世界の甲板から 5億の男編 vol.24.5

世界の甲板から 5億の男編 vol.24.5


——「麦わら」「ロー」の海賊同盟が王下七武海ドンキホーテ・ドフラミンゴを打ち破った。世界を駆け抜けたこのニュースは当然、赤髪海賊団の旗のもと復興を進めているエレジアにも届いていた。


「ああウタ、元気そうで何よりだ!」

私は今朝配達された手配書で“麦わらの一味シャボンディ集結報道”ぶりにウタの顔を見て思わず声を上げた。

 

ウタがルフィたちとまた旅をするための修行にあたってこの島を離れてからもエレジアの復興は着実に進んでいた。移住者も子供を含め順調に増えていき市街地はかつてのにぎやかさを取り戻しつつある。その要因として大きいのはウタが修行の傍らで行っていた音楽活動だろう。「エレジアの歌姫(プリンセス)」として世界に響き渡る彼女の歌は各地で愛されその評判が移住希望者と生きていくための資金をエレジアにもたらしていた。 

「見てくれ!ウタちゃんの懸賞金がまた上がったぞ!」

「あら、この子がゴードンさんが言っていた歌姫なのね…。」

「ウタちゃんってかいぞくとしてもすごいんだね!」

「でもそんな海賊から支援を受けているなんて大丈夫かな?」

「心配ないさ!だってここは赤髪のナワバリで…」

エレジアに住む人々は実感の大小こそあれどウタと「歌姫」の関係を知っている。ゴードンがエレジアに住むものに隠し事は無しとしているためだ。そんな中でウタの懸賞金が上がったという事実は不安に思うものもいるものの、ウタがいたときにすでにエレジアに移住していた者たちを中心に比較的好ましく思われていた。

 

「さて!私も身支度をしなければ。先生が遅刻などしてはいけないだろう。」

民の様子を見るのもそこそこに私は出かける準備を始めた。今、私はエレジアの長としての日々の合間を縫って子供たちを中心に音楽を教えている。私がウタに音楽を教えていたことを知った子供たちに自分にも教えてほしいとせがまれたことをきっかけに始めたこの活動は今や私自身の楽しみの一つになっている。未来ある子供らがその才能を伸ばしているのを間近で見ることができるというのは喜ばしいことだと改めて思う。

服を着替え、タイを締め、笑顔。

「では!いってきます!」

誰もいない部屋に挨拶をしてドアノブを手にかけようとした。その瞬間

ガチャッ!

何やら深刻な様子の民によって扉は開かれたのだった。

「大変だゴードンさん!」

「…!どうしたんだ!そんなに慌てて」

「お、沖に海賊船が…!」

急ぎ港に出て海を眺める。その船は一目で見えるところにまで接近していた。帆、そしてマストの頂点ではためく旗にはクラゲのような見た目のドクロが描かれている。あの船に乗るものが海賊なのは火を見るより明らかだ。そして住民たちが記憶する限りにおいて赤髪海賊団傘下にその海賊旗を掲げる船はない。港に集まった者たちに緊張が走る。

「…ゴードンさん!」

「……君は何が起きてもシャンクスに連絡を取れるように準備を、戦える者以外は島の奥…そうだな、城の方に避難させてほしい。…彼らには私が対応しよう。」

 

港に泊まり錨を下した船からまず降りてきたのは三人。船長と思しき三角帽子をかぶった男、口元を布で覆い隠した比較的細身の男、頭から布をかぶった筋肉質の男である。武器といえるものは持っていないが体術で戦う海賊の可能性もあり、エレジアの港に緊張が走る。一歩前に出て、先に口を開いたのはゴードンだった。

