不釣り合いな対価

不釣り合いな対価


1週間『良い子』でいたら遺品を返してくれるネタでちょっとした話

監禁前期~中期ぐらいなのでまだ反抗心があるIFロー








冷たくボロボロで血や泥で汚れた衣服、20の宝石、白い毛皮

1本しかない腕じゃ全部は抱き抱えられないが、それでも必死に拾い上げて抱きしめた






「『良い子』にしてたら1週間の内1日、そうだな20分だけ返してやるよ」


そんなふざけたゲームを持ち出されたのが1週間前

それは一体どんな気まぐれかは分からないが、俺が条件を満たせば一時的にクルーの遺品や遺骨を使って作られた宝石を返してやると言い出してきた


1週間の対価がたったの20分


割に合わない

馬鹿げてる

どう考えたって可笑しい


だから何だ


分かってる、そんな事は百も承知だ

そもそも言う通りにして本当にあいつ等の遺品が戻ってくるとは限らない

だが万が一にも可能性があるなら掴みに行く


「……分かった」


だから俺は二つ返事でその提案を呑んだ


あいつの言う『良い子』の定義が何なのかは分からない

だから思いつく限りの事はした


呼び方を「ドフラミンゴ」から愛称の「ドフィ」に変えた

口調も大人しい物を使うように意識した

添い寝だって俺の方から頼んだ

食事だってあいつが手ずから食わせてくる物だけを食べた

媚びた

とにかく思いつく限りの言葉で媚びた


何度も吐きそうになりながら必死に耐えた

時々我慢しきれずに嘔吐したが、連日の俺の態度の関係か折檻は無かった。その事を僅かでも喜んだ自分を殴りたくなったがな


(けど、あと1日)


今日を越えればあの提案から1週間

正直不安の方が大きい

本当に返してくれるのか?

適当なことを言って日数を延ばしてきたら?


嫌だ


怖い


「どうした?随分浮かない顔だなァ?」

「!」


1人で部屋で特に何をするでもなく鳥籠の中で格子に寄りかかっていたら、いつの間にか部屋に入って来ていたらしいドフラミンゴが目の前に立っていた

少しずつ鳥籠ごと床に降ろされ外に出されると、ドフラミンゴは俺の前に袋を落とした


「ぁ……」


何てことないただの白い布で作られた袋

値打ちも大した事ないであろうその袋の中身が何なのか俺にはすぐに理解出来た


「あぁ……!!」


すぐに手を伸ばして袋を掴もうとするとドフラミンゴに先に拾われた


「フッフッフ、まァ待て、その腕じゃろくに取り出せねェだろ?」


そう言って袋をひっくり返して中身を全て床に落としてきた

傷だらけで血と泥で汚れた、クルー全員分のツナギ

遺骨を加工して作られた宝石

シロクマの毛皮

無我夢中で掻き抱いた


「あ、あぁ!!」


やっと、やっとまた触れられた

少しの時間でも良い、また抱き締められた。その事実が嬉しくて気が付いたら涙が流れていた

1週間堪え忍んだ甲斐があった、良くやったと自分を褒めたい気分だ

出来る事ならもう離したくない、ずっとこのままこうして抱き締めていたい

だが、そんな時間はすぐに過ぎていった


「おっと、そろそろ時間だ」


その言葉と共に、自分の意思とは全く無関係に腕が動き、抱き締めていたクルーの遺品を離してしまった

そうして床に落ちた遺品達を、ドフラミンゴは持って来た袋の中にしまっていく


「待て…待って。もう少し、あと少しで良い、から……まだ連れて行かないで」


分かってる、こんな風に縋った所で最初に20分と提示されてそれを呑んだのは俺自身。もっと交渉していなかった俺の落ち度だ

だけど、それでももう少しだけ一緒に居させてほしいと思っても良いだろう?

俺の必死の願いにドフラミンゴはいつもの笑みを浮かべる


「また来週な。それまで『良い子』にしてろよ?」


それだけ言ってまた俺を鳥籠に閉じ込めて遺品を持って部屋を出て行ってしまった

1週間、またあいつに媚びる日々がやってくる

だが、それでも約束通り遺品を一時的にとは言え返してきた


(その事実だけで充分耐えられる)



毎週必死に媚びた


その対価としてあいつは俺に遺品を返してきた


(たった20分……)


大丈夫、俺は大丈夫


あいつ等にまた会えるなら、俺はどれだけ屈辱的でも割に合わなくてもやってやる


大丈夫、俺はまだ大丈夫


お前は俺を憔悴させるのが目的だろうが、生憎と明確な目的がある俺にそんなもん一切通じねェよ



大丈夫




大丈夫……





「そろそろ遺品を返すのも終わりにするか」




突然の宣告だった

一瞬こいつが何の話をしているのか理解出来なかった

いや、理解したくなかった


「そ、んな……」


ずっと必死に媚びていた

本当は心底嫌だったし、一日だってそんな事はしたくなかった

だがあいつ等にまた会えるから、これを逃したら他にまた遺品に触れる機会が巡ってくる可能性が無いから、だから頑張った


「待ッ…頼……や、お願いします……」


勝手に涙が溢れてきた


「何が嫌だった……?」


痛む体を動かしてドフラミンゴの脚に手を伸ばした


「ちゃんと、ちゃんと直すからッ…終わらせないで……頼むから……!!」


必死に縋った

返せ、連れて行くな

ただでさえお前は俺の恩人を、仲間を殺したんだ


これ以上俺から大切な物を取り上げるんじゃねェ!


俺の必死の問い掛けに対し、ドフラミンゴはいつも通りに笑った


「何が?か。大した理由は無ェよ。強いて言うならそうだな、媚びてばかりもつまらねェと思ったんだよ」


「…………は」


そんな理由?


そんな理由で俺の唯一の希望が砕かれるのか?


そんな理由で俺はまたあいつ等に会えなくなるのか?




だが、心の何処かで分かっていた


あいつが気まぐれで始めた事は、あいつの気まぐれで突然終わるんだ




それでも嫌だ


そんなの嫌だ







「ドフラミンゴォぉおおおおおお!!!!」






ならせめて俺の怒りを知れ

ならせめて俺の悲しみを知れ

そしてあわよくば死ね


そんな感情をぶつけるように俺はドフラミンゴに飛び掛かった


「フッフッフ、何だまだそれだけ動けたのか。だがな、うるせェよ、ロー」


だが無情にもさしたる攻撃も出来ずに、ドフラミンゴの蹴り一発、それが鳩尾に入って俺は簡単に蹴り飛ばされた

壁に激突し、視界がぼやけるのと同時に暗くなる




ごめん




また、何も出来なかった……





遠のく意識の中、俺はクルー達に謝る事しか出来なかった



Report Page