不義ならぬ密会

不義ならぬ密会


深夜、藤丸立香のマイルームに訪れる影があった。


「…入っていいよ」


立香の許可と共に入室してきたのは、青い肌に扇情的な姿、そして(完全な実体ではないとはいえ)5対の腕を持つ女神、カーリーだ。しかし、その顔は普段と違いフードで隠されている。


「今日はその姿なんだ、カー…」

「まっ、待て……待って、ください」

「ふふ、どうしたの?」


いつものように、懇願したりからかったりするやり取り。これもこういう特殊な夜におけるお約束、彩りだ。


「……。…今だけは……今だけは、『パールヴァティー』と呼んでください…」


その声音は、普段よりも高かった。どこかパールヴァティーを思わせる柔和さだが、別に彼女はおかしくなった訳ではない。そういう体裁、というだけだ。


「…分かった。じゃあ行こうか、“パールヴァティー”」

「っ! …はいっ♥ “あなた”♥」


───神話に曰く。パールヴァティーの肌は、シヴァに非難されるまで黒かったという。

シヴァに非難され、己の肌を恥じたパールヴァティーは森に籠もって苦行を開始。それを哀れんだブラフマーが彼女の肌を金色に変えたという。…この時の彼女の黒い肌が、カーリーになったとする説もある(インドの神性を絵画で表現する時、黒は青として表現されることが多い)。

つまり、つまりだ。彼女は、シヴァに否定されたものを肯定してもらいたいのだ。


(…それにしても)


立香が腕に抱きつくカーリーを見て、思う。


(…カーリーなのは丸わかりなんだよなぁ…)


そう。フードで隠されているのは目元だけ、それ以外は丸見えなのだ。

被覆面積の少ない銀の衣装も、それに彩られた青い素肌も、5対の腕もだ。これで「カーリーじゃありません」は、プレイでもない限り通らないだろう。しかし、夫である立香相手なら何も問題はない。


(まあ、そういうところが可愛いんだけど)


立香は、他の妻に引けを取らない程カーリーに入れ込んでいたのだから。

こうして、カーリーはベッドへと連れ込まれていくのだった。


───


「んっ…♥ ちゅ…♥ んぷ……ん…♥」


フードだけを被った裸のカーリーが、全裸となり男根(リンガ)を屹立させた立香と深いキスを交わす。乙女そのものといった彼女の表情はフードに覆い隠されており、立香以外誰もその表情を伺い知ることはできない。勿論、シヴァも含めて。


「…ん、ぷはぁっ…♥♥」


キスを終え、二人してベッドに転がる。

そして始まった立香の愛撫は、カーリーを蕩かすのに十分な技巧を誇っていた。

立香の指が、巧みな動きで膣(ヨニ)を解す。いやらしい蜜がヨニから溢れ、カーリーの青い太腿を伝う。立香が指を引き抜く頃には、カーリーはもう辛抱たまらないといった様子だった。

カーリーは期待で震える足を動かし、ベッドに仰向けとなった立香に跨がった。屹立するリンガの先を、自らのヨニの入り口に触れ合わせるカーリー。その表情は興奮に染まりきっている。


「ぅあっ♥ あぁ…♥♥」


ぬぷり♥ と性器同士が軽いキスを交わす。カーリーはそれだけでくらくらするような快感と幸福感を覚えた。


(駄目、だ…♥ 腰が、進まぬぅ…♥)

「…“パール”、ごめん」

「ふぇ…? …ぉ゛ッッ♥♥♥」


カーリーの喘ぎ声の正体。それは焦らすような快感に耐えかねた立香が、カーリーの腰を掴んでリンガを突き入れたことによるものだ。


(ぁ……立香…♥ 立香立香立香ぁ…♥)

 

たった一突きでこの多幸感。やはり立香との交合は“正しい”。二度目の生でシヴァではなく立香を選んだのは“正しかった”。カーリーは心の底からそう思った。

だって、今の自分は混ざり物だ。神格としても依代としても完全ではないのだから、何かしらのイレギュラーは起こって然るべきだろう。だから、これは正しいのだ。


「ぁ…っ♥ あっ♥ ァあッ♥ あああっ♥♥♥」


立香が荒々しく腰を突き上げる。自分は夫なのだから、カーリーのヨニを支配する正当な権利がある。そう声高に叫ぶようなセックスだった。

どちゅどちゅと子宮口が小突かれる度、カーリーは銀の髪を振り乱して喘いだ。まるで踊るようなそれが呼ぶのは、終末ではなく二人の子供だ。


(…他の者にも、こんな風に出会う“もうひとつの運命”が存在するのだろうか)