「私はゴードン、このエレジアを預かる者だ。見てのとおりだがここは赤髪海賊団のナワバリだ。君たちは…」

ゴードンの話を遮り船長と思しき男が不敵に笑う。

「ヘヘヘ…んなことわかってるさ。目が見えてねえわけじゃないんだからよ。」

「それより…ここが“海賊歌姫”ウタに深くかかわりある島だって聞いたんだが本当かぁ?」

細身の男がウタに言及したことによってゴードンに、そしてウタをよく知る人々に緊張が走る。

「……君たちは何のためにここに来た!」

「そう声を出すってことはその話は大当たりってことでいいな?」

待機していた市民たちが武器を構えだし、それに合わせて船長のような男が声を上げる。

「お前ら行くぞォ!」

そしてこの掛け声をきっかけに平穏なエレジアに争いの火が———

「———ありがとう!」

———上がらなかった。

 

彼ら——クラゲ海賊団の話をまとめるとこうだった。

彼らは数か月前に新世界に行くため魚人島を通過しようとしたがその際に新魚人海賊団という連中に遭遇、その力に屈服し奴隷にされていたが、麦わらの一味らの活躍により解放され自由を取り戻した。力の差を痛感した彼らは今一度楽園側に戻り、再び新世界に挑むための準備を始めたがその際にウタのTDの存在を知り、魚人島で助けられたこともあってか船の中でウタの歌が大ブレイク。その中でウタとここエレジアに深い関係があるという話を知り、いてもたってもいられず訪問したのだという。

 

そんな話をされてしまうと私たちは武器を下ろし、ただ彼らと話をするほかなかった。

「悪いな。おれたちのせいでウタちゃんに縁あるあんたらを不安にさせちまった。」

「「「本当に申し訳ねェ!」」」

クラゲ海賊団の船長、エボシがいつの間にか降りていた多くの船員ともどもゴードンらに謝罪をする。

「こちらこそ話す間もなく警戒して申し訳ない。…かつてこの国が滅びた経緯もあってみな見知らぬ海賊にはどうしても敏感になってしまうんだ。」

「本人に礼を言えなかったからって勝手に来たんだ。文句は言えん。」

私の謝罪に対し筋肉質な船員、ハナガサが重ねて反応をする。そんな応酬をしていると

ガタッ!

「…君!どうしてここに…!?」

港に置かれていた樽の傍から私の教え子の一人である少女が駆けてきた。おおよそ興味本位で逃げずに残っていたのだろう。

「あぁ?どうしたんだぁ、お嬢ちゃん?」

口を覆った船員、カギノテがどこか脅すかのように声をかける。

「わたしもおはなし聞いてたよ。おじさんたちもウタがすきなの?」

出ていけとでも言われると思っていたのだろう。クラゲ海賊団の面々は思いもよらない質問に互いに顔を見合わせた。

「ウタがすきなんでしょ?どのうたがすきなの?」

少女は返事を待つまでもなく重ねて質問をする。沈黙を破りその質問に最初に答えたのはエボシだった。

「…やっぱり『私は最強』が一番だろ!」

「一番は『ウタカタララバイ』だろぉ?」

「最高の曲なら『新時代』だ。」

「わたしも!『しんじだい』がいちばんすき!」

「船長ォ!おれも『私は最強』が一番だと思うぜェ!」

「僕は『世界のつづき』が大好きだ!」

「あたしは…!」

「………」

海賊団の言い合いはいつの間にかその場にいた民たちも巻き込んだものに発展していった。海賊団の面々と民たちはすっかり仲を深めているようだ。私はそんな光景を見ながらその場にあった木箱に腰を下ろす。海賊と市民、基本的には相容れるはずのない彼らが「ウタの歌」という接点でこうして肩を並べて語り合っている。そんな光景を見ていると自然と口角が上がっていってしまう。するとそんな私の様子を見てか彼らが私に顔を向けた。

「ゴードンさん!あなたからも彼らにウタの話をしてあげてくださいよ!」

「あんたがウタに音楽を教えていたんだって!?ぜひその時の話を聞かせてくれ!」

 

———この世に平和や平等なんてものは存在しない。必ず世界のどこかでは争いがあり、その数以上の悲しみが存在している。しかしそんな世界にも平等に安らぎが訪れる日は、きっと来る。そしてその日が来た暁にはその訪れを

 

「…ああ!もちろんだとも!」


総力を挙げて、歓迎しよう。

 

世界の甲板から 5億の男編 vol.24.5「エレジア-ファン達の語らい-」

 

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