『世界のつづき』
〜フーシャ村 エース出港よりしばらく〜
「ゴムゴムの〜銃!!」
「よし、次はバズーカの…」
『━━━━』
「…ん?」
遠くで岩の砕ける音がした。先に来たルフィが修行してる方はあっちだろう。
マキノさんからの差し入れと特訓用の棒を横に起き、海に向かって鼻歌を奏でていたときだった。
「ウタ!来てたのか!」
「あァ、ルフィ。よく分かったね。」
「なんか聞こえた気がしたからよ!お前の歌かなって!」
まさか聞こえていたのだろうか。大した地獄耳である。
「私も特訓しよっかなって。」
「よし、じゃあ勝負しようぜ!」
「なに?またへなちょこグルグルパンチ?」
「なんだと!?今のおれのパンチはピストルみたいになァ!」
面白いくらいルフィは張り合ってくる。
岩を砕くパンチなど既にピストルよりよほど強いだろう。
「はいはい…少し待っててくれる?」
「ん?おう…どうかしたのか?」
「別に?ただ…なんだかんだ、もう7年なんだなって…」
そう言って海を見る。この村から父達が出航してから随分と時間がたった。
「エースもとうとう先に行っちまったしな。」
つい先日、ルフィの義兄弟のエースもまた海に出た。
いつか、海賊として海で再会することになるのだろう。
「うん…エース、シャンクスに挨拶しに行くって言ってたよね。」
「あァ、偉大なる航路で会いたいってな」
「……最近、なんだか思い出すことが増えちゃってね…」
『お前ら、俺達のの音楽家が一曲披露してくれるってよ!』
今でも、父たちとの思い出は瞼の裏にはっきり残っている。
「…元気にしてるのかなァ…。」
「シャンクス達ならきっと元気さ!あと3年したら、おれ達も会いに行くんだろ?」
「うん…その時までに立派な海賊になって…今度こそ一緒につれてってもらうんだから!」
自慢の音楽家でもある娘を置いていったケジメはしっかりつけさせてやると、メラメラとやる気を燃え上がらせる。
「俺も早く会いたいなァ、シャンクス!」
「そうだね…!」
ルフィの帽子。
今ではすっかりトレードマークだが、いつの日かあの帽子もシャンクスのもとに帰る日が来るのだろう。
「そういや、さっき歌ってたの聞いたことねえけど新しいやつか?」
「うん…少し思いついただけで、まだ完成してないんだけどね。シャンクス達に会うときまでに完成させて、あの船で披露するんだ。」
「そっか!きっとシャンクス達、すげぇ喜ぶぞ!」
「当たり前!私の成長を間近で見損ねたこと、後悔させてやるんだから!…さ、行こう!今日も私が勝ってやるんだから!」
「お前、今度こそ汚い手なんて引っかからないからな!」
「出た、負け惜しみ〜!」
何度も繰り返したやり取りをしながら山を掛ける。日はまださんさんと輝いている。
〜3年後 エレジア〜
「………明日かァ…」
ひ一人、エレジア城の個室でペンを走らせている。
そのとき、部屋のドアが叩かれた。
「?どうぞ…!」
そこにいたのは仲間との離別とともに再開を果たした、音楽の師のゴードン、そして父シャンクスだった。
「いよいよ明日から修行らしいな」
「うん。ニ年の間に、少しでも鍛えておかないと。」
先日、ルフィから世界に散った仲間達に発信されたメッセージ。2年の時を待ち、シャボンディ諸島に集結する。
今日はその修行の旅の出発前夜だった。
「そうか…本当にシャンクス達が来てくれてよかった…」
「…前はごめんなさい。心配かけちゃって…」
先日、トットムジカのこと、戦争のことで自殺未遂までしてしまい、ゴードンには本当に迷惑をかけてしまった。
「いや…いいんだ。シャンクス…ウタのこと、改めて頼む…」
「そう改まるな。あんたこそ、俺達が来るまでウタを見てくれたお礼をしなければいけないんだ。」
なおも謙遜しようとしたゴードンをシャンクスが手で止める。
「そのくらいにしよう。せっかくの出発前夜だ。少しは3人でゆっくりしよう。いいだろうウタ?」
「うん。私は大歓迎だよ。」
「そうか…では失礼しよう。」
そうして、エレジアでの最後の一夜が始まった。
「明日からしばらくは、まず覇気の修行だな。覇気は洗練しておくに越したことはない。新世界の猛者と戦うなら特にな。」
「そうだね…大将や四皇と戦うなら、絶対に磨かないと…」
シャボンディでの戦いを思い出す。
大将一人に、私達は何もできなかった。冥王レイリーがいなければ、何人も死者がいただろう。
「それとウタウタ…もっと言えば魔王の制御。これも最低半年はかけて身につけさせたい。基本この2つだな。」
「分かった…なんとしてもやりとげないとね。」
「………」
「…?どうしたのゴードン?」
なんとも言えない顔をしていたゴードンに視線を向ける。