───誰が言ったかは不明だし重要でもないが、曰く。『藤丸立香と“サクラ”の概念を持つものは相性が良い』という。


ある世界の藤丸立香とメルトリリスは、心身共に繋がった末に「繋いだ心は離れない」と断言した。


ある世界の藤丸立香とカーマ/マーラは、「愛する者とのまぐわいこそ仏道無上誓願成(ぶつどうむじょうせいがんじょう)、大いなる悟りに至る道なのだ」と言う答えを出した。


またある世界では、立香がメルトとカーマ二人と愛し合う、ある意味での奇跡を成し遂げていた。


そして、この世界。この世界においてもその相性の良さは健在である。かなり歪んだ形での発露ではあるが。

パールヴァティー・ドゥルガー・カーリーは藤丸立香に仲間意識以上のものを抱いてしまった。依代と混ざって本来のそれから乖離した状態で、それは致命的だった。

彼と共に戦って、“恋”をして、その果てに身も心もひとつに重なった。やましい部分なんてどこにもない。パールヴァティーも、ドゥルガーも、心の底からそう思っている。


「カーリーッ…! 締めつけすごっ…!!」

「んうっ♥ おぐっ♥♥ すごいっ、しゅごいぃ…♥♥♥ すきっ♥ しゅき♥♥ 貴方がいちばんすきですぅっ♥♥♥」


カーリーが5対の腕で立香に触れる。依代元々の両腕は立香の頬を撫で、別の1対は立香の手を恋人繋ぎで握った。残りの3対は立香の肌を愛撫することに終始した。


「…だったら……オレの赤ちゃん産んでほしい…! 戦いが終わった後も受肉して、オレの妻でいてほしい!!」

「は、いぃっ♥ 私、産みますっ♥ シヴァじゃなくて、立香の赤ちゃん産みますぅっ♥♥♥ 一緒に平和な日常に行きたいっ♥ 私もパールヴァティーとドゥルガーみたいに、愛されたいんですっ♥♥♥」


破壊と殺戮の化身であるカーリーがあり得ないことを言う。が、従来の在り方から変化しつつあるのだから仕方ないと言える変化だろう。立香の上で踊るダンスが淫らなものでしかないことが何よりの証拠だ。


「カーリー、カーリー…!」

「ぁんっ♥♥ ぁっ、はぁん♥♥♥」


淫らなダンスはその勢いを増していく。破壊でも終末でもなく、絶頂に二人を導くために。

カーリーと“依代”にとって、それは幸せな時間だった。

勝利と血に酔った時よりも。/この世全ての悪と同調した時よりも。

シヴァと共に在った時よりも。/■■に雨の中抱き締められた時よりも。


(女神(われ)は……いや、女神(われ)もパールヴァティーもドゥルガーも、そして“私”もおかしいのだろう。神格として、依代として。種を蒔いて、春を待つことをやめたのだから…)

「…“カーリー”。オレのこと、好き?」

「ッ♥ …♥ …ああ、汝が好きだ♥ 我が夫として、誰より何より愛しているっ♥♥ だから、だからっ♥ 汝の欲望(カーマ)を女神(われ)にくれ♥♥♥ 立香ぁっ♥♥♥」


カーリーが立香の逞しい身体に抱きつき、深い深いキスを捧げる。胸板に潰された乳房がむにゅりと形を変え、そして。


「「───────♥♥♥♥♥♥♥」」


二人は絶頂した。

フードによって、またしてもカーリーの表情は見えない。その表情を見れるのは夫である立香だけだ。


(立香が、女神(われ)の全てを満たしていく…♥ 女神(われ)はもう、身も心も立香のものだ…♥♥♥)


立香とカーリーに後悔はない。確かに存在する愛を育てていくことに、どうして後悔しなければならないのか。

シヴァのいない夜が更けていく。けれど、カーリーの胸に寂しさは微塵もない。


───カーリーは今、幸せなのだから。

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