両片思い同時プロポーズトレエス概念
トレエスに脳ミソ焼かれまん民この頃調子が変だ。
といっても、別に体調が悪いとかじゃない。
原因は、自分で分かってる。
この前の帰省で自分の、トレーナーさんへの気持ちを知ってしまったからだ。
それからというもの、どうしてもトレーナーさんのことを意識してしまう。
いつもしてた挨拶も、スキンシップも、トレーナーさんの顔を、目を見ると、何もかもが自分でも驚くくらい弱々しいものになってしまう。
こんなのは自分じゃない、それにトレーニングにも気合いを入れないと、トレーナーさんにも失礼だ。
多分、この状況を抜け出す方法は今まで通り、トレーナーさんと歩いてきた通り、前に進むしかないんだろう。
だから今日こそは!っていつも思ってるんだけどな。
「トレーナーさん!・・・おはよう。」
ダメだ、その一歩が踏み出せない。
こんなのはあたしじゃない。
あたしの気持ちを知ってか知らずかは分からないけど、トレーナーさんも、そう思ってるのかも知れない。
あたしが、トレーナーさんの顔をまともに見れないせいなのが殆どの原因だと思うけど、最近トレーナーさんがあたしと目が合うことが殆ど無いし、たまに合うとあたしだけじゃない、トレーナーさんも目を逸らしてる・・・気がする。
あたし、嫌われちまったのか?
そんなのは嫌だ、トレーナーさんと、これからもずっと一緒にいたい。
トレーナーさんには『あたしだけのエース』でいて欲しい。
だから、一歩踏み出すだけで良い。
あたしの勇気よ、あたしに力を貸してくれ。
ただ一言だけで良いんだ──
────────
最近調子が変だ。
俺のじゃない。いや、俺の調子も端から見たら変なのかもしれないけど。
エースの調子がとてもおかしい。
原因は・・・なんとなく想像がつく。ついてしまう。
この前エースの実家に着いていってからというもの、エースが俺を見る度に、顔を赤く染めて、しおらしくしている。
俺は、何かをしてしまったのか?特に変な事はしていない筈だ。いや、そもそも恋人でもない異性の実家に行くこと自体何かおかしい気もするが。
最初はそれを気の迷いだと、何かの気のせいじゃ無いかと、逆に俺が教え子に変な期待をしているんじゃ無いかと、色々と原因を考えていた。
しかし、今まで何度もあった、エースが何かを言おうとして、恐らくそれを誤魔化した後、こちらを見つめるあの目。
まるでこちらにすがり付く様な、或いは助けを求めているかの様なあの目。
それでいて、どこか艶やかにも感じる、あの目。
あの目をされると、つい抱き締めてしまいたくなる衝動に駈られてしまい、つい目を逸らす。
恐らく、いや間違いなく、エースは俺に惚れている・・・。
ただ、俺はエースのトレーナーだ。
その俺がエースの、あの子の人生に、これ以上食い込むなんてことはできない。それは教育者として、このトレーナーという道を選んだ一人の人間としての矜持でもある。──そう思ってた。
ここ最近のエースは俺と目を合わせない。
何かを言おうとして、諦めるまでは同じだが、その後、まるで何かに怯えている様に顔を逸らす。
あの、絶対的なライバルの存在にも、真っ向から立ち向かったエースが。
世間から見向きもされず、まるでいない扱いを受けたとしても、己の在り方を変えなかったエースが。
前を向いて走り続け、多くの人々をその背中で勇気づけていた、あのエースが。
俺から目を逸らして、子供の様に怯えている。
そんなのは、俺の知るエースじゃない。
そして、この子をそうさせてしまっている、その原因は、他ならぬ俺自身だ。
──俺は何をしているんだろうか。
あれこれと、誰に言うでもない言い訳をして。エースの心から、目を逸らしていた。
矜持だ何だと言うのなら、ハッキリと拒絶すれば良かったくせに。
自分でも、ハッキリと分かっていた筈だ。
俺はエースに、惹かれているのだと。
それはエースがウマ娘として成した偉業とは何も関係ない。
ただ一人の女性として、この子に惚れているのだと。
だから、それを壊したくなくて、ただエースを傷付けているだけだったのだと。
──自分の卑怯さに嫌気がさす。
だから、もう良いだろう。
逃げるのはもうやめにしよう。
エースはずっと、俺の方を向いて歩み寄ってくれていた。
俺が勝手に退いていただけだ。
これ以上この子にしてもらう訳には行かない。
俺が一歩を踏み出さなければ。
俺はカツラギエースの『エース』だろ。
エースがまた、何かを言おうとしている気がする。
ダメだ、俺が言わないとダメなんだ。
俺の心臓よ、そんなに動いてるんだ。口を動かすくらいできるだろ。
エースに伝えなきゃ行けない言葉は一つだけだ、言うぞ──
「「好きだ!」」