女を羨ましく感じてしまう。

しかし、今はそれどころではなかった。ひとりは郁三のことを見つめると、「早くここから移動したい」という思いを込めて彼の腕を軽く引っ張った。

ふたたび郁三の視線が自分に向く。ひとりは、彼の澄みきった若菜色の瞳を見て安堵してしまうのだった。

 

 

 

 

本来なら決して出会うはずがない四人の奇跡的な出会い。

自分や、大切な友人によく似た存在に多くの気持ちを抱きながら、彼らはそれからいくばくもなく別れたのだった。

 

かつての友人の姿によく似た少女に懐かしさを覚え、自分とよく似た少女に親近感を覚える少年。

 

友人によく似たおしゃれな少女が抱く恋心に興味を抱き、そんな彼女を夢中にさせた自分とよく似た少年に興味を抱く少女。

 

友人によく似たイケメンの少年にかねてからの理想を重ね、おしゃれをした自分とよく似た少女に自分の新たな可能性を知る少女。

 

友人によく似た少女に憧れと警戒心とを抱き、かつての自分とよく似た少女から己の本質を見る少女。

 

もし、自分や自分の大切な友人とよく似た存在に再び会いたいと願うなら、また彼らは出会うのかもしれない。

 

それは、神のみぞ知るのだろう。


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