「いや…やはり親子だな。シャンクスに再会してから、またとても強い目になっていると思った。」
「…!」
「この島に君が来てから、元気なように見えて目に寂しさがあったが…今は随分…」
「ううん…それは違うよ。」
すぐに否定する。
「何?」
「ルフィが生きてることも、諦めてないことも…この先のために何をするべきなのかも分かった。だから前を向ける…けど…」
『宴だァ〜!!』
『オォ!!』
「それでも…やっぱり寂しさは消えない。」
「…すまないな。」
またゴードンが頭を下げてしまった。
「大丈夫。今会ってもどうにもできないもん。私は今私ができることをやる。それだけだよ。」
「……立派になったな。まだ子供のように感じるのに」
「ちょっと!そりゃそうでしょ!10年立ってるんだよ!?」
「そうか!ハッハハ!」
相変わらず子供扱いだ。腹が立つ。
…でも、なんだか懐かしい。
「…フフ」
「ハハ…ん?ウタ、それは…」
ゴードンが、机の上にあった紙に視線を向ける。
「ん?これ?」
何枚かのそれを手にとって二人に見せる。
「楽譜か…新作か?」
「…うん。3年前から少しずつ、ね…」
「………これは…」
「…フーシャ村にいて、シャンクス達に置いてかれて寂しいとき、その歌を作り始めたんだ…いつか再会したときに聞かせてやろうって。」
「………」
二人とも、黙って聞いてくれている。
「ルフィと一緒に船出して、仲間も少しずつ集まって…赤髪海賊団のことを思い出したら、少しずつ書き足していって…いつか再会したときには完成していると、そう思ってたんだ…」
「……なるほどな。」
納得したかのようにシャンクスが頷く。
「結局完成する前に会っちゃったけどね…けど、結局私は寂しがりみたい」
「…今は、この歌を送る相手が変わったか?」
「……うん。」
今はこの歌を、本当は誰よりも寂しがりな、大事な幼馴染に届けてあげたい。
「そうか…完成するといいな。いや、お前なら出来るか。」
「うん…絶対に作って見せる。」
「…そろそろお開きにしよう。明日から早いからな。」
「うん。…今までありがとう、ゴードン。…例の件も、本当に。」
今日の昼、ゴードンとシャンクスにはあることをお願いしていた。
はっきり言って我儘とも言って良いものだったが、二人とも快く承諾してくれた。
「いや、あれはむしろ私達が例を言わないとだろう。エレジアはきっと再び発展してくれるさ。」
そう言って、ゴードンが改まる。
「…頑張るんだウタ。君の歌は、君達の力になれる。私は信じている。」
「…それじゃあな、おやすみ。」
「うん…おやすみ。」
ふ二人が部屋から退出する。楽譜をとり、机に向き直る。
「……2年……か…」
まだ未完成のこの歌。
だが、この歌の完成は大きな意味を持つ。その思いを胸に、未完成のその歌を口ずさんだ。
『どうしてかわることなく見えた笑顔は
どうしてよせる波に隠れてしまうの』
『またおんなじ歌を歌うたびあなたを想うでしょう』
〜1年後〜
「もうすぐデビューだな、ソウルキング!」
「えぇ、そうですね…わたし緊張で内蔵が」
「内蔵ねぇだろ…そういやこれ知ってるか?」
「?なんですかこれ?貝?」
「TDっていってな。これに音声を録音できるんだが…最近正体不明の歌い手の歌を入れたこれが流行してるんだ。」
「それはすごい!ぜひ聞かせてもらっても?」
「お前に取っちゃライバルになりかねないからな、一応聞いとけ。」
『〜🎶』
「……!!!」
「これが中々のやり手らしくてな…世界各地でブレイク…ってうおぉ!?なに泣いてやがる!?」
「…あぁ、失礼…少し感動で涙が…」
「骨なのにか…負けねぇように気合入れろよ?あともう少し喋り方もな…」
「えぇ…分かってます。」
〜〜
「ハァ…ハァ…撒いたか…?あのクソオカマ共め…!!」
『〜🎶』
「…!?おい、この音楽は…」
「あら、ヴァナタも音楽は好きなの?最近流行中のTDの歌よ。顔も分からぬ不思議ガールが中々凄いわねェ。」
「………へっ…クソすげぇだろ。」
「あら?ヴァナタこのガール知ってるの?」
「教えねェよ、なんだクソ羨ましいか?」
「腹立っチャブル…ところで、ヴァナータぼーっとしてていいの?後ろ来てるわよ?」
「やべっ!………ヘヘ…」
「…不思議な歌ね…あのサボすら引きつける天使とは。」
〜〜
「ふーむ…体に電伝虫…はスーパー上手くいかねェか…」
「おい、その電伝虫、少し返してくれんか?」
「あ?なんだァ?そんな慌てて」
「はやくはやく!」
「しょうがねぇな…ほれ」
『〜🎶』
「!?こりゃあ……」
「歌姫じゃよ。名前はわからんが、最近たまにこうして配信があっての。儂等も楽しんでおるんじゃ。」
「………オォウ…スーパーそうかよ…」
「うわ、滅茶苦茶泣いてる!」
「バッキャロー!泣いてねェやい!…聞いてください、「海賊仁義」!」
「いらんわ!」
〜〜
『〜🎶』
「あら…この歌…」
「ロビンさんも知ってる?最近流行りのTDなの!」
「セイッ!…この歌姫は今世界でかなり人気を上げていてな…革命軍にもファンがいくらかいるらしい。セイッ!」
「でも、結構な売上の割に活動が大きくならないから、そのお金どうしてるんだろうって世界で噂になってるんだよね。」
「………ヘヘッ」
「…またサボ君が不気味に笑ってる…どうしたんだろ?」
「………ふふっ…さぁね?」
〜〜
「うーん…あー上手くいかない!イライラする!」
「どうしたんだい娘さんや。そんなときはこれを」
「あの縄だったらぶっ飛ばすわよ!」
「ち、違う違う!これじゃよ!」
「…?TD?」
『〜🎶』
「…!?ちょっと、これどうしたの!?」
「青海で流行りらしくての?儂も誰が歌っとるのか詳しくは知らんのだが…」
「……!!あの子ったら…もう…」
「…?知り合いなのか?」
「ふふ…さーて、また頑張るわよー!」
「…元気になったならいいか…」
〜〜
「……アチョー…」
「タヌキチー!おやつ食べるかー?」
「あ、ありがとう!少し休憩させてもらうよ!」
『〜🎶』
「…?この歌…どこから…」
「それなら多分あれだど!」
「TD……」
「最近流れてきたんだど!鳥たちも皆この歌がすきなんだど!」
『ゴア〜!』
「そっか…!俺もこの歌大好きだ!…よし!」
〜〜
「ポップグリーンポップグリーン…お、これはまた新種だな…ヘラクレスン、少しいいか?」
「………」
「おいどうし…ってそれ。」
「あぁウソップン、実はニュース・クーが妙なのを落としてな…こんなの見たことも…」
「そりゃTDってやつでな…貸してくれ。ここを押すと…」
『〜🎶』
「…えっ…この歌声…」
「これは歌か?かなり面白いが…ウソップン?」
「…そっか…そういうことなんだな……」
「…?どういうことだんウソップン?なぜ涙目に!?」
「…よーし見てろー!俺も頑張るぞ!」
「ウソップン〜!?待つんだ〜ん!」
〜〜
「煉獄…鬼斬り!」
『キャー!』
「……ロロノア、ゴースト娘が呼んでいる。飯にするぞ。」
「…おう。」
「フンフフン〜♪」
「何だお前、ご機嫌だな。」
「まァな!前から楽しみにしてたもんも来たしよ!」
『〜🎶』
「!こりゃ…」
ペローナ「なんだ知ってるのか?いいよなァこのTDの歌!なんかどっかで聞いたことある気もするけど…」
「………ふむ……どうかしたかロロノア?」
「………別に?さ、メシにしようぜ。」
「お前なぁ!…まぁいいや。」
「…随分、楽しそうだな?」
「……へっ…」
〜〜
「うおおおおおおお!」
「いい感じだな…ん?」
プルルルルル…ガチャ
「私だ、どうかしたか?」
『少しね、ちょっといい? 』
「ん?」
『〜🎶』
「ほォ…!」
『あの子も元気にしてるみたいね…どうする?モンキーちゃんに教えてあげる?』
「いや、問題ない。野暮というものだろう。」
『ふふ。そう、ごめんなさい。それじゃ、モンキーちゃんによろしく。』
ガチャ
「…シャンクスも、寂しがってるだろうな。」
「ゼェ…ゼェ……まだまだ!」
『────』
「…ん?…」
「ルフィ?どうした!次の修行に移るぞ!」
「……おう!レイリー!」
〜〜
「ねェゴードンさん、またお金が届いたわよ。」
「…そうか。どうやら絶好調らしいな。」
「全く、凄いわよ新聞。神秘の歌姫ですっね!」
「…やはり、あの子の歌声は人々を幸せにする力があるな。」
「皆にも早速教えてあげないと!」
「…仲間にも伝わっているといいな…ウタ。」
〜〜
今日のレッドフォース号は静かだ。
私の新聞掲載祝いの宴で、皆寝てしまっている。
私の歌を聞いて、世界のいろんな人が幸せになってくれたのならとても嬉しい。
「…届いたかな、ちゃんと。」
名前を隠し歌姫をすることで、この歌を世界に届けられた。
この私のメッセージを、仲間達は聞いてくれただろうか。
今はただそれを信じ、一年後の再開を夢見る。
『信じてみる信じてみる
この路の果てで手を振る君を
信じてみる信じてみるんだ
この歌は私の歌と
やがて会う君の呼ぶ声と』
「…待っててよね、ルフィ。みんな。」
今度は赤髪海賊団ではなく、麦わらの一味として。
同じ夢のつづきを見るために。
『信じられる信じられる
あの星あかりを海の広さを
信じてみる信じられる
夢の続きでまた会いましょう
暁の輝く今日に』
『信じられる信じられる
あの星あかりを海の広さを
信じてみる信じられる
夢のつづきで共に生きよう』
『暁の輝く今日に』